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4章 轗軻不遇の輪舞曲
閑話 ナカガワ家の優しいお正月
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ファラク邸から数キロ離れた先には、観光スポット『伝説広場』なる場所がある。
そこに聳える石段には『エクスカリバー』という伝説級の剣が刺さっており、コレを抜けるのは同じく伝説級の武芸者だけだと言われている。
数多の獣人がエクスカリバーを抜くためにやっては来るが、今までその剣は抜けた事は無い。
噂が広まり過ぎたのか、力自慢の獣人が尽きたのか、今ではただの大きな公園として扱われており、挑戦者も『正月』を除いては、ほぼほぼ居なくなっているという……
──────────
アリサとビッキー、それにレオを家族として迎え入れて初めて過ごすお正月──
テーブルには退院したカタリナが腕によりをかけて作ったおせち料理が並べられ、当然、そんな物など食べた事が無かった新しい家族は目を輝かせてその料理を楽しんでいた。
「ニャんじゃこれ! オモチ? うまいニャ。レオも食うニャ」
「もう食べてるの。びよーんて伸びて美味しいの」
「奥様、美味しいです」
ビッキーとレオの前ではお姉さんでいたいアリサは、本来の自分を隠しつつカタリナを褒める。
その強がりをファラクもカタリナも知っていながらも何も言わず、アリサの成長を楽しんでいる。
と、突然カタリナが奇妙な事を言い出した。
「ふむ、エクスカリバーの噂を聞いたのでな。今から行くぞ」
「「はい?」」
その場にいたファラクを含む全員が、カタリナの発言に意味がわからないといったリアクションを取る。
「カタリナ、主語が抜けているぞ」
「ふむ、そうか。ではちゃんと言うとしよう」
カタリナは熱く語った。
そう、カタリナという女性は風よりも早く行動に移し、炎より熱く語るのだ。
「と言う訳だ。みんな、食ったら行くぞ」
「行くぞっていうがなぁ。今は正月だぞ」
ファラクはあまり乗り気では無いようだが、それ以外の家族は少し様子が違うようだ。
ビッキーが探りを入れるようにカタリナに質問をぶつける。
「それはアレかニャ? 抜けたら美味しい物が食べれるのかニャ?」
「分からん。ただ、抜けたらシチューを作ってやるぞ」
「「な!!」」
ビッキーとレオの顔色が変わった。
「行くニャ! 絶対に行くニャ! ウチとレオに不可能はないニャ」
「うん、ビッキーと抜くの」
「ビッキー、レオ。口に物を入れたまま喋らない! はしたないですよ」
二人を注意するアリサも興味があるのか顔を紅潮させている。
圧倒的多数決に負けたファラクは溜め息を1つ吐き出すと、早速一同はその『伝説広場』へと向かったのであった。
──────────
500平方メートルのやや広大な原っぱの中央にある石段には、いつからあるのか何一つ文献が無いのでわからない一本の剣が突き刺さっている。
その周りには、商売根性逞しい獣人達が数十の屋台を構えて観光客や地元民を相手にしていた。
メインの石段付近では、近所の力自慢の獣人やら、仕事の付き合いやらで、エクスカリバーイベントに参加すべく列を作っていた。
「結構人が多いな。この星の正月の名物なのだろうか?」
「ふむ、私も予想外だ。見ろ、108回しか挑戦出来ないらしいぞ」
ファラクが目をこらして、顔を真っ赤にしてエクスカリバーを抜こうとしている挑戦者の横には『めくり台』があり、現在は「31/108」と表記されていた。
「カタリナ様、あのオレンジ色のイカ食べても良いかニャ?」
「カタリナ様、あのチョコのバナナのが食べたいの」
「ビッキー、レオ、それよりあのはしたない焼きそばがですよ美味しい」
アリサもテンションが上がっているのか、ビッキーとレオを諌めるどころか焼きそばに心が奪われて、意味不明な事を言っている。
「アリサ、3人で好きなものを食べてきなさい」
ファラクは吹き出すのを堪え、適当な現金をアリサに渡す。
アリサ達はその上がりきったテンションそのままに屋台ゾーンへと走っていった。
「ビッグボスからお許しが出たニャ! 姉さま、レオ、胃袋の許す限り食べ尽くすニャ! 敵は本能寺にありニャー!」
「意味が分からないの!」
