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クリス=ジャル
クリスとチャム
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都市カムエール
発表会前日のとあるホテルの一室。人間は1人
「とうとう明日ね」
「ヨロシイノデスカ?」
今更戻れないわよ。とクリス=ジャルは続ける
「あのクソ親父とオサラバ出来て、あなたも助けられる。一石二鳥ってやつね」
「オソレイリマス」
悪態をつくクリスとそれに応えるもうひとつ。
クリスの腕に絡みつき、少しカタコトの会話をしているいるソレは人間ではない。
彼女が幼少より共に過ごした親友ではあるが、その子には脈打つ心臓もなければ涙も流さない。
改良に改良を重ねた自立思考型ロボットとでも言った方が早いのかもしれない。
『凸』のようなボディの底辺には収納型の四本脚、360度見渡せる視界カメラ、音声発生装置にマナネット接続可能なおよそ現代日本では考えられない機能性のロボット? である。
「チャム! あなたも覚悟を決めなさい!」
「カシコマリ!」
クリスはおよそ、自分に向けた発破をチャムは巫山戯て返す。
この光景に、彼女たちの仲の良さが伺える。
クリスはベッドに腰掛け、今日までの出来事を回想する。
ーーーーーー10年前
クリスは自他共に認める天才である。
クリスの父親、エディ=ジャルが惑星アールのクライドン技術者であり、幼少よる色々な樹工技術を見る機会があった。
軍の施設にいくら子供と言えど部外者を連れてくるなんて!という意見もあったが、実際にはエディよりクリスの方が技術者としては格上だった為見逃されていた。
クライドンの自立バランス制御もクリスのアドバイスによって完成へと辿り着いた。
みんなが褒めてくれることが嬉しく、クリスは自分はみんなの役に立ってると思い、思う存分腕をふるった。
ーーーーーー7年前
しかし、そんな彼女も11歳を超えた頃、絶望と言う感情に支配される。
きっかけは、たまたま耳に入った技術者同士の会話であった。
「しっかし、クリスちゃんは末恐ろしいよな」
「ああ、エディさんの教育なんだろうけど、自分の娘に人殺しの道具を作らせるっていうのは、俺も技術者だけど理解できんな」
「クリスちゃん本人分かってるんですかね?」
「どうだろうな? 少なくとも楽しく仕事はしているみたいだし、ああいうのを『ユグドの申し子』っていうんだろうな」
クリスは、彼らが何を言っているのか理解できなかった。少なくとも、自身は人の役に立っていると思っていたからだ。
自立バランス制御が出来れば、クライドンは転ばずに済む
高性能な刃があれば、少ない労力で土地の開発が出来る
エディより頼まれた依頼への解決は、必ず人の役に立っている。
そういった信念のもと、クリスは研究に没頭してきたのだが、そんな自分が人殺しの道具を作っていると彼等は口にした。
彼女は確認せずにはいられなかった。
「ちょっと、あんた達。人殺しの道具ってどういう事?」
「うわッ! いや、あのなんでもないよ!」
突然現れた噂話の張本人登場に、彼等は焦った表情で出迎え、答えになっていない返答をし、その場を早足で去っていった。
埒が明かないので、同じ研究所にいるエディに直接聞いてみる事にした。するとエディはあっさりとその事実を認めた。
「どういう事よ……お父さんは、知ってて私に人殺しの道具を作らせてたの!?」
「悪いとは思っている。だがこれもお前のためだ」
「ふざけないでよッ!」
ーーその日を境に、クリスは塞ぎ込んだ
ーーーーーー『その日』から1ヶ月後
「私、なにやってたんだろ……チャム、あなたは分かる?」
クリスは自室で、毎日のように『木片』に話かけていた。
それはあの日、エディの目を盗みラボより盗んだ高純正ユグドラシルである。
5000グラムもあれば太陽系の水星規模であれば20年ユグドの恩恵を受けられる量である。
とても小さなかけらであったが、クリスにはそれをどうしても持ち帰らなければならないと固い意志を持っていた。
それは、クリスの本当の才能が起き上がるきっかけだったのだが、当時のクリスにはそれは分かるはずもない。
自身の研究によって仮説としていた。『ユグドラシル自立思考理論』の証明に向け……
これだけは、数々の技術革新をもたらしたクリスではあるが、全員に理解されなかった。クリスは仮説証明のため、まずは話かけることから始めていた。
なんのためか?
