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第2話 連絡先
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そして真っすぐ、給湯室へ。
バケツに新しい水を入れ、雑巾を洗った。
「……っ。」
涙が頬を伝う。
斉藤さんから、井出さんの連絡先を貰った時、井出さんも私の事を?と思った。
私もシンデレラになれるかもしれないって、思った。
でも、そんなのはお伽話の世界だけで、現実にはない。
だって、一億もするようなマンションに住んでいる人が、どうして給湯室で雑巾を洗っているような私と、結婚するの?
身分が違い過ぎるよ。
「ああ、ここにいた。結野ちゃん。」
斉藤さんは、ふふふと笑っている。
「どうだった?社長さんは?」
「はは、まだ電話してないです。仕事していたので。」
「結野ちゃん、気にしないで電話するんだよ。社長って言ったって、ピンキリなんだから。」
どうやら斉藤さんは、井出さんが高級レジデンスに住んでいる事は、知らないみたいだ。
「斉藤さん。井出さんって、ビルから見える高級レジデンスに住んでいるんですって。」
「はあ?あの億するっていうマンション?」
さすがの斉藤さんも、口をあんぐり開いていた。
「私とは、身分が違うんですよ。」
私は、涙を拭いた。
それから私は、朝、井出さんに会わないようにした。
一番最初に井出さんのオフィスを掃除して、その後は一切近寄らないようにした。
「なんかごめんね。私だけが盛り上がっちゃって。」
あれ以来、斉藤さんもあまり井出さんの事を、言ってこなくなった。
「私達は私達の世界があるからね。身の丈に合った世界で、生きていけばいいんだって。」
「はい。」
「おわびに、いい男見つけたら、紹介するからさ。」
「ええ?」
でも今回の件で、より斉藤さんと仲良くなれた気がして、かえって良かったのかもしれない。
問題は、井出さんだった。
私が朝掃除しているのを知っているから、自分のデスクにメモを置いていく。
きっと、前日帰る時に、書いているんだ。
《結野ちゃん。
連絡下さい 待ってます。》
井出さんの連絡先は、申し訳ないけど破って捨ててしまった。
連絡できない。
ううん、連絡しない。
私と井出さんは、たった一度ニアミスしただけ。
ただ、それだけ。
翌週の事だった。
いつも通り、窓のサッシを拭き終わって、給湯室にバケツを持って行くと、そこに井出さんがいた。
「お疲れ様。」
「お疲れ様です。」
さらりと挨拶をして、バケツの水を捨て、新たに水を汲んだ。
「まさか、ここまで無視されるとは、思っていなかったよ。」
「すみません。」
取り敢えず謝って、雑巾を洗い始めた。
「俺、何か悪い事したかな。」
「いいえ。」
「じゃあ、何で連絡くれないの?」
まさか連絡先、捨てたとは言えない。
「久子さんから、貰ったでしょ?俺の連絡先。」
「久子さん?」
私は思わず井出さんの顔を見てしまった。
あっ、やっぱりカッコいい。
「ごめん。仲良くなって下の名前で呼んでいる。」
「別に謝る必要は……」
すると井出さんは、私の顔を覗き込んだ。
「ないかな。ちょっとヤキモチ妬いているように見えるんだけど。」
「それは……」
ハッとした。
自分だって、下の名前で呼ばれているじゃない。
ただ一度、食事をしただけの人に。
井出さんは、そんな気さくな人なんだから!
きっと、他の女性も下の名前で呼んでいるような人なんだろうし。
妬いたって、仕方ないんだから。
「結野ちゃん。俺の事、気に入ってくれているよね。」
「えっ。」
「分かるよ。これでも恋愛経験、積んできたんだから。」
そう言われても、まさかぶっちゃけ”カッコいいと思っています。”なんて言えない。
いや、むしろ逆に、軽くあしらった方がいいのか!
「わ、分かります?井出さん、カッコいいから。」
すると井出さんは、私に顔を近づけた。
「今のはムカついた。からかったでしょ、俺の事。」
「からかってません!」
「じゃあ、本当に俺の事、カッコいいと思ってくれてる?」
まずい。
井出さん、本気だ。
「ごめん。他の女の子には、カッコいいって言われたら、ありがとうって直ぐ返せるんだけど。結野ちゃんにだけは、できなくて。」
「どうしてですか?」
むしろ、他の女の子みたいに、さらりと返してくれればよかったのに。
「結野ちゃんにだけは、本当にカッコいいって、思って欲しいんだよ。」
そして、赤い顔をして井出さんは、横を向いた。
反動で、私も顔が赤くなる。
二人で顔を赤くしている。
なに、この状況!
