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王の取り計らい

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私が倒れてから三日後、ようやくサハルから薬が届けられた。

「さあ、チナ。薬を飲んで。」

アムジャドから薬を渡されても、喉が痛くて、飲む気がしない。

「チナ。どうした?薬を飲まないと、治らないよ。」

「うん……」

目を半分開け、遠くを見つめる私を、アムジャドは抱き起してくれて、口移しで薬を飲ませてくれた。

「ん?」

ゴクンと薬を飲んだ私を見て、アムジャドのため息が聞こえる。

「よかった。」

アムジャドに抱き寄せられ、彼の匂いが鼻をくすぐる。

「この2,3日。チナの事ばかり考えていた。チナを失ってしまったら、僕は生きていけない。」

私の頬に、アムジャドの涙が落ちてきた。

「チナ。もう僕は、チナのいない世界に戻りたくない。一緒に暮らそう。僕は、皇太子の座を降りるよ。」

「アムジャド……」

「静かな場所に移って、僕達だけで暮らすんだ。その方がいい。」

「待って。アムジャド。」

私はアムジャドの頬に流れる涙を拭った。

「私達には、私達にしかできない仕事があるわ。それを投げだすなんて、できない。」

「僕には、弟がいる。弟に皇太子を譲ればいいんだ。」

「ダメよ。アムジャドにしか、できない事よ。この国の人達の為に、皇太子の座を降りては駄目。」


みんな、アムジャドがこの国の王になる事を、待ち望んでいる。

この国は、アムジャドを必要としている。

それを変えてはいけない。


「私こそ、王妃の座を辞退する。医者をやりながら王妃もやるなんて、私には無理だもの。」

「駄目だ、駄目だ。チナ以外の妻なんて、僕には必要ない!」

こんなに弱々しいアムジャドを見るのは、初めてだった。

まるで、母親に捨てられるのを恐れている子供みたいだ。

「アムジャド。泣かないで。私、必ず病気を治すから。そうしたらまた、一緒にいたい。」

「約束だよ、チナ。僕を一人置いて、逝ってしまったら駄目だ。」

アムジャドの私を抱きしめる力が、強くなる。

「アムジャド。これ以上ここにいたら、病気が移ってしまうわ。」

「チナの移されるのなら、本望だよ。」

アムジャドが私を見つめる。

「チナ。どうして僕は、こんなにもチナを愛しているだろう。」

「えっ?」

「君に会うまで、僕は孤独だった。どんな人と付き合おうと、僕の孤独を満たしてくれる人はいなかった。君だけだ。一緒にいると僕がこの世に生まれてきた意味を思い知らされる。」

アムジャドは、私の額にキスをした。

「チナ。僕はチナと出会う為に、この世に生まれてきたんだよ。チナもそうであって欲しいな。」

私は、クスッと笑った。

「聞くまでもないでしょう?」

「チナ?」

「私もあなたに会う為に、この世に生まれた。じゃなきゃ、日本を離れて、中東に来ないわよ。」

自分が病気である事も忘れ、私達はずっと抱きしめ合っていた。


アムジャドが看病してくれたおかげで、翌日には病気も治っていた。

「どう?チナ。今日の体調は。」

「悪くはないわ。アムジャド。あなたのおかげよ。」

私達は我慢していたキスをしようと、顔を近づけた。

その時だった。

「お邪魔するよ。」

扉が開いて、国王が私の部屋へ現れた。」

「おっ、本当に邪魔をしてしまったか。」

「父上……」

4日振りのキスをお預けされ、アムジャドはムスッとしている。

「今日、この部屋を訪れたのは、他でもない。二人の処遇についてだ。」

「私達の?」

アムジャドが隣に座り、私の手を握ってくれた。

「チナは、この国のお抱え医師を望んでいたな。」

「はい。」

「今回のサハルでの一件、チナ達日本人医師には、心から感謝している。そのお礼をとして、チナとDrツダを、この国のお抱え医師として迎えようと思う。」

「国王……それでは、私達もモルテザー王国公認の医師として、働けるのですね。」

「ああ。こちらこそ、お願いしたいくらいだ。」

私は喜びの涙を流した。


「そしてもう一つ、二人の事だ。」

「はい。」

アムジャドが改めて座り直した。

「チナを、アムジャドの妃に迎え、将来の王妃としての仕事を任せようと思う。」

「父上!」

アムジャドは立ち上がり、顔を覆った。

まるで神に感謝しているようだった。

「チナの、アムジャドへの想い。そしてアムジャドのチナへの愛。二つとも別つ事ができないものだと、判断した。これからは、公に夫婦として一緒に暮らせばよい。」

「ありがとうございます。父上。」

「国王。なんてお礼を申し上げれば……」

泣きじゃくる私に、国王は微笑んでくれた。

「礼は、これからの役目を果たしてくれれば、それでいい。それよりも一人の親として、アムジャドを愛してくれた事。感謝しても感謝しきれない。」
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