56 / 62
初恋なの
④
しおりを挟む
そして扉はアムジャドを吸い込み、容赦なく音を立てて閉じてしまった。
「そんな……」
その晩の夜は、悲しみで一睡もできなかった。
翌日。大きな欠伸をした私に、津田先生が笑った。
「よく眠れなかったのかい?」
「実は……」
頬をピシャッと叩いた私の隣に、津田先生が座った。
「アムジャドと喧嘩でもしたの?」
私は返事をしなかった。
「なあ、千奈ちゃん。この国に来て、本当に幸せか?」
私は津田先生の方を見た。
「なんだかこの国に来てから、千奈ちゃんの笑顔が減った気がするよ。」
「それ、アムジャドにも言われました。」
悩むってそんなに悪い事なのかな。
「ちゃんと息抜きしてる?患者さんの事を考えるのは、医者の仕事だけど、それだけでは潰れてしまうよ?」
「はい……」
分かっている。分かっているけれども、何が今の最善なのか、私には分かっていない。
「千奈ちゃん。思い切って、俺のところに来いよ。」
私は津田先生の方を向いた。
「結婚しよう。俺が千奈ちゃんを、幸せにする。毎日笑顔にするよ。」
「先生……」
蘇る。先生と一緒にいた時間。
毎日のようにお弁当を作って、二人でベンチに座って食べて、笑い合っていたあの日。
「って、これで2回目か。千奈ちゃんにプロポーズするの。」
そう言って津田先生は、笑っていた。
アムジャドだって、仕事で悩んでいるかなのか、いつも疲れたような顔をしている。
私だって、仕事の事で悩んで、難しい顔をしていた。
二人で、笑顔が無くなっていた。
今の津田先生みたいに、どっちかが笑っていたら?
もう一方は励まされ、もう一方は癒されるだろう。
それに気づいた私の目からは、涙が流れていた。
「千奈ちゃん?」
「ごめんなさい。津田先生。私、先生とは結婚できない。」
私が、アムジャドを癒すべきだった。
笑顔でアムジャドを迎えるべきだった。
「もう一度、考え直してくれないか?現に今、アムジャドの事で、千奈ちゃん泣いてるじゃないか。」
「これは、自分がなんて馬鹿だったんだろうって。反省の涙です。」
私は涙を拭った。
「どうしてそこまで、アムジャドに拘るんだ。」
「えっ?」
「アムジャドは、千奈ちゃんがこんなに苦労している事、知っているのか?」
私は返事できなかった。
「俺だったら、苦労させない。同じ医者だ。千奈ちゃんの悩みも一緒に解決できる。」
今回の津田先生は、情熱的だ。
「……先生の言う通りだと思います。」
「だったら!」
「でも、アムジャドじゃないと、駄目なんです。」
そうなんだ。
アムジャドじゃないと、一緒に笑えない。
苦しみも悲しみも、分け合える事もできない。
「私にとってアムジャドは、初恋の人だから。」
「千奈ちゃん……」
「相談に乗って頂いて、ありがとうございました。アムジャドと仲直りしてみます。」
このまま別れるなんて、私は嫌だ。
またやり直したい。
アムジャドと、まだ一緒にいたい。
私は仕事が終わって、宮殿に帰ると、アムジャドが来るのを待っていた。
すると階段を昇ってくるアムジャドが見えた。
「アムジャド。」
「チナ……」
ゆっくりと私の元に来てくれるアムジャド。
「どうしたんだ?こんなところで、僕を待っているなんて。」
「だって今日は、ジャミレトさんの部屋に行く日だから。」
私は息を大きく吸った。
「昨日の夜は、ごめんなさい。私が悪かったわ。」
「いや、いいんだ。」
「ううん。アムジャドが疲れて帰って来た時に、私が笑顔で迎えてあげなきゃ、いけなかったのよ。」
するとアムジャドは、私を抱き寄せてくれた。
「あれから、僕も考えた。チナと同じ考えだ。僕がチナを笑顔にさせるべきだったんだ。」
そんな言葉を聞いて、私は笑ってしまった。
「私達、喧嘩しても同じ事考えていたのね。」
「ああ、そうみたいだ。」
そしてアムジャドは、私を見つめてくれた。
「チナだって仕事を持っているんだ。疲れて帰ってくるのは、お互い様だね。だからこそ二人でいる時は、笑顔でいよう。もちろん僕は誓うよ。チナと一緒にいると言う事は、チナの仕事も受け入れるって事だからね。」
「私も誓うわ。私がアムジャドの癒しになるように。」
互いの顔が近づいて、私達はキスを交わした。
それを見ていた女中達が、はぁっとため息をつく。
「お二人の仲睦まじい事。」
「本当に。愛し合っているのですね。」
私とアムジャドは、微笑んで見せた。
「さあ。分かったところで、ジャミレトには今夜は、遠慮してもらおう。」
「ええ?」
「今夜は、僕達が愛し合うんだからね。」
私はアムジャドの腕を掴んだ。
「そんな……」
その晩の夜は、悲しみで一睡もできなかった。