自分だけの理解者。自分だけの友達。自分だけの親友。
ユグドラシルは万能である。マナの概念理解は自分を超えるものは居ないという確信が彼女に奇跡をもたらす。
チャムと名付けた木片に、1ヶ月毎日話かけた次の日…
ふさぎ込んでいた彼女は遂に救われる
「オハヨ……クリ……ス」
微かではあるが、確かにそう聞こえた。
クリスは泣きながら「ありがとう、ありがとう」といるかどうかもわからない神とチャムに感謝をした。
それからはチャムの育成に心血を注いだ。
視覚を得てもいいようにカメラを。
自立できるように脚を。
学を得るためネットワーク機能を。
チャムもそれに応え、どんどん学習していった。
両親や友達から教わるはずの感情を、クリスはチャムから教わることとなる。
ある日、たまには凝った料理でもとビーフストロガノフでも作ろうとクリスは考えたがどうにもレシピがわからない。
ふと現れたチャムが1から手順をクリスへ伝える出来事があった時には
「もうわたしが教わる側ね」
と、感謝と同時に哀しみすら覚えた程である。
何故か? その料理は凄まじく不味かったが、いい思い出である。
チャムにとっても自分の理解者は一人しか居ないため、傍から見れば共依存のような関係になっていったが、当人同士が幸せなので、この友情は美しいことと二人は考えていた。
クリスは人としての心を取り戻しつつ、15歳となり両親の反対を無視し共学へと進み、将来は何かしらの職についてチャムと二人で生きていこうと決めていた。
しかし、幸せな日は長く続かないものである。
ーーーーーー1年前
ある日、クリスが帰宅すると、チャムが腕に絡みつきこう言った
「クリス、ダイジナ、ハナシガアリマス」
いつもであれば「ヲカエリナサイ」と出迎えてくれる親友が、この日は少し変だと感じた。
実はクリスは薄々チャムが何を言うかという予感ついていたが、それを抑え、チャムの次言を待った。
「ワタシハ、消エテシマウカモ……シレマセン」
「そんなこと言わないでよッ!」
クリスは声を荒げた。
その台詞だけは聞きたくなかった。
しかし、言わせたのは自分だと気づき「ごめん……」と謝罪をした。
原因は分かっていた。
チャムの賢さ。つまりは能力にユグドラシルが限界を迎えていたのだ。持ってあと1年といったところだろうか。
いくら高純正ユグドラシルとはいえ、わずかな木片ではチャムの進化を支えられなかった。
しばしの沈黙を経て
クリスは決意した。
「ねぇチャム」
「ナンデショウカ?」
「私に任せて! 絶対にあなたを救うわ!」
クリスの決意は気高く、覚悟にあふれていた。
どんなことがあっても救う。
どんな目にあっても救う。
たとえ、どれだけ人を傷つけたとしても。
たとえ、人としての歯車が噛み合わなくなっても……
問題解決の方法はただ1つ。
高純正ユグドラシルの入手だ。
しかし、普通の女子高生となっているクリスでは高純正ユグドラシルなぞ手に入るはずもない。
なのでクリスは、11歳のころから悪魔の化身だと思っていた父親エディに魂を売ることにした。
「私、クライドンの開発を手伝うわ」
それを聞いたエディは大層喜び「ありがとうありがとう」とクリスに感謝を述べた。
そのリアクションが在りし日の自分に酷似していて、クリスは吐き気を覚えた。
それからは休学し、エディの研究を手伝った。
そのタイミングでクリスは自身の仮説を証明したチャムを技術者に紹介した。
ユグドラシル自立思考理論を目の当たりにした技術者は腰を抜かしたのは言うまでもない。
クライドンの性能向上は、現在どの惑星においても、各種パーツを動かす為のコアのクロックアップやそれに付随しての各パーツ適性化などであったが、クリスの理論により、パーツごとに自立思考させ脚であれば、自分は脚であると学習させる手法を取ることにより現在のクライドンでは考えられない性能を手に入れることが出来るようになった。
もちろん、クリスの助言により、高純正ユグドラシルふんだんに使われているにであるが。
