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ラッキー勝負

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 幸運の女神テュケは、心細くてたまらなかった。
 下界なんかに自分が降りることになるとは、これまで考えたこともなかったからだ。

「下界って、こんなにくさいんだ……。なんか果物とかじゃない、むわっとした変なにおいがいっぱいあって、鼻があるのが嫌になっちゃう。やだ、やだ。ひとりで来るんじゃなかった」

 しかし、これしか方法がなかった――とも思う。

「私の前にこの世界チャンネルに干渉した神がいないか調べてみたら、なんかもう、わけがわからないくらい干渉回数が多くって……。しかも知らない名前ばっかり。どういうこと? 私の知らない神がいっぱいいるってこと?」

「でも、に相談すると絶対に現地確認が入ってバグのことバレちゃうから、とにかく干渉をチェックしてる無神むじん観測所のところを見に行けばなんとかなるって思ったんだけど……。観測所の場所って私レベルの神で知れるような情報じゃないんだよね。まあでも、きっと見つかる。だって私、幸運の女神だもの」

 やばいことになったらすぐにゲート開いて帰ればいいし、とテュケは思った。
 彼女は経験不足もあって小心者だが、幸運の権能のおかげで本当に嫌なことにはこれまで一度も遭遇したことがなく、基本的に楽観的な、「なんとかなる」と考えてしまう性格をしていた。

 すると、案の定――

「あっ、ラッキー♪ もう勇者見つけちゃった。この広い世界チャンネルでいきなり出会うってやばくない? そうそう、あんな顔だった。なーんだ、ちゃんと転生できてたのね」

 大喜びで高度を下げる。

「ハ~イ、コータロー!」

「あ、テュケちゃん。奇遇だね。これもラッキーってやつ?」
 コータローが軽く手を挙げて答える。

 この瞬間、

 幸運の女神と幸運の勇者の――

 幸運ラッキー勝負の幕が切って落とされた。

「あれ? コータロー、その洞窟から出てきたの?」
 まずはテュケの先制。

 コータローは、もっと洞窟から離れたところでテュケと出会うべきだったのだが、あまりに一瞬で見つかってしまったため、洞窟とセットで認識されてしまったのだった。

 洞窟のことをとぼけると逆に怪しい――そう思ったコータローは、
「ああうん、そうだよ。ちょっと気になって覗いてみたんだけど、テュケちゃんは入らないほうがいいって。この洞窟、なんかくさいから」
 適当なことを言ってみる。

 が、テュケはちょうど、下界のにおいに参っていたところ。
「え、くさいの……? それはいやね。コータローに会わなかったら間違って入っちゃってたかも~。ほんと会えてラッキー♪」
 効果は抜群だ。

「それでテュケちゃん、どうして下界なんか来たの? もしかしてオレに会うため?」
「うーん、うん! それもあるかな。だってコータローったら急に見えなくなっちゃうんだもの。そこの洞窟にいたから? そこって何があるの?」
 さすが幸運の女神、それでも話題は逸れてくれない。

「洞窟はちょっと入っただけだから関係ないって。それよりも見えなくなったってどういうこと? 神界にあったあのテレビみたいなやつで、ずっと観てたんじゃないわけ?」
「わたしもよくわかんないんだけど、なんか、演算……?がへんなんだって。コータローがいる本当の下界じゃなくて、嘘の映像を観てたみたい。コータローが転生せずに、そのまま生贄の子がしわしわになって魔王が儀式に成功しちゃってたもん」

 ありえないよねー、と笑うテュケにコータローが、
「あー、たしかにエミリアはしわしわにはならなかったもんな。それはひどい嘘だよ」
 と返す。

 するとテュケは首を傾げ、
「……エミリアって、誰?」

 そんなことを言うのだった。
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