「ビッキー、レオ、走っちゃだめって言ったでしょ」
気が付けばアリサが先頭を走り、ビッキーとレオがそれに追従しているが、ファラクとカタリナは微笑むだけでそれにツッコミを入れる事は無かった。
「ふむ、では戦場へ行こうか」
「戦場にしては穏やかだけどな」
「ふむ、だが、良いものだな。子供達と共に過ごすと言うのは」
「俺としては、妻がもう少し大人しくしてれば言う事無いんだけどな」
「ハハハ。許せファラク、性格はそう治らんぞ」
「分かっている。分かっているが、死ぬ程心配はするんだぞ?」
「……あの時はすまなかったな。迷惑をかけた」
「いいや、惚れた方の負けだよ」
カタリナが言う『あの時』とは、キャロルと死闘を繰り広げたあの日の話である。
五体満足で退院出来たのも相当な運の良さであると、後に医者から語られたファラクは生きた心地がしなかった。
ファラクにとってカタリナがケロっとしていたのが唯一の救いではあったが、二度とこんな真似はしないようにと厳重に釘を刺され、その時ばかりはカタリナも大人しかった。
そんな思い出話に花を咲かせているうちに、もうすぐカタリナがエクスカリバーを抜く番となっていた。
「奥様ー! 頑張って下さい!」
「カタリナ様、抜いてニャ! それしか道はないニャ」
「カタリナ様、頑張ってなの」
オレンジ色を通り越して真紅に近いイカ焼きを口に咥えたアリサ達の応援に手を振ってカタリナは応えた。
ファラクもまた、カタリナの背中を擦り活を入れる。
「よし、抜いてこい」
「ふむ、任せておけ」
壇上に立ったカタリナが、突き刺さっている剣の柄をギュッっと握る。
すると、今までは『ズシン』とそこに佇んでいるだけであったエクスカリバーが淡く、ぼんやりと輝くのが分かった。
「おいおい、何だあれ? 長年ここに住んでるけど、あんなの見たことないぞ」
「おいあれって、ファラクさんとこの奥さんじゃないか?」
「ちょっあれやばくね? 抜けるんじゃね?」
見たこともないエクスカリバーの反応に、ギャラリーがざわつき始める。
「フフッ。良いぞ! 私が持つに相応しい反応だ」
カタリナは少し力を込めてエクスカリバーを持ち上げる。
すると、エクスカリバーはメリメリと音を立てながら少し上方向に動いたのである。
ギャラリーのテンションは最高潮を迎える。
「おいおい、行くぞアレ。あのエクスカリバーが抜けるぞ!」
「カメラ、カメラもってこい! とうとう伝説が幕開けるぞ!」
──メリメリメリメリッ!
エクスカリバーが動けば動くほどに、その輝きは一層強く辺りを照らす。
サーチライトのような光が刀身から発せられ、カタリナを含め、その場にいる全員を包みこもうとしていた。
「カタリナ、なんか妙だぞ。離した方が良くないか?」
「何を言うファラク。刮目せよ! これが私の──」
カタリナは感覚的に、もう一息で抜けると確信する。
浅めの深呼吸をしたカタリナは、一気にエクスカリバーを引き抜いた!
「顕現せよ! エクスカリバーァアアアアアアアアア!」
その場にいる全員が目を開けていられない程の強い光がエクスカリバーから放たれる。
腰を一気に引き上げたカタリナは、勝利とばかりに決めポーズを決めた。
「カタリナ、大丈夫……ん? あれ?」
「ふむ、何だこれは?」
エクスカリバーの輝きが落ち着いてきた頃に、ギャラリーもそれを目撃し、呆けにとられた。
エクスカリバーは、まだ地面に突き刺さっていたからである。
「長くね?」
誰かが発した言葉に、公園内の全員が頷いた。
片手を突き上げたカタリナよりも刀身は長く、まだ地面に突き刺さっていたのだ。
「ふむ、カッコ悪いな。まぁ最後まで、抜くとするか」
カタリナはそう呟くと、刀身を両手で掴み更に上へ上げる。
エクスカリバーはそれに呼応するかのようにメリメリと刀身を顕にするが、まだ剣先へは到達しておらず、地面にめり込んでいた。
──スルスルスル
──メリメリメリ
一体どれだけ引き抜いたのであろう──
既に柄は地上から10メートルぐらい上空に差し掛かっていた。
「おい、長えぞ!」
「私に文句を言うな!」
そのシュールな光景に、公園内から薄らと笑いが起き始めるが、カタリナは諦めずに、ずっとスルスルスルとエクスカリバーを押し上げている。
「あの、奥様……もうやめたほうが」
「カタリナ、これは抜けないって事じゃないか?」