この新クライドンは惑星アールでしか出来ない技術であり、アール軍部関係者は超極秘として開発をおこなっていた。
いくつかの試作機を経て、わずか8ヶ月で完成した新型クライドンは天才技術者の名を借り『ジャルール』となった。
ーーーーーー1週間前
発表会一週間前の夜、ジャルールのコックピット内にてクリスは一息ついていた。
チャムもいつも通りクリスの腕に巻き付いている。
「待たせてごめんね。チャム」
「ダイジ……ョ……クリス」
チャムが無理していることは痛いほどクリスは感じ取っていた。
しかし、この数カ月、チャムを救う手段しか考えてこなかったクリスにはその無理をしているチャムですら微笑ましく感じていた。
クリスはコックピット内の座席下部にある蓋を明けた。中は空洞で凸型になっている。
「ナンデスカ? コノ……穴……」
「それを言われるのはあなたで19回目よ」
クリスは思わず失笑する。あらゆる技術者や軍部関係者に「なにこの穴?」と言われていたのだ。
クリス自身も初回に「こういう遊びも必要よ」と応えてしまったため、天才はやはりアレだという噂が広まってしまったがクリスにはそんなことどうでも良かった。
「さ、チャム。この中に入って」
「ワカリ……マシタ」
凸型の空洞にピッタリとチャムがハマる。
その時、チャムが歓喜の声をあげた
「アア、アアア、クリスコレハ」
「本当は新たなユグドラシルをチャムにくっつけたかったんだけど、流石に盗むにはリスクが大きすぎるし、少し盗んだくらいじゃまた同じ結果を辿るわ」
だから、とは言わずクリスは言葉を続ける
「このジャルール全体がチャムになるように仕掛けたのよ」
「スバラシイデス! コレハ!」
「でしょでしょ!」
子供のように笑い合う二人。この数カ月忘れていた感覚であった。
チャムの負荷を幾らかジャルールに吸って貰うようクリスは注文をつける。
更に、搭載武器を使えなくするようチャムに告げた
「ドウイウ、コトデスカ?」
「今から説明するわ」
クリスの作戦はこうだ。
今から一週間後にジャルールの発表会がある。
そこでテストパイロットが機体性能を魅せるが、全ての武装が使えないトラブルを故意に起こす。
そして技術者であるクリスとチャムが機体点検で乗り込んだ際に、ジャルールごと盗んで惑星アールを飛び立つというものだ。
「キケンデハ?」
「あなたの危機に比べたら、これから起こる苦難なんて楽勝よ」
「クリス……」
チャムは涙を流さないが、人間であれば抱きついていただろうと自己分析する
「イマデハ、ダメナノデスカ?」
「それは駄目よ。今だとこのジャルール1機に対して惑星アール全体が武力を持って追ってくるわ」
更にニコッと笑いクリスは続ける
「発表会にはね、解放軍の偉いさんも来るのよ
そいつ等を盾にした時に武力振りかざせる?」
「クリス、アナタッテヒトハ」
チャムはこの計画がクリスと自身の生死に直結することを理解した。
その上で、今できることをしようと心に誓った
「クリス、細工ニスコシカカリマス、マダココニイテイイデスカ?」
「あ、チャムは発表会までここに居てもいいよ」
「ソレハ、クリスノ寝顔ガミレナイノデイヤデス」
もうッ! っとクリスは照れ笑いするが、まんざらでもなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
発表会前日
とあるホテルの一室。クリスとチャムの部屋
「あ、雨降ってきた。明日に備えてなんか買ってきて食べて寝ようか? チャム」
「ワタシハ、リンゴジュースヲキボウシマス」
「リンゴジュースを消化するユグドラシルなんて聞いたこと無いわよ」
クリスはフフっと笑い、既に買っておいていたリンゴジュースをひとまずチャムに渡し、この街最後の買い物へ出かけた
発表会前日のとあるホテルの一室。人間は1人
「とうとう明日ね」
「ヨロシイノデスカ?」
今更戻れないわよ。とクリス=ジャルは続ける
「あのクソ親父とオサラバ出来て、あなたも助けられる。一石二鳥ってやつね」
