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会ってくれないか

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知っていて、会いたいと言っている。

「アムジャド。」

私は立ち眩みがして、その場に座ってしまった。

「チナ。」

直ぐにアムジャドが、ベッドに運んでくれて助かったけれど、一人だったら、どうしたらいいか分からなかった。

「どうなさるんですか?皇太子。」

「父王の望みは、なるべく叶えてやりたい。それが皇太子である僕の仕事だ。だが、肝心のチナはこの通りだ。僕はチナの気持ちも、大切にしたい。」

「かしこまりました。父王様には、直ぐには無理だと申しておきます。」

「宜しく。」

「はい。」

イマードさんは、テントの中から出て行ってしまった。

「イマードさんは今、アムジャドの側にいないのね。」

「僕がこの町に来ている間、宮殿の事を任せているんだ。」

イマードさんは、私をこのモルテザー王国に連れて来たくはなかったはずだ。

それは、私がアムジャドの奥さんになっては、困るから。

「イマードさんは、私達を引き裂いたわ。」

「分かっている。帰国後しばらくは、イマードと話す事はしなかった。」

あんな仲の良かった二人が、口も利かなったなんて。

胸が痛い。

「だがイマードは、私の肩腕なんだ。そこは分かってほしい。」

「うん。」

そして何を血迷ったのか、アムジャドの腕を握った。

「ねえ、イマードさんと私、どっちが大切?」

「チナ……」

「解ってる!イマードさんだって事ぐらい!でも、イマードさんがどうしても私と結婚するのは駄目だって言ったら、どうするの?」

アムジャドは、腕から私の手を取って、逆にその手を握ってくれた。

「その時は、何としてでもイマードを説得するよ。」

「アムジャド。」

「チナは全然わかっていない。僕には、チナしかいないんだって事が。」

私達は微笑み合って、キスをした。

私にも、アムジャドしかいない。

それはアムジャドも同じだってこと、いい加減に気づかないと。

「またアムジャドに、元気貰っちゃった。」

「いつでも言ってくれ。チナに元気を与えるのは、私の役割だ。」

「うん。」

私は体を起こすと、アムジャドの目の前に立った。

「私、アムジャドのお父さんに会うわ。」

「チナ。本当か?」

「うん。だってアムジャドのお父さんだもん。私がアムジャドと結婚するのは、どうしても会わなきゃならない人でしょ?それに、医師として働く事も、認めて貰わなきゃ。」

「その通りだ。」

私とアムジャドは、両手を合わせた。

「さすがだ。」

「えっ?」

「チナは、どんどん強くなっていく。魅力的な女性になっていってるよ。」

「ええ?」

魅力的な女性だなんて、日本の男性は言ってくれないだろうなぁ。

ははは。逆に照れちゃう。

「益々、誰にも渡したくなくなる。」

アムジャドは、私の手の甲にキスを落とした。

「だとしたら、アムジャドの愛のおかげよ。」

「僕の?そうだとしたら、嬉しいな。」

改めて見ると、アムジャドはカッコいいと思う。

こんなカッコいい人に愛されているなんて、私は幸運だと思う。


「じゃあ、いつがいい?あっ、もう2週間しか時間がないんだっけ。」

「そうだな。のん気に考えている時間はない。明日はどうだ?」

「明日!?」

「善は急げというだろう。」

前も思ったけれど、アムジャドって何でそんな難しい言葉、知ってるんだろう。

「よし!明日、宮殿へ行こう。決まりだ。」

アムジャドは、心なしか嬉しそうだった。

そうだよね。自分の好きな人が、父親に会うんだもの。

結婚の第1歩って感じだわ。

「ああ、楽しみだ。きっとチナの事、父王も気に入って下さるはずだ。」

この期待に、何とか応えないとね。


その日の夜は、久しぶりに緊張で眠れなかった。


テントの中でアラブの服に着替えて、途中診療所に立ち寄った。

「なに?父親に会うだと?」

「ヘマするなよ!」

津田先生も土井先生も、励ましてくれているのか、全く解らないひとこと。

「行ってきます。」

「頑張れー!」

私は二人の声援を背に、モルテザー王国の宮殿に向かった。
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