「ここで諦めたら試合終了だ!」
アリサの忠告にも、ファラクの進言にも、カタリナは首を縦に振らずに、半ばヤケクソ気味にエクスカリバーを抜いていった。
「ニャハハハハ! な、長いニャ! 長すぎだっつーニャ! お、お前のような剣があるかニャ! ニャハハハハ」
ビッキーは、必死に剣を抜くカタリナと意地でも剣先を見せないエクスカリバーが妙にツボに入ったのだろうか、地面をバシバシと叩きながら大笑いしていた。
──スルスルスル
──メリメリメリ
「ニャーっハッハッハ! もういいニャ……もういいって……何を切る用だっつーニャ! おニャカ痛いニャ。ヒィーッヒッヒ……」
──スルスルスルスルスルスル
──メリメリメリメリメリメリ
「抜けねー! これもう抜けねーニャ。カタリナ様、もうビッキーを笑わせニャいで……ニャハハハ!」
──スルスルスルスルスルスルスルスルスル
──メリメリメリメリメリメリメリメリメリ
「も、もうやめてーニャぁあああ───」
──────────
「ハッ!」
バダンとベッドから転がり落ちたビッキーは、何事かと辺りを見渡す。
紛れもなくそこはファラク邸のベッドであり、落ちた先には大親友のレオが寝ていた。
「ま、まさかこれは」
ビッキーは生唾を飲み込んだ。
そこから先を言う事すら、ビッキーにとっては恐怖だったからに他ならない。
しかし、ビッキーはその事実を喋るしか無かった。
「夢オチ……ニャ?」
吹き出た冷や汗を拭い、ビッキーはレオを叩き起こす。
「レオ、起きるニャ! やってしまったニャ」
「……んー、ビッキーうるさいの。もう少し寝るの」
「寝起きのお約束はいいニャ」
「何をやったの?」
「夢オチニャ! これはやっちゃいけないのニャ!」
「やっぱりビッキーうるさいの。もう少し寝るの」
そう言って、レオはまた寝てしまった。
頭をポリポリと掻きむしったビッキーは、この状況を打破すべく脳みそをフル回転させるが、結局何も答えは出なかった。
「よくよく考えれば、これは初夢って奴だニャ。それに正夢なら、あのイカを食べれるかもしれないニャ」
正月の朝、二度寝でアリサに怒られるまでビッキーの幸せは続いた。
そしてこの日、一部だけ正夢になったとかならなかったとか……
そこに聳える石段には『エクスカリバー』という伝説級の剣が刺さっており、コレを抜けるのは同じく伝説級の武芸者だけだと言われている。
数多の獣人がエクスカリバーを抜くためにやっては来るが、今までその剣は抜けた事は無い。
噂が広まり過ぎたのか、力自慢の獣人が尽きたのか、今ではただの大きな公園として扱われており、挑戦者も『正月』を除いては、ほぼほぼ居なくなっているという……
──────────
アリサとビッキー、それにレオを家族として迎え入れて初めて過ごすお正月──
テーブルには退院したカタリナが腕によりをかけて作ったおせち料理が並べられ、当然、そんな物など食べた事が無かった新しい家族は目を輝かせてその料理を楽しんでいた。
「ニャんじゃこれ! オモチ? うまいニャ。レオも食うニャ」
「もう食べてるの。びよーんて伸びて美味しいの」
「奥様、美味しいです」
ビッキーとレオの前ではお姉さんでいたいアリサは、本来の自分を隠しつつカタリナを褒める。
その強がりをファラクもカタリナも知っていながらも何も言わず、アリサの成長を楽しんでいる。
と、突然カタリナが奇妙な事を言い出した。
「ふむ、エクスカリバーの噂を聞いたのでな。今から行くぞ」
「「はい?」」
その場にいたファラクを含む全員が、カタリナの発言に意味がわからないといったリアクションを取る。
「カタリナ、主語が抜けているぞ」
「ふむ、そうか。ではちゃんと言うとしよう」
カタリナは熱く語った。
そう、カタリナという女性は風よりも早く行動に移し、炎より熱く語るのだ。
「と言う訳だ。みんな、食ったら行くぞ」
「行くぞっていうがなぁ。今は正月だぞ」
ファラクはあまり乗り気では無いようだが、それ以外の家族は少し様子が違うようだ。
ビッキーが探りを入れるようにカタリナに質問をぶつける。
「それはアレかニャ? 抜けたら美味しい物が食べれるのかニャ?」
「分からん。ただ、抜けたらシチューを作ってやるぞ」
「「な!!」」
ビッキーとレオの顔色が変わった。