「オソレイリマス」
悪態をつくクリスとそれに応えるもうひとつ。
クリスの腕に絡みつき、少しカタコトの会話をしているいるソレは人間ではない。
彼女が幼少より共に過ごした親友ではあるが、その子には脈打つ心臓もなければ涙も流さない。
改良に改良を重ねた自立思考型ロボットとでも言った方が早いのかもしれない。
『凸』のようなボディの底辺には収納型の四本脚、360度見渡せる視界カメラ、音声発生装置にマナネット接続可能なおよそ現代日本では考えられない機能性のロボット? である。
「チャム! あなたも覚悟を決めなさい!」
「カシコマリ!」
クリスはおよそ、自分に向けた発破をチャムは巫山戯て返す。
この光景に、彼女たちの仲の良さが伺える。
クリスはベッドに腰掛け、今日までの出来事を回想する。
ーーーーーー10年前
クリスは自他共に認める天才である。
クリスの父親、エディ=ジャルが惑星アールのクライドン技術者であり、幼少よる色々な樹工技術を見る機会があった。
軍の施設にいくら子供と言えど部外者を連れてくるなんて!という意見もあったが、実際にはエディよりクリスの方が技術者としては格上だった為見逃されていた。
クライドンの自立バランス制御もクリスのアドバイスによって完成へと辿り着いた。
みんなが褒めてくれることが嬉しく、クリスは自分はみんなの役に立ってると思い、思う存分腕をふるった。
ーーーーーー7年前
しかし、そんな彼女も11歳を超えた頃、絶望と言う感情に支配される。
きっかけは、たまたま耳に入った技術者同士の会話であった。
「しっかし、クリスちゃんは末恐ろしいよな」
「ああ、エディさんの教育なんだろうけど、自分の娘に人殺しの道具を作らせるっていうのは、俺も技術者だけど理解できんな」
「クリスちゃん本人分かってるんですかね?」
「どうだろうな? 少なくとも楽しく仕事はしているみたいだし、ああいうのを『ユグドの申し子』っていうんだろうな」
クリスは、彼らが何を言っているのか理解できなかった。少なくとも、自身は人の役に立っていると思っていたからだ。
自立バランス制御が出来れば、クライドンは転ばずに済む
高性能な刃があれば、少ない労力で土地の開発が出来る
エディより頼まれた依頼への解決は、必ず人の役に立っている。
そういった信念のもと、クリスは研究に没頭してきたのだが、そんな自分が人殺しの道具を作っていると彼等は口にした。
彼女は確認せずにはいられなかった。
「ちょっと、あんた達。人殺しの道具ってどういう事?」
「うわッ! いや、あのなんでもないよ!」
突然現れた噂話の張本人登場に、彼等は焦った表情で出迎え、答えになっていない返答をし、その場を早足で去っていった。
埒が明かないので、同じ研究所にいるエディに直接聞いてみる事にした。するとエディはあっさりとその事実を認めた。
「どういう事よ……お父さんは、知ってて私に人殺しの道具を作らせてたの!?」
「悪いとは思っている。だがこれもお前のためだ」
「ふざけないでよッ!」
ーーその日を境に、クリスは塞ぎ込んだ
ーーーーーー『その日』から1ヶ月後
「私、なにやってたんだろ……チャム、あなたは分かる?」
クリスは自室で、毎日のように『木片』に話かけていた。
それはあの日、エディの目を盗みラボより盗んだ高純正ユグドラシルである。
5000グラムもあれば太陽系の水星規模であれば20年ユグドの恩恵を受けられる量である。
とても小さなかけらであったが、クリスにはそれをどうしても持ち帰らなければならないと固い意志を持っていた。
それは、クリスの本当の才能が起き上がるきっかけだったのだが、当時のクリスにはそれは分かるはずもない。
自身の研究によって仮説としていた。『ユグドラシル自立思考理論』の証明に向け……
これだけは、数々の技術革新をもたらしたクリスではあるが、全員に理解されなかった。クリスは仮説証明のため、まずは話かけることから始めていた。
なんのためか?
