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困るんだ

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「チナはそれでいいのか!」

初めてアムジャドに、大きな声を出された。

「……ごめん。出会ったばかりで、気持ちが付いてこれないのは、分かるんだ。」

「そんな事ない。私だって、アムジャドがどこにいても、一緒にいたいよ。でもイマードさんがここまで言うのって、何か理由があるんじゃないの?」

アムジャドは、手で顔を押さえて、顔を横に振った。

「アムジャド?」

「ごめん。今は、ごめんしか言えない。」

きっとアムジャドには秘密があって、それは私に言えない事なのね。

「ううん。気にしないで。今は、アムジャドと一緒にいられれば、それでいいから。」

「チナ……」

ふと隣を見ると、イマードさんが消えていた。

「……アムジャド。イマードさんは、ただの友人?」

アムジャドは、黙っていた。

「アムジャド。あなたに秘密があるのは分かるけれど、その本の一部でも、教えてくれない?」

そう言った時のアムジャドは、苦しい顔をしていた。

「教えられないんだ。父上との約束で。」

「父上?」

今時お父さんの事を、父上と呼ぶだなんて。

もしかしてアムジャドは、偉い人の息子さんなのかな。

一流企業の御曹司とか?

「じゃあ、いつ教えてもらえるの?」

「帰国したら。」

アムジャドは、少し泣きながら微笑んで見せた。

「チナと一緒に国へ戻ったら、何もかも洗いざらい話すよ。」

「うん。約束よ。」

私は、小指を差し出した。

「なに?」

「指切り。」

私はアムジャドの小指に、自分の小指を絡ませた。

「指切りげんまん、お国に戻ったら、何もかも教えてくーれる。指切った。」

「チナ……」

「あっ、これ。約束破ったら、針千本飲まなきゃいけないのよ。」

するとアムジャドは、クスッと笑った。

「それは、破れないな。チナとの約束。」

私もクスッと笑った。

「でしょう?」

私がそう言うと、アムジャドは私の両手を握った。

「僕も約束しよう。国に戻ったら、何もかも話す。」

「うん。」

「何があっても、僕がチナを守る。」

「うん。」

身体がくすぐったくなる。

「そして、一生チナだけを見つめて生きると誓う。」

そしてアムジャドは、私の額に口づけをした。

「僕の国の、約束の仕方だ。」

「ありがとう。」

私はアムジャドの両手を、握り返した。

「約束を破ったら、どうなるの?」

「その必要はない。僕は、約束を破らない。」

びっくりしちゃった。


大した自信だと言うのに、アムジャドがそう言うと、本当に思えてくる。

「アムジャド……私、あなたの事が好きなの。」

「僕もだ。チナが大好きだ。」

「私の事、離さないで。」

「ああ。絶対に離さないよ。」

私がアムジャドに寄ると、彼は私を強く抱きしめてくれた。

不安が少しずつ溶けていく。

この愛さえあれば、大丈夫。

何があっても、乗り越えられる。


「イマードさんには、何て言う?」

私はアムジャドを見上げた。

「今後チナには、何も言わないように伝えておく。」

「うん。」

アムジャドは、私の髪を撫でてくれた。

「私も……アムジャドとは離れないって、イマードさんに言うね。」

「ああ。そうしてくれ。」


私達は、愛し合っている。

それは、何にも代えがたい真実だと思った。


「今日はどこに行く?」

アムジャドは、ニコッと笑った。

「私ね。行きたいパフェのお店があるの。」

「パフェ!?」

アムジャドは、子供のように無邪気な笑顔になった。

「初めてだな。パフェを食べるのは。」

「そうなの?」

「一度食べてみたいと思っていたんだ。まさか日本で、チナと一緒に食べられるとは、思っていなかったな。」

そう言われると、私も嬉しい。

「ここを真っすぐ行った、大通りにあるのよ。」

「よし、行こう。」

私はアムジャドと手を繋ぎながら、大学のキャンパスを出た。


その時だった。

車が私の方へ向かって来た。

「危ない、チナ!」

身体を突き飛ばされ、私は前に倒れ込んだ。

「アムジャド?」

車の先には、倒れて血を流しているアムジャドがいた。

「アムジャド!」

私は急いで、彼の元へ走った。
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