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第七章:決戦は土曜0時

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 色々と物騒な道具が入っているに違いない、黒いナイロンのガンケースを担いで、低い姿勢で信仁は倉庫の右側の壁際に向かって走る。蒲田と熊川もそれに続く。目指すのは、倉庫とその敷地を囲むブロック塀の間の隙間。幅一メートルあるかないかのそこに飛び込む直前、蒲田は、倉庫正面のシャッター横のドアから、何人かの男達が出てくるのを見た。

 間一髪で、蒲田と熊川が倉庫の壁の向こうに駆け込むのが間に合ったらしい。その度から出てきた男達はこちらに来る事はなく、すぐに怒声、何かが強く打ち付け合う音、そして男の悲鳴が少し離れた所から聞こえてくる。
「始まったな」
 小さく呟きながら、信仁はガンケースからマグライト――7Cという、持っているだけでお巡りさんにモシモシされてしまう販売終了モデル――を取り出す。
「じゃあ、あねさん達が囮になっている間に、ささっと侵入しましょう」
 言いながら、倉庫の壁にいくつかある窓を照らさないように注意して、信仁は光軸を絞ったマグライトを点灯する。
 倉庫の壁とブロック塀の間は、夏場であれば踏み込むのも苦労するほどに雑草が生い茂っていたのであろうが、年の瀬も近づくこの時期となればもう、隆盛を誇った雑草も枯れ果てている。
「……裏口がある感じじゃあ、ないっすね……」
 マグライトのヘッド部分を持ち、ボディを担ぐように肩に載せて持った信仁が、その枯れ草に踏み跡が無いことを見取って、言う。
「……じゃあ、どうやって?」
 熊川が、蒲田の背中越しに信仁に聞く。
「窓から行くっきゃないっすね。問題は……」
 視線だけで振り向いて答える信仁の返答を引き取り、蒲田が、
「……どの窓から入るか、ですね、はい」
 不規則に並ぶ、面格子の入ったいくつものアルミサッシを見ながら、言った。

「あれ?」
 手分けして侵入しやすそうな窓を探そうと即決し、信仁は奥へ、蒲田は真ん中あたりを調べに分かれようとした直後、熊川が小さく声をあげる。
「この窓、塗りつぶされてますね?」
 その声に蒲田は振り向き、数歩先に進んでいた信仁も戻ってくる。
「あれ、ホントですね、はい」
「……何だと思います?」
 信仁が蒲田と熊川に聞く。
「さあ……」
「光が入ると困る場所、って事ですかね?倉庫なんかでよくありますね、はい」
「……だとすりゃ、この向こうは人、居ないって事っすよね」
 言いながら、信仁は柄の長めなマイナスドライバーを取り出す。
「まあ、窓の後ろにテレビがあった、なんてのもアリっちゃアリですけどね……」
 言いながら、信仁はドライバーを構え、蒲田と熊川に目で合図する。蒲田が軽く頷いたのを見て、信仁は面格子越しに、アルミサッシのクレセント錠を少し外したあたりの窓枠とガラスの境目に、マイナスドライバーを突き立てた。

 火災による飛散防止用の細い金属線の入ったガラスは、ひびが入ることはあっても飛散することはあまり無い。信仁は、ドライバーをこじってクレセント錠付近からガラスに放射状のひびを入れると、少し離れた別の場所にもう一度ドライバーを突き立て、ひびを入れる。
 三角割りと呼ばれる、空き巣の常套手段でガラスを割った信仁は、ドライバーでクレセント錠の部分のガラスをつついて隙間を空けると、そのままドライバーでクレセント錠も押して解錠する。
 ……今からでも、この人も逮捕するべきなのかも知れませんね、はい……
 蒲田は、信仁のそのあまりにも完成された手際に、思わず心の中で呟く。
「一応、中を確認して、と……お?」
 そんな蒲田の心理など全く省みず、室内側からは腰の高さだろうが室外からだと胸の高さの窓枠の上のサッシ下部を面格子ごしにそっと押して窓を少しだけ開けた信仁は、隙間から漏れる光と、光に照らされた室中の様子を一目見て、言った。
「……ビンゴ」

「!」
 クレセント錠付近のガラス辺がこちら側に押し込まれたのを見て、玲子はソファベッドの上でびくりと身を固くした。
 その様子に気付いた柾木は、玲子の視線を辿って、窓の異変に気付く。
「酒井さん……」
 玲子の前に出て左手でかばいつつ、柾木は小声で酒井に声をかけ、顎で窓を示す。
 声をかけられた酒井も、すぐに玲子と柾木の行動の意味する所、今まさにアルミサッシのクレセント錠が外から解錠された事に気付く。反射的に腰に手をやり、警棒はキザシに置いてきたことを思い出す。替わりの得物になるような物は、部屋の中には何も無い。それでも、警官である酒井は、民間人である柾木と玲子より一歩、窓に近い位置に無意識に移動し、軽く腰を落とす。
 ……いざとなれば、俺なら、素手でも……
 酒井がそう思った時、アルミサッシがカラリと小さな音を立てて、ほんのわずか、開く。
 何かが、その窓の隙間からこちらを見ている。部屋の明るさに慣れた目には、何がそこにあるのか、居るのか、はっきりとは判別出来ない。だが。
「……ビンゴ」
 その声には、酒井も柾木も、玲子に至っても聞き覚えがあった。
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