自分だけの理解者。自分だけの友達。自分だけの親友。
ユグドラシルは万能である。マナの概念理解は自分を超えるものは居ないという確信が彼女に奇跡をもたらす。
チャムと名付けた木片に、1ヶ月毎日話かけた次の日…
ふさぎ込んでいた彼女は遂に救われる
「オハヨ……クリ……ス」
微かではあるが、確かにそう聞こえた。
クリスは泣きながら「ありがとう、ありがとう」といるかどうかもわからない神とチャムに感謝をした。
それからはチャムの育成に心血を注いだ。
視覚を得てもいいようにカメラを。
自立できるように脚を。
学を得るためネットワーク機能を。
チャムもそれに応え、どんどん学習していった。
両親や友達から教わるはずの感情を、クリスはチャムから教わることとなる。
ある日、たまには凝った料理でもとビーフストロガノフでも作ろうとクリスは考えたがどうにもレシピがわからない。
ふと現れたチャムが1から手順をクリスへ伝える出来事があった時には
「もうわたしが教わる側ね」
と、感謝と同時に哀しみすら覚えた程である。
何故か? その料理は凄まじく不味かったが、いい思い出である。
チャムにとっても自分の理解者は一人しか居ないため、傍から見れば共依存のような関係になっていったが、当人同士が幸せなので、この友情は美しいことと二人は考えていた。
クリスは人としての心を取り戻しつつ、15歳となり両親の反対を無視し共学へと進み、将来は何かしらの職についてチャムと二人で生きていこうと決めていた。
しかし、幸せな日は長く続かないものである。
ーーーーーー1年前
ある日、クリスが帰宅すると、チャムが腕に絡みつきこう言った
「クリス、ダイジナ、ハナシガアリマス」
いつもであれば「ヲカエリナサイ」と出迎えてくれる親友が、この日は少し変だと感じた。
実はクリスは薄々チャムが何を言うかという予感ついていたが、それを抑え、チャムの次言を待った。
「ワタシハ、消エテシマウカモ……シレマセン」
「そんなこと言わないでよッ!」
クリスは声を荒げた。
その台詞だけは聞きたくなかった。
しかし、言わせたのは自分だと気づき「ごめん……」と謝罪をした。
原因は分かっていた。
チャムの賢さ。つまりは能力にユグドラシルが限界を迎えていたのだ。持ってあと1年といったところだろうか。
いくら高純正ユグドラシルとはいえ、わずかな木片ではチャムの進化を支えられなかった。
しばしの沈黙を経て
クリスは決意した。
「ねぇチャム」
「ナンデショウカ?」
「私に任せて! 絶対にあなたを救うわ!」
クリスの決意は気高く、覚悟にあふれていた。
どんなことがあっても救う。
どんな目にあっても救う。
たとえ、どれだけ人を傷つけたとしても。
たとえ、人としての歯車が噛み合わなくなっても……
問題解決の方法はただ1つ。
高純正ユグドラシルの入手だ。
しかし、普通の女子高生となっているクリスでは高純正ユグドラシルなぞ手に入るはずもない。
なのでクリスは、11歳のころから悪魔の化身だと思っていた父親エディに魂を売ることにした。
「私、クライドンの開発を手伝うわ」
それを聞いたエディは大層喜び「ありがとうありがとう」とクリスに感謝を述べた。
そのリアクションが在りし日の自分に酷似していて、クリスは吐き気を覚えた。
それからは休学し、エディの研究を手伝った。
そのタイミングでクリスは自身の仮説を証明したチャムを技術者に紹介した。
ユグドラシル自立思考理論を目の当たりにした技術者は腰を抜かしたのは言うまでもない。
クライドンの性能向上は、現在どの惑星においても、各種パーツを動かす為のコアのクロックアップやそれに付随しての各パーツ適性化などであったが、クリスの理論により、パーツごとに自立思考させ脚であれば、自分は脚であると学習させる手法を取ることにより現在のクライドンでは考えられない性能を手に入れることが出来るようになった。
もちろん、クリスの助言により、高純正ユグドラシルふんだんに使われているにであるが。