「行くニャ! 絶対に行くニャ! ウチとレオに不可能はないニャ」
「うん、ビッキーと抜くの」
「ビッキー、レオ。口に物を入れたまま喋らない! はしたないですよ」
二人を注意するアリサも興味があるのか顔を紅潮させている。
圧倒的多数決に負けたファラクは溜め息を1つ吐き出すと、早速一同はその『伝説広場』へと向かったのであった。
──────────
500平方メートルのやや広大な原っぱの中央にある石段には、いつからあるのか何一つ文献が無いのでわからない一本の剣が突き刺さっている。
その周りには、商売根性逞しい獣人達が数十の屋台を構えて観光客や地元民を相手にしていた。
メインの石段付近では、近所の力自慢の獣人やら、仕事の付き合いやらで、エクスカリバーイベントに参加すべく列を作っていた。
「結構人が多いな。この星の正月の名物なのだろうか?」
「ふむ、私も予想外だ。見ろ、108回しか挑戦出来ないらしいぞ」
ファラクが目をこらして、顔を真っ赤にしてエクスカリバーを抜こうとしている挑戦者の横には『めくり台』があり、現在は「31/108」と表記されていた。
「カタリナ様、あのオレンジ色のイカ食べても良いかニャ?」
「カタリナ様、あのチョコのバナナのが食べたいの」
「ビッキー、レオ、それよりあのはしたない焼きそばがですよ美味しい」
アリサもテンションが上がっているのか、ビッキーとレオを諌めるどころか焼きそばに心が奪われて、意味不明な事を言っている。
「アリサ、3人で好きなものを食べてきなさい」
ファラクは吹き出すのを堪え、適当な現金をアリサに渡す。
アリサ達はその上がりきったテンションそのままに屋台ゾーンへと走っていった。
「ビッグボスからお許しが出たニャ! 姉さま、レオ、胃袋の許す限り食べ尽くすニャ! 敵は本能寺にありニャー!」
「意味が分からないの!」
「ビッキー、レオ、走っちゃだめって言ったでしょ」
気が付けばアリサが先頭を走り、ビッキーとレオがそれに追従しているが、ファラクとカタリナは微笑むだけでそれにツッコミを入れる事は無かった。
「ふむ、では戦場へ行こうか」
「戦場にしては穏やかだけどな」
「ふむ、だが、良いものだな。子供達と共に過ごすと言うのは」
「俺としては、妻がもう少し大人しくしてれば言う事無いんだけどな」
「ハハハ。許せファラク、性格はそう治らんぞ」
「分かっている。分かっているが、死ぬ程心配はするんだぞ?」
「……あの時はすまなかったな。迷惑をかけた」
「いいや、惚れた方の負けだよ」
カタリナが言う『あの時』とは、キャロルと死闘を繰り広げたあの日の話である。
五体満足で退院出来たのも相当な運の良さであると、後に医者から語られたファラクは生きた心地がしなかった。
ファラクにとってカタリナがケロっとしていたのが唯一の救いではあったが、二度とこんな真似はしないようにと厳重に釘を刺され、その時ばかりはカタリナも大人しかった。
そんな思い出話に花を咲かせているうちに、もうすぐカタリナがエクスカリバーを抜く番となっていた。
「奥様ー! 頑張って下さい!」
「カタリナ様、抜いてニャ! それしか道はないニャ」
「カタリナ様、頑張ってなの」
オレンジ色を通り越して真紅に近いイカ焼きを口に咥えたアリサ達の応援に手を振ってカタリナは応えた。
ファラクもまた、カタリナの背中を擦り活を入れる。
「よし、抜いてこい」
「ふむ、任せておけ」
壇上に立ったカタリナが、突き刺さっている剣の柄をギュッっと握る。
すると、今までは『ズシン』とそこに佇んでいるだけであったエクスカリバーが淡く、ぼんやりと輝くのが分かった。
「おいおい、何だあれ? 長年ここに住んでるけど、あんなの見たことないぞ」
「おいあれって、ファラクさんとこの奥さんじゃないか?」
「ちょっあれやばくね? 抜けるんじゃね?」
見たこともないエクスカリバーの反応に、ギャラリーがざわつき始める。
「フフッ。良いぞ! 私が持つに相応しい反応だ」
カタリナは少し力を込めてエクスカリバーを持ち上げる。
すると、エクスカリバーはメリメリと音を立てながら少し上方向に動いたのである。
ギャラリーのテンションは最高潮を迎える。
「おいおい、行くぞアレ。あのエクスカリバーが抜けるぞ!」
「カメラ、カメラもってこい! とうとう伝説が幕開けるぞ!」
──メリメリメリメリッ!