翌日。大きな欠伸をした私に、津田先生が笑った。
「よく眠れなかったのかい?」
「実は……」
頬をピシャッと叩いた私の隣に、津田先生が座った。
「アムジャドと喧嘩でもしたの?」
私は返事をしなかった。
「なあ、千奈ちゃん。この国に来て、本当に幸せか?」
私は津田先生の方を見た。
「なんだかこの国に来てから、千奈ちゃんの笑顔が減った気がするよ。」
「それ、アムジャドにも言われました。」
悩むってそんなに悪い事なのかな。
「ちゃんと息抜きしてる?患者さんの事を考えるのは、医者の仕事だけど、それだけでは潰れてしまうよ?」
「はい……」
分かっている。分かっているけれども、何が今の最善なのか、私には分かっていない。
「千奈ちゃん。思い切って、俺のところに来いよ。」
私は津田先生の方を向いた。
「結婚しよう。俺が千奈ちゃんを、幸せにする。毎日笑顔にするよ。」
「先生……」
蘇る。先生と一緒にいた時間。
毎日のようにお弁当を作って、二人でベンチに座って食べて、笑い合っていたあの日。
「って、これで2回目か。千奈ちゃんにプロポーズするの。」
そう言って津田先生は、笑っていた。
アムジャドだって、仕事で悩んでいるかなのか、いつも疲れたような顔をしている。
私だって、仕事の事で悩んで、難しい顔をしていた。
二人で、笑顔が無くなっていた。
今の津田先生みたいに、どっちかが笑っていたら?
もう一方は励まされ、もう一方は癒されるだろう。
それに気づいた私の目からは、涙が流れていた。
「千奈ちゃん?」
「ごめんなさい。津田先生。私、先生とは結婚できない。」
私が、アムジャドを癒すべきだった。
笑顔でアムジャドを迎えるべきだった。
「もう一度、考え直してくれないか?現に今、アムジャドの事で、千奈ちゃん泣いてるじゃないか。」
「これは、自分がなんて馬鹿だったんだろうって。反省の涙です。」
私は涙を拭った。
「どうしてそこまで、アムジャドに拘るんだ。」
「えっ?」
「アムジャドは、千奈ちゃんがこんなに苦労している事、知っているのか?」
私は返事できなかった。
「俺だったら、苦労させない。同じ医者だ。千奈ちゃんの悩みも一緒に解決できる。」
今回の津田先生は、情熱的だ。
「……先生の言う通りだと思います。」
「だったら!」
「でも、アムジャドじゃないと、駄目なんです。」
そうなんだ。
アムジャドじゃないと、一緒に笑えない。
苦しみも悲しみも、分け合える事もできない。
「私にとってアムジャドは、初恋の人だから。」
「千奈ちゃん……」
「相談に乗って頂いて、ありがとうございました。アムジャドと仲直りしてみます。」
このまま別れるなんて、私は嫌だ。
またやり直したい。
アムジャドと、まだ一緒にいたい。
私は仕事が終わって、宮殿に帰ると、アムジャドが来るのを待っていた。
すると階段を昇ってくるアムジャドが見えた。
「アムジャド。」
「チナ……」
ゆっくりと私の元に来てくれるアムジャド。
「どうしたんだ?こんなところで、僕を待っているなんて。」
「だって今日は、ジャミレトさんの部屋に行く日だから。」
私は息を大きく吸った。
「昨日の夜は、ごめんなさい。私が悪かったわ。」
「いや、いいんだ。」
「ううん。アムジャドが疲れて帰って来た時に、私が笑顔で迎えてあげなきゃ、いけなかったのよ。」
するとアムジャドは、私を抱き寄せてくれた。
「あれから、僕も考えた。チナと同じ考えだ。僕がチナを笑顔にさせるべきだったんだ。」
そんな言葉を聞いて、私は笑ってしまった。
「私達、喧嘩しても同じ事考えていたのね。」
「ああ、そうみたいだ。」
そしてアムジャドは、私を見つめてくれた。
「チナだって仕事を持っているんだ。疲れて帰ってくるのは、お互い様だね。だからこそ二人でいる時は、笑顔でいよう。もちろん僕は誓うよ。チナと一緒にいると言う事は、チナの仕事も受け入れるって事だからね。」
「私も誓うわ。私がアムジャドの癒しになるように。」
互いの顔が近づいて、私達はキスを交わした。
それを見ていた女中達が、はぁっとため息をつく。
「お二人の仲睦まじい事。」
「本当に。愛し合っているのですね。」
私とアムジャドは、微笑んで見せた。
「さあ。分かったところで、ジャミレトには今夜は、遠慮してもらおう。」
「ええ?」
「今夜は、僕達が愛し合うんだからね。」
私はアムジャドの腕を掴んだ。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛
冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる