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3章 虚構の偶像
優先すべき事
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翌朝ーー
本来であれば早急に奴隷達と今後について話し合う機会を設けなければならなかったが、ユリウスの負傷や、かつての仲間の弔いなどでバタバタし、今日の午前中に行うという事で話はまとまっていた。
「んん~ッ! よく寝た~! あ、おはようサンド」
「おはようクリス」
スッキリと目覚めたサンドとクリスは起床後、多少の気恥ずかしさはあったが、直ぐにいつもの調子を取り戻す努力をお互いに演じる。
揃って顔を洗う頃には既に緊張はほぐれ、2人はユリウスの様子を見に病室へ向かった。
「ユリウスおはよー、調子はどんな感じ?」
「おはようクリス、サンド。もう大分良くなったし、これなら剣の稽古も出来そうだ」
「そいつは無茶があるだろ」
「だめに決まっているじゃない。ユリウスは相変わらずねー」
片目を無くしてもなお、気丈に振る舞うユリウスに、その場にいる全員が昨日までの事は事実としてしっかりと受け止め、『よし!』と前を向く事を心で共感し合った。
「皆様、おはようございます」
「おはよう。です」
ハーレーとフェルミナも病室へ挨拶に入ったところで、朝食の準備に移る。
もう配給の目処は無いが、レジャーは万一に備え一ヶ月は奴隷達を賄えるよう食料を切り詰めていた。
簡素なパンとスープではあるが、それなりの物が全員へと配られる。
「ユリウスさん、『あーん』です」
「恥ずかしいな……」
目が見えないユリウスに、フェルミナは付きっきりで甲斐甲斐しく世話を焼く。
人の世話をするという行いがフェルミナにとっては大変新鮮でいて、嬉しいようだ。
その光景が微笑ましく、誰も止めることなく朝食を食べ進める。
その雰囲気に、待ったをかけたのはサンドであった。
「ちょっといいかな。アーサーに言われた事なんだけど」
その発言の重さに、全員が独特の緊張感でサンドの次句を待つ。
フェルミナも世話を焼く手を止めたところで、サンドはアーサーから言われた事、つまり『世界樹の疲弊』『他の宇宙からの破壊侵略』『持ってあと1年』などの、アクアの危機について原文ママに伝えた。
「何よそれ、やばいわね」
「そうか……」
「私達だけの問題では無いのですね」
「皆居なくなるのは嫌。です」
「実は、これだけじゃなくてな」
皆のリアクションを受けたサンドは、まだ何かあると匂わせつつ、ポケットから手帳のような物を取り出した。
「それは?」
「アーサーが持っていたんだ」
ブルー襲来の日、アーサーから一人にして欲しいとの要望を受けたサンドは、他の奴隷達と共に、レジャーの引き上げや、ユリウス達の移送などに追われていた。
しばらくしてブルーのコックピットを覗くと、既に事切れたアーサーが、まるで読んでくれと言わんばかりに大事に握っていたという事だった。
「なんて書いてあったの?」
「いや、遺品だからな。ユリウスが見るのが1番だと思うんだが……」
と言って、サンドは言い淀む。
ユリウスの右目は失ってはいないが、まだ両眼には包帯が施されていて、とても何かを読むまでには至っていないからである。
「サンド、読んでくれ」
「良いのか?」
「構わないよ。きっと父さんは皆に伝えたかったと思うんだ」
「分かった。じゃあ読むな」
そう言い、サンドは手帳の中身をめくり、重要な事だけをかいつまんで読み上げる。
「『ユグドラシルの導き』では、過去に何度かアクアは粛清を受けていると推測される。手記には、粛清されないには越した事は無いが、乗り越える手段を綴ると書かれていた」
「それは、『行動』『忍耐』『力』『頭脳』『狂気』『慈愛』の相反する6つの才能、そして1番重要なのが『勇気』の存在であり、『勇気』がそれ等を力とする事である」
「難しいのは、互いが互いを潰し合う事である。我々が読んでいるこの手記では『勇気』が潰されてしまったらしい」
「『勇気』を含めた7つは、アクア宙域の生存本能が危機と感じたら同じ時代に産み落とす」
「果たして、私が知っている者に『勇気』に該当するものがいるだろうか? あの手記には『勇気』は黒髪のタレントで、全てを動かす力があるらしいが、これが見つけられない限り私は、いやアクアはアレに頼るしかないのかもしれない」