エクスカリバーが動けば動くほどに、その輝きは一層強く辺りを照らす。
サーチライトのような光が刀身から発せられ、カタリナを含め、その場にいる全員を包みこもうとしていた。
「カタリナ、なんか妙だぞ。離した方が良くないか?」
「何を言うファラク。刮目せよ! これが私の──」
カタリナは感覚的に、もう一息で抜けると確信する。
浅めの深呼吸をしたカタリナは、一気にエクスカリバーを引き抜いた!
「顕現せよ! エクスカリバーァアアアアアアアアア!」
その場にいる全員が目を開けていられない程の強い光がエクスカリバーから放たれる。
腰を一気に引き上げたカタリナは、勝利とばかりに決めポーズを決めた。
「カタリナ、大丈夫……ん? あれ?」
「ふむ、何だこれは?」
エクスカリバーの輝きが落ち着いてきた頃に、ギャラリーもそれを目撃し、呆けにとられた。
エクスカリバーは、まだ地面に突き刺さっていたからである。
「長くね?」
誰かが発した言葉に、公園内の全員が頷いた。
片手を突き上げたカタリナよりも刀身は長く、まだ地面に突き刺さっていたのだ。
「ふむ、カッコ悪いな。まぁ最後まで、抜くとするか」
カタリナはそう呟くと、刀身を両手で掴み更に上へ上げる。
エクスカリバーはそれに呼応するかのようにメリメリと刀身を顕にするが、まだ剣先へは到達しておらず、地面にめり込んでいた。
──スルスルスル
──メリメリメリ
一体どれだけ引き抜いたのであろう──
既に柄は地上から10メートルぐらい上空に差し掛かっていた。
「おい、長えぞ!」
「私に文句を言うな!」
そのシュールな光景に、公園内から薄らと笑いが起き始めるが、カタリナは諦めずに、ずっとスルスルスルとエクスカリバーを押し上げている。
「あの、奥様……もうやめたほうが」
「カタリナ、これは抜けないって事じゃないか?」
「ここで諦めたら試合終了だ!」
アリサの忠告にも、ファラクの進言にも、カタリナは首を縦に振らずに、半ばヤケクソ気味にエクスカリバーを抜いていった。
「ニャハハハハ! な、長いニャ! 長すぎだっつーニャ! お、お前のような剣があるかニャ! ニャハハハハ」
ビッキーは、必死に剣を抜くカタリナと意地でも剣先を見せないエクスカリバーが妙にツボに入ったのだろうか、地面をバシバシと叩きながら大笑いしていた。
──スルスルスル
──メリメリメリ
「ニャーっハッハッハ! もういいニャ……もういいって……何を切る用だっつーニャ! おニャカ痛いニャ。ヒィーッヒッヒ……」
──スルスルスルスルスルスル
──メリメリメリメリメリメリ
「抜けねー! これもう抜けねーニャ。カタリナ様、もうビッキーを笑わせニャいで……ニャハハハ!」
──スルスルスルスルスルスルスルスルスル
──メリメリメリメリメリメリメリメリメリ
「も、もうやめてーニャぁあああ───」
──────────
「ハッ!」
バダンとベッドから転がり落ちたビッキーは、何事かと辺りを見渡す。
紛れもなくそこはファラク邸のベッドであり、落ちた先には大親友のレオが寝ていた。
「ま、まさかこれは」
ビッキーは生唾を飲み込んだ。
そこから先を言う事すら、ビッキーにとっては恐怖だったからに他ならない。
しかし、ビッキーはその事実を喋るしか無かった。
「夢オチ……ニャ?」
吹き出た冷や汗を拭い、ビッキーはレオを叩き起こす。
「レオ、起きるニャ! やってしまったニャ」
「……んー、ビッキーうるさいの。もう少し寝るの」
「寝起きのお約束はいいニャ」
「何をやったの?」
「夢オチニャ! これはやっちゃいけないのニャ!」
「やっぱりビッキーうるさいの。もう少し寝るの」
そう言って、レオはまた寝てしまった。
頭をポリポリと掻きむしったビッキーは、この状況を打破すべく脳みそをフル回転させるが、結局何も答えは出なかった。
「よくよく考えれば、これは初夢って奴だニャ。それに正夢なら、あのイカを食べれるかもしれないニャ」
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