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第3章 無人島から脱出

18・保存食

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 1人1個の石斧を作った俺達は、山の頂上にある大きい木のところまで登って来た。

「おお~……」

 改めて近くで見るとやっぱりでかいなー。
 誤差はあれど、両手を水平にして横いっぱい広げた時の長さが大体自分の身長と同じくらいというから……太さは1m40cmちょいくらいかな?
 で、高さは……全然わからん。
 両手の指を使って大体の高さを測る方法もあったんだが、完全に忘れてしまった。
 まぁなんにせよトモヒロも乗るとなると、これの木が一番いいって事には変わりない。
 伐ったり、中をくり抜くのは大変だろうけどな。

「ほへ~……」

「大きいわねぇ~」

「そうですね……」

 ユキネさん、ベルルさん、ケイトは木を見上げて呆けている。
 そうなっちゃうよね。

「ほんまにこれを伐り倒せるんか?」

 伐り倒せるんかじゃない、伐り倒すんだよ。

「頑張るしかないです……主にトモヒロとベルルさんが……ですけど」

「やっぱりぃそうなるのねぇ……石斧はぁ何個必要なのかしらぁ?」

 何個で済むのかな。
 何十個……いや、下手をすれば何百個になるかもしれない。
 でも、それを言ったらベルルさんのみならず全員のやる気が落ちるだろうから黙っておこう。
 だって俺がそうだから……。

「それじゃあまず、木を伐る為の基本的な事から入りましょうか」

 俺は木の裏側に回り込んだ。

「伐り倒す方向の幹に、30度から45度くらいの三角の切り込みを木の直径3分の1くらいまで入れます」

 みんなに説明しつつ、切り込みを入れやすいようにナイフで印を掘った。
 うーん、この作業ですら結構時間がかかりそうだな。

「何でそないな面倒な事するん? そのまま伐ったらええやん」

「そのままで伐ると、木が私達の方へと倒れて来る可能性があって危険なんです。この切れ込みを入れておくと、そっちに木が倒れて安全に伐り倒せるという訳です」

「わたくしも祖父からこのやり方を聞いた事があります」

「そうやったんか。じゃあ面倒でもやらなあかんな」

 そういう事になります。

「これからは木の伐採作業がメインになりますが、生活の方も蔑ろには出来ません」

 これが難しい所。
 どっちも大事だから、うまく両立させていかないと。

「ですので拠点をこの近くに移転させようと思っているのですが、どうでしょうか?」

 作業の度に山を登ってというのはどう考えてもきつい。
 船が通る可能性もまだ十分あるが、今後の事をふまえるとここは思いきった方がいいだろう。
 まぁ山の頂上付近なら狼煙も十分見えるだろうしな。

「わたくしは異存はありません」

「ウチも」

「沢とのぉ距離はほとんど変わらない?」

「え~と……多分……」

 登りがある分、こっちになった方がちょっときついかもだけど。

「じゃあそれでいいわよぉ」

 全会一致。
 さっそく拠点の移動開始だ。



 山の付近で出来る限り平坦な所を探し、その場所へと拠点を移動させた。
 そしてみんなで話し合った結果、基本的にトモヒロが毎日伐採作業を行い、ベルルさんは2~3日に1度は石斧作り、他の人は手が空いたらどっちかを手伝うという形を取る事にした。

 が……早々に問題が起きた。

「ぜぇ~……ぜぇ~……疲れたし……手も痛い……」

 俺のひ弱問題である。
 石斧を木に数回打ち込んでこのざまだ。
 すぐにへばってしまうし、手も真っ赤。
 この身体だと、どうしても力仕事には向かない。

「お嬢様は一休みして下さい。後はわたくしがやりますので」

「あ、うん……」

 役立たずすぎる。
 これじゃあただのお荷物だ。
 でも、だからといってこのまま何もしないっていうのも駄目だよな。
 考えろ……ひ弱な俺でも出来る事を……考え……。

「…………あ、そうか」

 その考える事が俺の出来る事じゃないか。
 島から出た後の事も考えておかないといけないじゃないか。
 なにせ海の上だから色々と限られてくる。
 すぐに救助される確証なんて全くない、もしかしたら数日間は海の上で過ごす羽目になるかもしれない。
 となれば、水と食料は絶対に船に積んでおかないぞ。

