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婚約者
④
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私は深呼吸をすると、アムジャドの病室に再び戻った。
そこにはもう、ジャミレトさんの姿はなかった。
「ジャミレトさんは?」
「もう帰ったよ。」
アムジャドは私を見ながら、微笑んでいた。
「チナ。側に来てくれ。」
アムジャドに吸寄せられるようにして、私はアムジャドの手を握った。
「ごめん、チナ。驚かせてしまったね。」
「ううん。私の方こそごめん。大きな声を出してしまって。」
ああ、なんだかアムジャドの顔を見ていると、心が落ち着く。
「チナが病室を出て行った後、僕は寂しさに襲われて、何て事をしてしまったのだと、自分を責めたよ。」
「アムジャド……そんな……」
「チナ。チナだけなんだ。僕が自分自身で選んだのは。」
涙が出そうになった。
こんなにも、私の事を愛してくれる人なんて、他にいるかしら。
「アムジャド。私ね、あなたの側にいられるように、もっと強くなりたいと思った。」
「ああ。」
「でもまだ、足りなかったみたい。婚約者がいるぐらいで、慌てたり大きな声を出したり。」
「当たり前だよ。相手を愛しているなら、当然の行動だ。僕は今回のチナを見て、本当に僕の事を愛してくれているんだと、確信したよ。」
「アムジャド!」
私はアムジャドを抱きしめた。
「ああ、チナ。今直ぐにでも、君を抱きたいよ。」
「私も、アムジャドに抱かれたい。」
その時だった。
イマードさんが、咳払いをした。
「お二人共、ここがどこだか、分かっているのですか。」
「ごめん、イマード。」
アムジャドはクスクス笑っていたけれど、私は顔を真っ赤にしていた。
そんな中で月日は流れ、アムジャドの退院の日がやってきた。
「おめでとうございます、アムジャドさん。」
「また遊びに来てね。」
「待ってますから。」
この短い入院期間中に、アムジャドはすっかり看護師の中で、アイドルになっていた。
「みんな、ありがとう。じゃあ。」
私とアムジャドは、タクシー乗り場に行こうとした。
その時、黒い大きな車が、私達の前に停まった。
「アムジャト様。」
中からはイマードさんが出て来た。
「さあさあ、お乗り下さい。」
イマードさんは、私が持っている荷物を奪って、アムジャドを車の中に入れようとした。
「チナも乗れ。」
アムジャドにそう言われ、ほっとしたのもつかの間。
車の中には、ジャミレトさんも乗っていたからだ。
「チナさん。あなたって、いつでも私の邪魔をするのね。」
ジャミレトさんは、この前の一件で、私を嫌っているらしい。
「大体あなた、私達が来なかったら、どうやって帰っていたの?」
「どうやって……タクシーで。」
「タクシー!?」
ジャミレトさんは、わざと大きな声を出した。
「アムジャド様を普通のタクシーに乗せるだなんて、何かあったらどうする気?」
「ジャミレト。いいんだ。」
アムジャドに言われ、ジャミレトさんは私に意見を言うのを止めた。
イマードさんが言うのは、こう言う事なんだ。
自分の意見を我慢して、アムジャドの言う事に従う。
ジャミレトさんは、それが出来る人。
じゃあ、私は?