この新クライドンは惑星アールでしか出来ない技術であり、アール軍部関係者は超極秘として開発をおこなっていた。
いくつかの試作機を経て、わずか8ヶ月で完成した新型クライドンは天才技術者の名を借り『ジャルール』となった。
ーーーーーー1週間前
発表会一週間前の夜、ジャルールのコックピット内にてクリスは一息ついていた。
チャムもいつも通りクリスの腕に巻き付いている。
「待たせてごめんね。チャム」
「ダイジ……ョ……クリス」
チャムが無理していることは痛いほどクリスは感じ取っていた。
しかし、この数カ月、チャムを救う手段しか考えてこなかったクリスにはその無理をしているチャムですら微笑ましく感じていた。
クリスはコックピット内の座席下部にある蓋を明けた。中は空洞で凸型になっている。
「ナンデスカ? コノ……穴……」
「それを言われるのはあなたで19回目よ」
クリスは思わず失笑する。あらゆる技術者や軍部関係者に「なにこの穴?」と言われていたのだ。
クリス自身も初回に「こういう遊びも必要よ」と応えてしまったため、天才はやはりアレだという噂が広まってしまったがクリスにはそんなことどうでも良かった。
「さ、チャム。この中に入って」
「ワカリ……マシタ」
凸型の空洞にピッタリとチャムがハマる。
その時、チャムが歓喜の声をあげた
「アア、アアア、クリスコレハ」
「本当は新たなユグドラシルをチャムにくっつけたかったんだけど、流石に盗むにはリスクが大きすぎるし、少し盗んだくらいじゃまた同じ結果を辿るわ」
だから、とは言わずクリスは言葉を続ける
「このジャルール全体がチャムになるように仕掛けたのよ」
「スバラシイデス! コレハ!」
「でしょでしょ!」
子供のように笑い合う二人。この数カ月忘れていた感覚であった。
チャムの負荷を幾らかジャルールに吸って貰うようクリスは注文をつける。
更に、搭載武器を使えなくするようチャムに告げた
「ドウイウ、コトデスカ?」
「今から説明するわ」
クリスの作戦はこうだ。
今から一週間後にジャルールの発表会がある。
そこでテストパイロットが機体性能を魅せるが、全ての武装が使えないトラブルを故意に起こす。
そして技術者であるクリスとチャムが機体点検で乗り込んだ際に、ジャルールごと盗んで惑星アールを飛び立つというものだ。
「キケンデハ?」
「あなたの危機に比べたら、これから起こる苦難なんて楽勝よ」
「クリス……」
チャムは涙を流さないが、人間であれば抱きついていただろうと自己分析する
「イマデハ、ダメナノデスカ?」
「それは駄目よ。今だとこのジャルール1機に対して惑星アール全体が武力を持って追ってくるわ」
更にニコッと笑いクリスは続ける
「発表会にはね、解放軍の偉いさんも来るのよ
そいつ等を盾にした時に武力振りかざせる?」
「クリス、アナタッテヒトハ」
チャムはこの計画がクリスと自身の生死に直結することを理解した。
その上で、今できることをしようと心に誓った
「クリス、細工ニスコシカカリマス、マダココニイテイイデスカ?」
「あ、チャムは発表会までここに居てもいいよ」
「ソレハ、クリスノ寝顔ガミレナイノデイヤデス」
もうッ! っとクリスは照れ笑いするが、まんざらでもなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
発表会前日
とあるホテルの一室。クリスとチャムの部屋
「あ、雨降ってきた。明日に備えてなんか買ってきて食べて寝ようか? チャム」
「ワタシハ、リンゴジュースヲキボウシマス」
「リンゴジュースを消化するユグドラシルなんて聞いたこと無いわよ」
クリスはフフっと笑い、既に買っておいていたリンゴジュースをひとまずチャムに渡し、この街最後の買い物へ出かけた
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