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第二章

第41話 祝祭⑥

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「見つけた」


 先程の位置から見て中央に存在する地点。そこに一人の大男が佇んでいた。

 周囲に人影は無く、建造物を破壊するのみ。明らかな陽動だろう。どこかに本命がいるかも知れない、早々に蹴りを付けなければ。


「『冥星』」


 自身の星を起動し、死の影が大男を飲み込む。声も無く、呆気無く、一つの命を摘み取る。


「うおっ」


 影の中で爆ぜる肉体。新たな獣が生まれた瞬間に絶命するのを感じ取れる。


「こうなるのか……成る程な」


 外敵を一人仕留めた。ならばここに用は無い。次なる標的を仕留めるべく西へと突き進む。

 次の相手は殺す訳にはいかない、生け捕りにし、情報を吐かせるのだ。

 屋根を伝い駆け抜けるとすぐに目的地へと到着することが出来た。


「……アレか」


 黒髪の女。凛とした態度の裏に不安が見え隠れしている。

 そんなものお構いなしと言わんばかりに背後から飛び付き首根っこを抑えつける。


「ガッ!?」

「『狼星』」


 銀狼の咆哮。女の三半規管を激しく揺らし、正常な判断力を鈍らせる。


「うっ――――ぷっ、お――――おえええええ」


 その衝撃に耐えきれず、地面に吐瀉物を撒き散らす。


「十秒やる。死にたくなければ答えろ。お前たちは何者で、使う能力は何だ? ここには何人でやって来た? 目的は?」

「エホッ! ゴホッ! ガァッ!?」


 首を強く握り締める。立てた爪で肉を引き裂き、恐怖心を煽る。


「十」

「ま、待ってッ!? ゲホッ! まだ――――」

「九」

「答える! 答えるから!」

「八」

「ス、スヴァルト! 正教国の人間です!」

「七」

「ヒッ!? あ、七人で来て目的は勇者の誘拐!」

「六」

星骸者ステラヴォイドの試験運用を主として立てられた作戦です! そ、それだけ! それだけしか知りません!」

「……星骸者?」


 襲撃者の女から教えられる星骸者について。星神の亡骸を用い、人体、及び能力の強度を底上げする外法。


「星神が……死んだっていうのか?」

「は、はいぃ……五年前に天蓋より堕ちてきた……と、聞いています」


 なるほど、合点がいった。俺が吹っ掛けた神々との戦争。挑んで来た星神は全て総軍に取り込んだと思っていたが、取りこぼしがいたらしい。

 何せその数は膨大、視界に溢れ返る程存在していたのだ。俺から逃げ果せたがしかし、そこで事切れ、手近な人間に後を託したのだろう。


「神の肉体を使ってると言ったな? 弱すぎじゃないか?」

「私達が下っ端だからですよ……血液を数滴、体に取り込んでいるだけです」

「その黒いのか……。だったら、体を直接取り込んでいるのは何人だ」

「……私が知る限りでは…六人。元々が強力な星光体、選ばれた六人なのです」

「両目、両手、両足。なるほど、まだまだ使えそうな部位は残っているってことか」


 敵の戦力は未知数。ならば叩くのは早い方がいいだろう。


「にしても、随分と饒舌だな。宗教狂いの連中はどいつもこいつも上には忠実、敵に捕らえられれば即自害する様な奴ばかりかと思ってたわ」

「し……死にたくないと思う人も……いますよ」

「それじゃあもう一つ質問だ。ここにやって来たのが合計で七人。最初に来た二人に今回の陽動三人。緊急の時の為に後方で待機させているのが一人いたとすると……残りの奴は何処に居る?」


 女の心拍数が跳ね上がるのを感じる。冷や汗を流し、徐々に体に力を込め始めているのが分かる。


「……後方で……二人待機しています」

「じゃあこの陽動は何の為だ? 勇者を捕える訳でも無く、力を試す為だけに街を破壊したって? 馬鹿が、本当に殺されてぇのか?」

「こ……殺せませんよ……」


 無駄に溢れる彼女の自信。

 ああ、なるほど。つまり――――。


「この広場を見てる奴が居るんだな?」

「――――ッッ!?」

「周囲の殆どが二階建ての建物。しかし勇者を狙う為には三番地区より向こう側が見渡せる方が好ましい。……あそこの高台なんか丁度良さそうだよなぁ?」


 彼女の心拍数が最高潮に達する。ならばそれで間違いは無いだろう。どの道、死は見えるのだから。


「『冥星』」


 目当ての高台に視界を定める。見慣れない星の煌めき、今にもコチラを撃ち抜かんとするべく狙いを定めているのが見て取れる。

 一瞬。先程と同様に影に飲み込み、爆ぜる。たったそれだけで勝負は着いてしまう。


「ほい、終わり。取り敢えずお前はこのまま軍に連れて行く」


 ジューダスに引き渡せば手早く処理してくれるだろう。

 いい加減無駄な力を込めている女を黙らせる為に脳に振動を叩き込む。


「ガッ!?」

「寝てろ。起きた時にはバラバラか、運が良ければ尋問室だ」


 残すは東の敵が一人と報告役が一人。敵の情報を鵜呑みにせず、もう数人は隠れていると考えて動いた方がいいだろう。

 襲撃者の女を引渡すべく、俺は王城へと向かう。
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