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その日の午後の入寮ガイダンス・オリエンテーション、翌日午前中の在校生始業式、午後の新入生入学式と、それ以降は特に大きな問題は無く、あたし達生徒会執行部は淡々と業務をこなしていた。この時点で、生徒会には一年生がまだ居ないから人手は不足するし、新入生を中心に細かいトラブルは起きない方がおかしいからそれなりに多忙だったが、三年生や教職員を見る限り、まあ大体毎年こんなものらしい。
そして授業が始まり、学校として動き出してから最初の週末。条件もあるし申請も必要だけど、基本的に土曜は、生徒は外泊が許可される。勿論、実家あるいはそれに類する所に、だけれど。
なので、殆どの生徒は、食堂で朝食を済ませると三々五々寮を出て行く。あたしもその一人、今から実家のアパートのある東村山に向かうところだった。
「おっと、清滝先輩じゃないすか」
駐輪場で、メットを被ろうとしていたあたしは、後ろからそう声をかけられ、振り向いた。
「あんた……滝波信仁、だっけ?」
かなり古いモデルのバイク、確かMVXだっけ、を押し、腕にジェットヘルを引っかけたその下級生に、あたしは答えた。
その下級生、信仁は、嬉しそうに頷くと、
「覚えといて頂いて光栄の極み……すげぇ、後期型CBXっすか」
あたしの顔から、あたしのバイクに視線を移す。
「貰いもんでね、大飯食いのオンボロなんだけど……あんたも実家に?」
メットを被るのを後回しにして、あたしはバイクに腰を入れて起こし、サイドスタンドを払う。
「買い物ついでに、アキバ寄ってから。まあ、晩飯食ったら帰ってきますけどね」
あたしの横、少し後ろで寮門までバイクを押しながら、信仁が答える。アキバって、ああ、秋葉原か。
「なんだい、あんた、メイド喫茶とかそういうの行くクチ?」
秋葉原と言えば、あたしにはそんなイメージが強い。
「あー、俺、そっちはあんまり。寿三郎に、電子部品の買出し頼まれてましてね」
いやいやと、笑って首を振りながら信仁が答える。そうだ、そもそも秋葉原ってそういう町だったっけ。
「……そういや、あれからこっち、その寿三郎とは上手くやってるのかい?」
入寮日の一件を思い出したあたしは、一応聞いてみる。今の話からすると、上手くやってるみたいだけれど。
「ま、ね。俺もあっちも、顔つき合わせて四六時中いがみ合うほどバカじゃないって事すかね」
「そりゃ良かったよ」
本人の口から聞けて、あたしは確証が取れて安心する。この二人がそれなりに上手くやってるらしいのは、二人が入部した科学部の次期部長候補にしてあたしの悪友、紐織結奈から聞いてはいた。そう言うのを把握しておくのも、執行部風紀委員の仕事だ。
「仲裁したあたしも一安心だよ」
寮門の前で停まり、あたしはバイクにまたがり、メットを被る。
「俺もね」
あたしの斜め後ろで停まり、メットを被った信仁が、言う。
「先輩の尻を堪能出来て、満足っす」
「てめ!っと!」
ずっとあたしの斜め後ろにいたのは、そういう事か!反射的にジーンズの尻を両手で押さえたあたしは、反動でCBXが立ちゴケしそうになり、慌てる。
「そんじゃ!」
笑いながら、信仁は自分のバイクを押して数歩走り、飛び乗る。体重がかかってリヤサスが沈んだ瞬間にクラッチを繋ぎ、押し掛けでエンジンをかける。
整備状態が良いのだろう、むずがる事なく始動した2スト三気筒から白煙を吐きつつ、左手を挙げ、ウィンクまでした信仁は、勢いよく走り去った。
「……ったく……」
2ストオイルの匂いを嗅ぎながら、その時のあたしは、その鮮やかな押し掛けと、ごく自然に会話の懐に入られてた手際と、女として見られていたという事実に、ちょっと、困惑していた。
そして授業が始まり、学校として動き出してから最初の週末。条件もあるし申請も必要だけど、基本的に土曜は、生徒は外泊が許可される。勿論、実家あるいはそれに類する所に、だけれど。
なので、殆どの生徒は、食堂で朝食を済ませると三々五々寮を出て行く。あたしもその一人、今から実家のアパートのある東村山に向かうところだった。
「おっと、清滝先輩じゃないすか」
駐輪場で、メットを被ろうとしていたあたしは、後ろからそう声をかけられ、振り向いた。
「あんた……滝波信仁、だっけ?」
かなり古いモデルのバイク、確かMVXだっけ、を押し、腕にジェットヘルを引っかけたその下級生に、あたしは答えた。
その下級生、信仁は、嬉しそうに頷くと、
「覚えといて頂いて光栄の極み……すげぇ、後期型CBXっすか」
あたしの顔から、あたしのバイクに視線を移す。
「貰いもんでね、大飯食いのオンボロなんだけど……あんたも実家に?」
メットを被るのを後回しにして、あたしはバイクに腰を入れて起こし、サイドスタンドを払う。
「買い物ついでに、アキバ寄ってから。まあ、晩飯食ったら帰ってきますけどね」
あたしの横、少し後ろで寮門までバイクを押しながら、信仁が答える。アキバって、ああ、秋葉原か。
「なんだい、あんた、メイド喫茶とかそういうの行くクチ?」
秋葉原と言えば、あたしにはそんなイメージが強い。
「あー、俺、そっちはあんまり。寿三郎に、電子部品の買出し頼まれてましてね」
いやいやと、笑って首を振りながら信仁が答える。そうだ、そもそも秋葉原ってそういう町だったっけ。
「……そういや、あれからこっち、その寿三郎とは上手くやってるのかい?」
入寮日の一件を思い出したあたしは、一応聞いてみる。今の話からすると、上手くやってるみたいだけれど。
「ま、ね。俺もあっちも、顔つき合わせて四六時中いがみ合うほどバカじゃないって事すかね」
「そりゃ良かったよ」
本人の口から聞けて、あたしは確証が取れて安心する。この二人がそれなりに上手くやってるらしいのは、二人が入部した科学部の次期部長候補にしてあたしの悪友、紐織結奈から聞いてはいた。そう言うのを把握しておくのも、執行部風紀委員の仕事だ。
「仲裁したあたしも一安心だよ」
寮門の前で停まり、あたしはバイクにまたがり、メットを被る。
「俺もね」
あたしの斜め後ろで停まり、メットを被った信仁が、言う。
「先輩の尻を堪能出来て、満足っす」
「てめ!っと!」
ずっとあたしの斜め後ろにいたのは、そういう事か!反射的にジーンズの尻を両手で押さえたあたしは、反動でCBXが立ちゴケしそうになり、慌てる。
「そんじゃ!」
笑いながら、信仁は自分のバイクを押して数歩走り、飛び乗る。体重がかかってリヤサスが沈んだ瞬間にクラッチを繋ぎ、押し掛けでエンジンをかける。
整備状態が良いのだろう、むずがる事なく始動した2スト三気筒から白煙を吐きつつ、左手を挙げ、ウィンクまでした信仁は、勢いよく走り去った。
「……ったく……」
2ストオイルの匂いを嗅ぎながら、その時のあたしは、その鮮やかな押し掛けと、ごく自然に会話の懐に入られてた手際と、女として見られていたという事実に、ちょっと、困惑していた。
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