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別れは突然に

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タクシーに乗って、空港までやってきた。

スーツケースを出して、空港の中に入る。

アムジャド、どこにいるんだろう。

空港の中を、少しずつ少しずつ、歩いて行く。

「アムジャド……」

歩いては探し、探しては歩いた。

間違った。

空港のどこにいるか、聞けばよかった。


その時だった。

「チナ様。」

振り返ったら、イマードさんがいた。

「イマードさん!!」

助かった。

イマードさんが見つかったなら、アムジャドもいるはず。

「アムジャドはどこ?どこにいるの?」

「アムジャト様は、今頃空の上です。」

「えっ……」

時が止まった気がした。


アムジャドが、私を待たずに離陸した?

どうして?


「なぜ先に行ったの?」

イマードさんは答えない。

「どうして!?」

涙が浮かんだ。


私を愛してると言ったアムジャドが、何も言わずに私を置いていくはずがない。

「騙したのね。」

「何でしょう。私には身に覚えがありません。」

「嘘!」

私はイマードさんの頬を叩いた。

「こんな短い時間で、ジェット機が飛ぶなんて有り得ない!どこか別の場所にいるんでしょ!?」

「落ち着いて下さい、チナ様。」

「嫌よ!アムジャドはどこにいるの!?」

周りの人が、私とイマードさんを見て行く。

「チナ様!!」

私の体がビクッとなった。

「落ち着いて下さいと、言っているでしょう!」

イマードさんは、私の肩を掴んだ。

「……アムジャド様は、あの後直ぐ、プライベートジェットで、国へ帰って頂きました。」

「プライベートジェット……」

一般庶民には、思いもつかなかった。


「アムジャドには、私がいない事をなんて説明しているの?」

「……後の飛行機で追いつくと言ってあります。」

「そうなの。」

ほっとした。

後で会えると思うなら、安心する。

アムジャド、待っていて!

私は、両手をぎゅっと握った。


「ですが、チナ様には引き返して頂きます。」

「なっ!」

私は首を横に激しく振った。

「どうして?引き返すってどう言う事?アムジャドの側には、行けないの?」

「よく考えて下さい。日本から我が国への直行便はありません。いくつも乗り換えていく費用が、あなたにはありますか?」

私は一歩後ろに下がった。

「それは……」

「アムジャド様が負担すると思っていたのですか?」

よく考えれば、虫のいい話だ。

じゃあ、最初から私は、アムジャドに付いていけなかった?


「チナ様。アムジャド様は、皇太子殿下であらせられます。」

「知っているわ。」

「気安く付き合える方ではありません。」

「分かってる!」

「分かっていません!!」

イマードさんと私は、睨み合った。

「失礼ですが、チナ様は我が国の王妃に、相応しくありません。」

「どうしてよ!」

「日本人だからです。」

胸にグサッと刺さった。

国際結婚の障害?

王妃は、その国の人じゃないとダメだって言うの?

「……じゃあ、妾だったらいいって事?」

「それを勧めましたが、アムジャド様が、それをお許しにはなりませんでした。」


アムジャド……

私の事、王妃にしてくれるっていう気持ち、本当だったのね。

ああ、なんであの時、真っすぐにうんって答えなかったんだろう。


「そうなったら、チナ様に諦めてもらうしかありません。」

イマードさんは、胸のポケットから分厚い封筒を取り出した。

「国王陛下からです。」

「なに?」

「お金が入っています。」

「手切れ金って事!?」

「平たく言えば、そうです。」

私はその封筒を手に取って、床に投げつけた。

「そんなモノ、受け取れる訳ないじゃない!」

イマードさんは、床に落ちた封筒を拾い上げた。

「お気持ちは、察します。」

そう言って、イマードさんは背中を向けた。

「待って!もうアムジャドとは会えないの?」

それでもイマードさんは止まってくれない。

「ねえ、お願い。アムジャドと会わせて!」

その声も虚しく、イマードさんは行ってしまった。

私は、床に膝を着いて、泣き崩れた。
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