 水に関したら、拾った空き瓶の中に入れるしかないけど……それだと数に不安があるな。
 竹みたいに中が空洞で筒状になっている植物の中に水を入れて、水筒代わりにする方法を取りたいところだ。
 そういう代わりになる様なのが無いのか、島を探してみた方がいいかもしれない。

 そして食料だけだけど、これはもう保存食で決まりだ。
 海の上だから釣りをする手もあるけど、ボウズなんてシャレにならないからな。
 となれば保存食の定番、干物作りをして行こう。

「ケイト、作業しながらでいいから聞いてほしんだけど」

「はいっ! なんでしょう!」

「魚の干物を作っていこうと思うから、魚を使う時は分けてくれない?」

「わかり、ました!」

 これで魚は確保できた。
 魚の干物の作り方は実に簡単だ。
 魚の身を開いて内臓を取り出してよく洗う。
 そして、海水に1時間程度浸してから天日干ししてカラカラに乾けば完成。

 でも、保存食が魚の干物だけというのもな……そうだ、木の実とか食べられる野草も干してみよう。
 ただ干物に向いているのと向いていないのがあるから、そこは実験していかないといけないな。
 全部が全部成功するとは限らないし。

 いや、どうせなら干物以外の保存食もあった方がいいな。
 他の種類となると燻製……。

「ふぃ~……疲れたわ~……」

 肩を回しながらユキネさんが戻って来た。

「そんな時は糖分補給! ハチミツ一口もらうで~」

 ユキネさんはハチミツの入ったビンに枝を差し込み、枝についたハチミツをチュウチュウと吸った。
 ハチミツ……そうだ、ハチミツ!
 ナッツやレモンをハチミツにつけたハチミツ漬けも保存食だ。
 量的に沢山は無理だけどやる価値はあるぞ。

 よし、さっそく保存食作りを始めよう。



 保存食作りを開始してから1週間。
 石斧の石が予想以上に壊れやすく、かなり手こずったがもうじき木を伐り倒せるとこまで進んだ。
 一方俺の方はと言うと……。

「今日も駄目か……」

 仕掛けた落とし穴の前に、未だ機能していなくて肩を落としていた。
 魚、野菜……というか植物ときたら、やっぱり肉も欲しい。
 肉も魚と同様に干物にすれば保存食になるからな。
 けど、現実はそんなに甘くなかった。
 適度に場所を変え、落ちた瞬間に鳴子が鳴ってわかりやすい様にもしたのだが一向に獲物が落ちる気配がない。

「……まぁこればかりは獲物獲物次第だから、どうしようもないか……」

 無駄だろうけど、何もしないよりはマシだよな。
 俺は収穫した木の実を3個手に持ち、落とし穴の上へと投げ落としてから拠点へと戻った。



 今日は保存食の試食会。
 まずい物を持って行っても仕方ない! だから事前に食べてみて、美味しい物だけを持って行こう!
 というユキネさんの案だ。
 保存食を食べてみたいだけの様な気もするけど、確かにまずい物をもって行ってもなと思いやる事にした。

「それでは、試食会を始めま~す」

「「わ~!」」

 俺の言葉にユキネさんとベルルさんが沸いた。

「お嬢様、まずはどれから行きますか?」

「そうね……手堅いところで魚の干物から食べてみようかな」

「はい。では、どうぞ」

 ケイトから干物を受け取り、かぶりついた。
 うん、うまい。
 あー……これと一緒にコメも食いたいなー!

「ウチはこの干し芋や。きっと甘くておいしいはず……ハムッ、モグモグ……」

 ユキネさんが見つけたサツマイモみたいな芋を口に入れた。
 毒が無いけど、味も無いというよくわからない芋の一種。
 干し芋にすれば味が出るかなと思い試してみたけど……。

「モグモグ……う~ん……」

 ユキネさんが複雑な表情をしている。
 干し芋にしても味は無かったようだ。
 なら、失敗と考えてもよさそうだな。

「これぇ甘くておいしくなっているわぁ!」

 ベルルさんはハチミツにつけたグレップルの実を食べて感動している。
 なるほど、まだ熟していない状態でもハチミツのおかげで甘くなるのか。
 それなら甘未として十分使えそうだ。

 保存食を口にして意見を言い合う、ユキネさんの提案は正解だったな。
 この試食会のおかげで積む物がだいぶ絞られ……。

『プギィイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!』

「――っ!」

 突然、獣の雄たけびとカタカタと鳴子の音が森の中で響き渡った。

「こ、この音は……!」

 落とし穴に獲物がかかったぞ!!
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