「本当ごめん。何言ってるんだろうな、俺。結野ちゃんの前では、恥ずかしい事も言えてしまう。」
どうしよう。
こんな事言われるなんて、誤解しちゃうよ。
「本当に……」
「ん?」
「カッコいいと、思っています。」
そしてまたかぁーっと、頬が熱くなった。
「結野ちゃん。って、あっ!」
斉藤さんが井出さんに気づいた。
「ごめんね。気づかなくて。」
「大丈夫ですよ、久子さん。」
バケツに新しい水を入れ、雑巾を洗った。
「……っ。」
涙が頬を伝う。
斉藤さんから、井出さんの連絡先を貰った時、井出さんも私の事を?と思った。
私もシンデレラになれるかもしれないって、思った。
でも、そんなのはお伽話の世界だけで、現実にはない。
だって、一億もするようなマンションに住んでいる人が、どうして給湯室で雑巾を洗っているような私と、結婚するの?
身分が違い過ぎるよ。
「ああ、ここにいた。結野ちゃん。」
斉藤さんは、ふふふと笑っている。
「どうだった?社長さんは?」
「はは、まだ電話してないです。仕事していたので。」
「結野ちゃん、気にしないで電話するんだよ。社長って言ったって、ピンキリなんだから。」
どうやら斉藤さんは、井出さんが高級レジデンスに住んでいる事は、知らないみたいだ。
「斉藤さん。井出さんって、ビルから見える高級レジデンスに住んでいるんですって。」
「はあ?あの億するっていうマンション?」
さすがの斉藤さんも、口をあんぐり開いていた。
「私とは、身分が違うんですよ。」
私は、涙を拭いた。
それから私は、朝、井出さんに会わないようにした。
一番最初に井出さんのオフィスを掃除して、その後は一切近寄らないようにした。
「なんかごめんね。私だけが盛り上がっちゃって。」
あれ以来、斉藤さんもあまり井出さんの事を、言ってこなくなった。
「私達は私達の世界があるからね。身の丈に合った世界で、生きていけばいいんだって。」
「はい。」
「おわびに、いい男見つけたら、紹介するからさ。」
「ええ?」
でも今回の件で、より斉藤さんと仲良くなれた気がして、かえって良かったのかもしれない。
問題は、井出さんだった。
私が朝掃除しているのを知っているから、自分のデスクにメモを置いていく。
きっと、前日帰る時に、書いているんだ。
《結野ちゃん。
連絡下さい 待ってます。》
井出さんの連絡先は、申し訳ないけど破って捨ててしまった。
連絡できない。
ううん、連絡しない。
私と井出さんは、たった一度ニアミスしただけ。
ただ、それだけ。
翌週の事だった。
いつも通り、窓のサッシを拭き終わって、給湯室にバケツを持って行くと、そこに井出さんがいた。
「お疲れ様。」
「お疲れ様です。」
さらりと挨拶をして、バケツの水を捨て、新たに水を汲んだ。
「まさか、ここまで無視されるとは、思っていなかったよ。」
「すみません。」
取り敢えず謝って、雑巾を洗い始めた。
「俺、何か悪い事したかな。」
「いいえ。」
「じゃあ、何で連絡くれないの?」
まさか連絡先、捨てたとは言えない。
「久子さんから、貰ったでしょ?俺の連絡先。」
「久子さん?」
私は思わず井出さんの顔を見てしまった。
あっ、やっぱりカッコいい。
「ごめん。仲良くなって下の名前で呼んでいる。」
「別に謝る必要は……」
すると井出さんは、私の顔を覗き込んだ。
「ないかな。ちょっとヤキモチ妬いているように見えるんだけど。」
「それは……」
ハッとした。
自分だって、下の名前で呼ばれているじゃない。
ただ一度、食事をしただけの人に。
井出さんは、そんな気さくな人なんだから!
きっと、他の女性も下の名前で呼んでいるような人なんだろうし。
妬いたって、仕方ないんだから。
「結野ちゃん。俺の事、気に入ってくれているよね。」
「えっ。」
「分かるよ。これでも恋愛経験、積んできたんだから。」
そう言われても、まさかぶっちゃけ”カッコいいと思っています。”なんて言えない。
いや、むしろ逆に、軽くあしらった方がいいのか!
「わ、分かります?井出さん、カッコいいから。」
すると井出さんは、私に顔を近づけた。
「今のはムカついた。からかったでしょ、俺の事。」
「からかってません!」
「じゃあ、本当に俺の事、カッコいいと思ってくれてる?」
まずい。
井出さん、本気だ。
「ごめん。他の女の子には、カッコいいって言われたら、ありがとうって直ぐ返せるんだけど。結野ちゃんにだけは、できなくて。」
「どうしてですか?」
むしろ、他の女の子みたいに、さらりと返してくれればよかったのに。
「結野ちゃんにだけは、本当にカッコいいって、思って欲しいんだよ。」
そして、赤い顔をして井出さんは、横を向いた。
反動で、私も顔が赤くなる。
二人で顔を赤くしている。
なに、この状況!
「本当ごめん。何言ってるんだろうな、俺。結野ちゃんの前では、恥ずかしい事も言えてしまう。」
どうしよう。
こんな事言われるなんて、誤解しちゃうよ。
「本当に……」
「ん?」
「カッコいいと、思っています。」
そしてまたかぁーっと、頬が熱くなった。
「結野ちゃん。って、あっ!」
斉藤さんが井出さんに気づいた。
「ごめんね。気づかなくて。」
「大丈夫ですよ、久子さん。」
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