自分の意見を我慢してまで、アムジャドに従う事なんて、できるのかしら。
車はあっという間に、学生会館に着いた。
「ありがとう、ジャミレト。」
「いいえ。アムジャド様の元気になられたお姿を拝見して、私もやっと帰国できます。」
「両親には、チナの事。まだ黙っていてくれ。」
「……分かりました。」
そうか。私の事はまだご両親に内緒なんだね。
ちょっと寂しい。
「チナさん。」
「はい?」
ジャミレトさんは、会った時と同じように、無表情で私を見つめた。
「日本にいる間、アムジャド様をお願いします。」
「は、はい!」
私はこの時、自分が認められた気がして、嬉しかった。
「今度は、私達の国でお会いしましょう。勝負はそこからよ。」
「えっ……」
車のドアがバタンと閉まり、ジャミレトさんは行ってしまった。
「勝負?えっ?」
そんな私をアムジャドは、笑って見ていたのだった。
そこにはもう、ジャミレトさんの姿はなかった。
「ジャミレトさんは?」
「もう帰ったよ。」
アムジャドは私を見ながら、微笑んでいた。
「チナ。側に来てくれ。」
アムジャドに吸寄せられるようにして、私はアムジャドの手を握った。
「ごめん、チナ。驚かせてしまったね。」
「ううん。私の方こそごめん。大きな声を出してしまって。」
ああ、なんだかアムジャドの顔を見ていると、心が落ち着く。
「チナが病室を出て行った後、僕は寂しさに襲われて、何て事をしてしまったのだと、自分を責めたよ。」
「アムジャド……そんな……」
「チナ。チナだけなんだ。僕が自分自身で選んだのは。」
涙が出そうになった。
こんなにも、私の事を愛してくれる人なんて、他にいるかしら。
「アムジャド。私ね、あなたの側にいられるように、もっと強くなりたいと思った。」
「ああ。」
「でもまだ、足りなかったみたい。婚約者がいるぐらいで、慌てたり大きな声を出したり。」
「当たり前だよ。相手を愛しているなら、当然の行動だ。僕は今回のチナを見て、本当に僕の事を愛してくれているんだと、確信したよ。」
「アムジャド!」
私はアムジャドを抱きしめた。
「ああ、チナ。今直ぐにでも、君を抱きたいよ。」
「私も、アムジャドに抱かれたい。」
その時だった。
イマードさんが、咳払いをした。
「お二人共、ここがどこだか、分かっているのですか。」
「ごめん、イマード。」
アムジャドはクスクス笑っていたけれど、私は顔を真っ赤にしていた。
そんな中で月日は流れ、アムジャドの退院の日がやってきた。
「おめでとうございます、アムジャドさん。」
「また遊びに来てね。」
「待ってますから。」
この短い入院期間中に、アムジャドはすっかり看護師の中で、アイドルになっていた。
「みんな、ありがとう。じゃあ。」
私とアムジャドは、タクシー乗り場に行こうとした。
その時、黒い大きな車が、私達の前に停まった。
「アムジャト様。」
中からはイマードさんが出て来た。
「さあさあ、お乗り下さい。」
イマードさんは、私が持っている荷物を奪って、アムジャドを車の中に入れようとした。
「チナも乗れ。」
アムジャドにそう言われ、ほっとしたのもつかの間。
車の中には、ジャミレトさんも乗っていたからだ。
「チナさん。あなたって、いつでも私の邪魔をするのね。」
ジャミレトさんは、この前の一件で、私を嫌っているらしい。
「大体あなた、私達が来なかったら、どうやって帰っていたの?」
「どうやって……タクシーで。」
「タクシー!?」
ジャミレトさんは、わざと大きな声を出した。
「アムジャド様を普通のタクシーに乗せるだなんて、何かあったらどうする気?」
「ジャミレト。いいんだ。」
アムジャドに言われ、ジャミレトさんは私に意見を言うのを止めた。
イマードさんが言うのは、こう言う事なんだ。
自分の意見を我慢して、アムジャドの言う事に従う。
ジャミレトさんは、それが出来る人。
じゃあ、私は?
自分の意見を我慢してまで、アムジャドに従う事なんて、できるのかしら。
車はあっという間に、学生会館に着いた。
「ありがとう、ジャミレト。」
「いいえ。アムジャド様の元気になられたお姿を拝見して、私もやっと帰国できます。」
「両親には、チナの事。まだ黙っていてくれ。」
「……分かりました。」
そうか。私の事はまだご両親に内緒なんだね。
ちょっと寂しい。
「チナさん。」
「はい?」
ジャミレトさんは、会った時と同じように、無表情で私を見つめた。
「日本にいる間、アムジャド様をお願いします。」
「は、はい!」
私はこの時、自分が認められた気がして、嬉しかった。
「今度は、私達の国でお会いしましょう。勝負はそこからよ。」
「えっ……」
車のドアがバタンと閉まり、ジャミレトさんは行ってしまった。
「勝負?えっ?」
そんな私をアムジャドは、笑って見ていたのだった。
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