「ネルソンが死んだ……ユリウスの処刑は決定的であろう。邪魔はさせん、私がやらなければ」
「ユングを『勇気』だと思ったが、あれは『狂気』に近いのかもしれない」
「ユングが蠱毒作戦を11から13惑星で行うとの通信が入った。虫唾が走るが、人類にはもう時間がない」
そこで手帳は終わっている。
パタリと手帳を閉じたサンドに合わせ、全員より深いため息が漏れた。
「やばい事しか書いてないわね。ヤバ中のヤバじゃない」
「蠱毒作戦とは、なんなのでしょうか?」
「宇宙の大ピンチ! です」
思い思いの感想が皆の口から出るのを、ユリウスはじっと聞くに徹している。
「そうか……父さんは……」
ユリウスは誰にも聞こえないよう呟き、かけているシーツを握る事で感情を押し殺した。
サンドだけは、ユリウスが何かを決意するような、そんな行為にも見て取れたが、追求することはしなかった。
「まぁそれよりも、ここに居る人達をどうにかしないとね」
クリスの発言にサンドとユリウスは深く首肯する。
問題は山積みである。あるが、彼らをどうにかする事を一先ずの第一目標とする事で話は纏まった。
「とりあえず、砂漠に行くか」
行く気満々であったユリウスをクリスが一喝し、サンドとクリスは砂漠へと向かった。
ーーーーーピラミッド
キラキラと輝く広大な砂漠の中、象徴が如く佇む巨大なピラミッドの大広間には、約90人近い人数が集合している。
2名を除きその場にいる者達は、ある日突然に人生を変えられ、昨日、また人生が変わる権利を得た者達である。
「はい、開始ー!」
クリスの合図に、彼等はいそいそとテーブルをくっつけていく。
昨日の朝はそこではラジオ体操が日課で行われていたが、今はまるで巨大セミナーのような形が作られていった。
その講師席とも見れる陳腐な高台の側には液晶モニターが置かれ、そのすぐ横にサンドとクリスは揃って立ち、奴隷だったもの達と向き合う。
ちなみに、ユリウス、ハーレー、フェルミナの3人はクリスの指示のもと備蓄倉庫から映像通信でこの会合に参加をしている。
「さぁ、はじめようか」
サンドは現状の確認と今後の方針について語り始めた。
本来であれば早急に奴隷達と今後について話し合う機会を設けなければならなかったが、ユリウスの負傷や、かつての仲間の弔いなどでバタバタし、今日の午前中に行うという事で話はまとまっていた。
「んん~ッ! よく寝た~! あ、おはようサンド」
「おはようクリス」
スッキリと目覚めたサンドとクリスは起床後、多少の気恥ずかしさはあったが、直ぐにいつもの調子を取り戻す努力をお互いに演じる。
揃って顔を洗う頃には既に緊張はほぐれ、2人はユリウスの様子を見に病室へ向かった。
「ユリウスおはよー、調子はどんな感じ?」
「おはようクリス、サンド。もう大分良くなったし、これなら剣の稽古も出来そうだ」
「そいつは無茶があるだろ」
「だめに決まっているじゃない。ユリウスは相変わらずねー」
片目を無くしてもなお、気丈に振る舞うユリウスに、その場にいる全員が昨日までの事は事実としてしっかりと受け止め、『よし!』と前を向く事を心で共感し合った。
「皆様、おはようございます」
「おはよう。です」
ハーレーとフェルミナも病室へ挨拶に入ったところで、朝食の準備に移る。
もう配給の目処は無いが、レジャーは万一に備え一ヶ月は奴隷達を賄えるよう食料を切り詰めていた。
簡素なパンとスープではあるが、それなりの物が全員へと配られる。
「ユリウスさん、『あーん』です」
「恥ずかしいな……」
目が見えないユリウスに、フェルミナは付きっきりで甲斐甲斐しく世話を焼く。
人の世話をするという行いがフェルミナにとっては大変新鮮でいて、嬉しいようだ。
その光景が微笑ましく、誰も止めることなく朝食を食べ進める。
その雰囲気に、待ったをかけたのはサンドであった。
「ちょっといいかな。アーサーに言われた事なんだけど」
その発言の重さに、全員が独特の緊張感でサンドの次句を待つ。
フェルミナも世話を焼く手を止めたところで、サンドはアーサーから言われた事、つまり『世界樹の疲弊』『他の宇宙からの破壊侵略』『持ってあと1年』などの、アクアの危機について原文ママに伝えた。
