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第2章 無人島の日々

11・海の怖さ

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 そうだ、飯といえば塩がほしいな。
 食事の味付けはもちろん、人には塩分も必要だ。
 それに保存食作りにも使えるしな。
 うん、次の作業はこれに決まりだ。

 えーと……塩の作り方は色々あるけど、海水を煮詰める方法で作ってみるか。
 そうなると薪だけだと燃料として不安があるな。
 よし、燃料とろ過装置の事も考えて炭を作るとするとしよう。

「みんな、炭を作ろうと思うので手伝ってください」

「炭? 焚き火の炭やとあかんの?」

「ん~と……もっとちゃんとした炭を作りたいんですよ」

「ちゃんとした炭ぃ? 炭に違いがあるのぉ?」

 えー……どう説明したらいいんだ。
 正直、俺もいまいちわかっていないし……。

「と、とにかく必要な物なので作ります!」

 俺は強引に炭作りに取り掛かった。

 まず必要なのは薪と大量の泥、つまり土だ。
 その辺りから適当に取って来てもいいけど、どうせならシェルターの外側の屋根の下に溝を掘ってその土を使うとしよう。
 溝を掘れば屋根から流れた雨水は地面に溜らず流れていく。
 そのまま雨水を逃がしてもいいし、溝の先に大きな穴を空けて雨水を貯めておくのもいい。
 やっておいて損はない。

 俺は溝を掘る場所に線を引いて、ユキネさんに溝の事を説明をしてトモヒロと一緒に任せる事にした。
 溝を掘ってくれている間に俺達は炭となる薪の準備だ。

 地面に太い木を1本地面に突き刺して固定させる。
 突き刺した太い木を軸にして、その周りに薪をどんどん立て掛けていく。
 それが出来たら薪全体を枯れ葉で覆う。

「ふぅ~……こんな感じかな? なぁアンちゃん、これでいいの?」

 ユキネさんの方を見ると綺麗な溝が出来ていた、あれなら大丈夫だろう。
 で、目的だった土もいい具合に山になっているな。
 泥を使うタイミングだったから丁度良かった。

「土の山に水をかけて、泥を作る……」

 泥が出来たら、下から山を作る感じで薪を覆った枯れ葉に塗っていく。
 泥の山が出来たら、てっぺんと山の下に数カ所の穴を空ける。
 てっぺんの穴は火を入れる為、下の穴は空気穴になるわけだ。

「上の穴に火を入れて、燃やしていく……」

 この時に泥の山にひびが入ると崩れてしまうから、見つけ次第埋める。
 崩れてしまったら全部台無しになるから重要な事だ。

「これで炭が出来るのですか?」

「あ、うん……」

 初めてだから正直何とも言えない。
 けど、自信がないって言ったらここまでやっておいて! ってツッコまれそうだから返事が濁る。

「お、下の穴から火が見えてきたで」

「本当ですか?」

 ユキネさんの言葉に俺は下の穴を覗き込んだ。
 確かに火が見えているな。
 それを確認した俺は泥でその穴を塞いだ。

「えっ! 穴塞いでしまうん!?」

「そうするらしいんです」

「なんでなん?」

「……さあ……でも、これが重要らしいです」

 酸素が関わっているらしいけど……俺自身、この行動に関してもちゃんと理解できていなかったりする。
 動画でそうしていた、だから俺もそうするだけだ。
 それだけだから説明なんて出来ない。

 残りの穴も火が見えたら泥で塞いでいって、全部塞いだら最後にてっぺんを塞ぐ。
 後はこのまま置いておいて、泥の山が冷えきったら炭が完成している……のはずだ。
 うまく出来ているかどうかは泥の山を崩す時までわからない。

「後は、このままで放置しておくだけです。その間に夕ご飯の食料を探しましょうか」

「なら、海に行こうや! 海!」

 海か。
 まぁこの辺りの食べ物はほぼないようなものだし、今夜はスライム貝焼きにでもするか。

「ふっふふ~密かに作ったこの銛で魚を捕って、今度はウチが活躍する番や!」

 ユキネさんが取り出したのは、石器を木の棒の先に蔓でぐるぐる巻きにして取り付けた物。
 銛というか槍の様な……というか、あれで魚を獲れるのだろうか。

「よし! やったるで~!!」

 やる気満々のユキネさんの姿を見ると無理じゃないかと言い出せない。
 獲れたらラッキー程度に考えておこう……。



 海についた早々、ユキネさんは銛を持って勢いよく海に飛び込んだ。
 トモヒロも後に続こうとしたが、道具も無いし手掴みでは魚を獲れないので俺達の手伝いをしてくれる事になった。
 大きな石を動かすのは大変だったから、トモヒロの手伝いは非常に助かるな。

「……ん?」

 ケイトが手を止め、海の水平線をじっと見ていた。
 これはもしかして……。

「ケイト、船が見えたの?」

「船かどうかはわかりませんが……やはり、遠くで動いているモノが見えます」

「……あぁ~、確かに小さくてぇ動いているのが見えるわねぇ」

 同じ獣人のベルルさんも見えているっぽい。
 となれば、今すぐ狼煙をあげれば見つけてもらえるかな。

『――ウホッ!! ウホウホッ!!』

 そう思っていると、トモヒロがいきなり叫び出した。

「急にどうしたんですか? トモヒロ」

『ウホッ! ウホッ!』

 訳も分からない状況で、トモヒロはいきなり海へと入り泳ぎ出した。
 一体なんだというんだ?

「あっ! ユキネちゃんが溺れてるわぁ!」

「えっ!?」

 ベルルさんが指をさした方を見ると、海面で両手をバタバタさせているユキネさんの姿があった。
 さっきまで浅瀬にいたのに、いつの間にあんな沖に……あっ!!

「離岸流で流されてしまったんだわ!」

 離岸流は沖に向かって流れるかなり強い潮の流れだ。
 巻き込まれると泳ぎが得意な人でもあっという間に沖に流されてしまう。

「ユキネさん! 落ち着いて! そのままじっとして――」

 大声を出しても、ユキネさんの動きが止まらない。
 駄目だ、俺の声は届いていないっぽい。
 トモヒロは離岸流のせいかうまく泳げていないし、このままだとマズイぞ!

「――っ! わたくしもいきます!」

「それは駄目!!」

 海に飛び込もうとしたケイトを俺は必死に止めた。

「溺れている人に近づくと、しがみ付かれて2人共溺れてしまう可能性があるから危険よ!」

 いくら獣人のケイトでもかなり危ない行動だ。

「ですが、このままだと!」

「そうよぉ! ユキネちゃんがぁ!」

「わかっています! 木とか浮く物をユキネさんの近くに投げて!」

 俺達は拾ってあった流木を必死にユキネさんの近くへと投げた。

「ユキネさん! 木に! 浮いている木にしがみ付いて下さい!」

 今度は俺の声が届いたのか、必死なだけだったのかわからないが、ユキネさんは近くに浮いていた木の板にしがみ付いてくれた。
 そして、トモヒロがユキネさんの傍へとたどり着いた。

「トモヒロ! こっちに泳いでこないで、まず陸と平行に泳いでその場所からを脱出して!」

『ウホッ!!』

 トモヒロはユキネさんを抱えて陸と平行になる様に真横に泳ぎ始めた。
 離岸流の幅は約10~30mほど、そこから抜けてしまえば潮の流れも弱くなってこっちに戻ってこれる。

「ゲホッ! ゲホッ!」

 ユキネさんがむせて咳をしているのが聞こえる。
 息も意識もあるようだな。
 あー良かった……無事に救出できた。
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