「何よそれ、やばいわね」
「そうか……」
「私達だけの問題では無いのですね」
「皆居なくなるのは嫌。です」
「実は、これだけじゃなくてな」
皆のリアクションを受けたサンドは、まだ何かあると匂わせつつ、ポケットから手帳のような物を取り出した。
「それは?」
「アーサーが持っていたんだ」
ブルー襲来の日、アーサーから一人にして欲しいとの要望を受けたサンドは、他の奴隷達と共に、レジャーの引き上げや、ユリウス達の移送などに追われていた。
しばらくしてブルーのコックピットを覗くと、既に事切れたアーサーが、まるで読んでくれと言わんばかりに大事に握っていたという事だった。
「なんて書いてあったの?」
「いや、遺品だからな。ユリウスが見るのが1番だと思うんだが……」
と言って、サンドは言い淀む。
ユリウスの右目は失ってはいないが、まだ両眼には包帯が施されていて、とても何かを読むまでには至っていないからである。
「サンド、読んでくれ」
「良いのか?」
「構わないよ。きっと父さんは皆に伝えたかったと思うんだ」
「分かった。じゃあ読むな」
そう言い、サンドは手帳の中身をめくり、重要な事だけをかいつまんで読み上げる。
「『ユグドラシルの導き』では、過去に何度かアクアは粛清を受けていると推測される。手記には、粛清されないには越した事は無いが、乗り越える手段を綴ると書かれていた」
「それは、『行動』『忍耐』『力』『頭脳』『狂気』『慈愛』の相反する6つの才能、そして1番重要なのが『勇気』の存在であり、『勇気』がそれ等を力とする事である」
「難しいのは、互いが互いを潰し合う事である。我々が読んでいるこの手記では『勇気』が潰されてしまったらしい」
「『勇気』を含めた7つは、アクア宙域の生存本能が危機と感じたら同じ時代に産み落とす」
「果たして、私が知っている者に『勇気』に該当するものがいるだろうか? あの手記には『勇気』は黒髪のタレントで、全てを動かす力があるらしいが、これが見つけられない限り私は、いやアクアはアレに頼るしかないのかもしれない」
「ネルソンが死んだ……ユリウスの処刑は決定的であろう。邪魔はさせん、私がやらなければ」
「ユングを『勇気』だと思ったが、あれは『狂気』に近いのかもしれない」
「ユングが蠱毒作戦を11から13惑星で行うとの通信が入った。虫唾が走るが、人類にはもう時間がない」
そこで手帳は終わっている。
パタリと手帳を閉じたサンドに合わせ、全員より深いため息が漏れた。
「やばい事しか書いてないわね。ヤバ中のヤバじゃない」
「蠱毒作戦とは、なんなのでしょうか?」
「宇宙の大ピンチ! です」
思い思いの感想が皆の口から出るのを、ユリウスはじっと聞くに徹している。
「そうか……父さんは……」
ユリウスは誰にも聞こえないよう呟き、かけているシーツを握る事で感情を押し殺した。
サンドだけは、ユリウスが何かを決意するような、そんな行為にも見て取れたが、追求することはしなかった。
「まぁそれよりも、ここに居る人達をどうにかしないとね」
クリスの発言にサンドとユリウスは深く首肯する。
問題は山積みである。あるが、彼らをどうにかする事を一先ずの第一目標とする事で話は纏まった。
「とりあえず、砂漠に行くか」
行く気満々であったユリウスをクリスが一喝し、サンドとクリスは砂漠へと向かった。
ーーーーーピラミッド
キラキラと輝く広大な砂漠の中、象徴が如く佇む巨大なピラミッドの大広間には、約90人近い人数が集合している。
2名を除きその場にいる者達は、ある日突然に人生を変えられ、昨日、また人生が変わる権利を得た者達である。
「はい、開始ー!」
クリスの合図に、彼等はいそいそとテーブルをくっつけていく。
昨日の朝はそこではラジオ体操が日課で行われていたが、今はまるで巨大セミナーのような形が作られていった。
その講師席とも見れる陳腐な高台の側には液晶モニターが置かれ、そのすぐ横にサンドとクリスは揃って立ち、奴隷だったもの達と向き合う。
ちなみに、ユリウス、ハーレー、フェルミナの3人はクリスの指示のもと備蓄倉庫から映像通信でこの会合に参加をしている。
「さぁ、はじめようか」
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