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終章 二人の書~アースとレイン~

二人の書~アースと【レイン】・4~

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 アースは何も言わず、動かず、ただただアタシを見ている。
 どうして、何も言ってくれないの……?
 わからない……どうしていいのかわからない。

「ねぇ……お願い……アースの声を聞かせて……」

 アタシの言葉に対してアースは静かに首を振った。
 その行動を見て、アタシは悲しくなりこれ以上の言葉を口から出せなくなってしまった。
 その時、扉が開く音が聞こえた。
 誰かがこの檻のある部屋に入って来たようだ。

「……うるさい侵入者共じゃなぁ……」

 部屋に入ってきたのは男性の老人の様だ。

「まったく、捕まっておるのじゃから静かに大人しく……んん?」

 白髪交じりで立派なフルフェイスの髭を蓄えた老人が檻の中を覗き込み、アタシと目が合った。
 間違いない! このお爺さんは!

「オリバーじゃないの!」

「おお、やはりレインじゃったかぁ! 久しぶりじゃのぉー5年ぶりくらいかぁ?」

 満面の笑みを浮かべている老人こそ、オリバー・ジョサム。
 共にファルベインと戦った仲間の1人だ。

「10年よ! ……それよりも、どうしてこんな所にあなたが居るのよ?」

 アタシの質問にオリバーは満面の笑みから、即キョトンとした顔になった。
 相変わらず表情の切り替わりが早い爺さんね。

「どうしてって……そりゃあ、ここがワシの家じゃから」

「えっ!? ここってオリバーの家なの!?」

 家にこんな檻があるって……変な考えも方をするところも全然変わってないわね。
 それにしても、占い師の言う通りだったわね。
 本当に北の大陸でオリバーが居たわ。
 あっそうか、経緯はわからないけどアースは鎧の体になってしまった。
 それでオリバーに何とかしてもらおうと探していた。
 ……うん、そうに違いない。

「そうじゃよぉ。で? お前さんの方こそ、ここで何をし……って、なんじゃ!? 壁が崩れておるじゃないか!」

 オリバーが穴の空いた壁に驚いている。
 今までなんで気が付かなかったのか……いやいや、そんな事よりこれはちゃんと謝らなくちゃ。

「あの……ごめん……これをやったの、アタシなの……」

「はあっ!? お前さんがこれをやったのか! まったく、元気すぎる所は全然変わっとらんのぉ……少しは落ち付いたらどうじゃ」

 うう、何も言い返せない。

「まったく、後でちゃんと直してもらうからなぉ……あと、レインの目の前で座り込んでいるそのプレートアーマーはなんじゃ? 変な魔力を纏っているのを見る限り普通のプレートアーマーではなさそうじゃが」

 流石オリバー、一目で見抜いている。
 その辺りは全く衰えていないわね。

「アースよ」

「…………は? 今何と言った?」

「だから、このプレートアーマーはアースなの」

「アースって……おいおい、変な冗談は……」

「アタシがこんな冗談を言うと思うの?」

「……」

 アタシの言葉にオリバーは真面目な顔になる。
 そして、アースの方をちらりと見てから鉄格子の鍵を開け、檻の中へと入って来た。

「……そうじゃったなぁ。すまん、レインはそんな冗談を言う奴じゃなかったわい」

 オリバーはアースの体をベタベタと触り始めた。
 アースは嫌がるそぶりも見せず、オリバーに身を任せている。

「…………ふむ」

 一通り触ったオリバーは触るのをやめ頭を掻き始めた。
 ……あのしっぶい顔に頭を掻くのは自分の考えが纏らない時の癖だ。
 オリバーでもアースの状態がわからないのね。

「こりゃあ、外にいる連中に話を聞いた方が良さそうじゃなぁ……よし、飛ぶぞ」

「飛ぶ? ――きゃっ!」

 オリバーが床に右手を置いた瞬間、魔法陣が出現して光り出した。
 これってさっきここに来た時と同じ光だ!
 そして、アタシ達は真っ白い光に包まれた。


「うわっ!」
「きゃッ!」
「あ、出て来た」

 光が収まると目の前には3人の姿があった。
 ジョシュア、アイリス……いや、ラティアちゃん、そして黒髪の使い魔。

「レイン! 無事だっ――って、オリバー!?」

 ジョシュアがオリバーの姿を見て驚いている。
 まぁ突然出て来て驚くなという方が無理よね。

「アース様! ご無事で良かったでス!」

 ラティアちゃんがアースに駆け寄り抱き付いた。

「本当ニ……本当ニ……心配しましタ…………え? 中でそんな事があったのですカ!? ……なるほド、それではレイン様はアース様の事を……」

 あれ? このやり取り、ラティアちゃんにはアースの声が聞こえているみたいね。
 どうしてラティアちゃんには……待てよ、ラティアちゃんはストレイト家……ストレイト家と言えば死霊魔術師ネクロマンサーの一族で……はっ!

「アースをプレートアーマーの姿で復活させたのは、ラティアちゃんなんじゃあ!?」

「はイ。その通りでス、レイン様」

「やっぱり!」

 どうしてプレートアーマーの姿なのかはわからないけど、アースがここに居る理由は理解できた。
 そうか、ラティアちゃんの力だったんだ……。

「なるほどのぉ、この変な魔力の正体は死霊魔術ネクロマンシーじゃったのかぁ。……ふむふむ、実に興味深いのぉ」

「え? え? どういう事? ちょっと! ボクにもわかるように説明してよ!」

 アタシは色々と納得し、オリバーは自分の髭を擦りながら理解し、状況がまったく理解できていないジョシュアは喚いている。
 ちゃんとジョシュアにもアースの事を伝えておかなくちゃね。

「あのね、ジョシュ……」

「……ねぇそこの爺さんって、もしかして……」

 ジョシュアに説明しようとすると、黒髪の使い魔が遮って来た。
 お~い……人の話を遮るなよ。

「……ん? おお、エイラじゃないか! いやぁ今日は懐かしい奴ばかり会うのぉ」

「あ~やっぱりそうなんだ」

 オリバーと使い魔が親し気に話している。

「エイラ、オリバー様と知り合いだったノ?」

「ほえ? オリバー? 違うよ、この爺さんの名前はベリオーブ。ずいぶんと老けちゃってて、最初わからなかったけど」

「「「ベリオーブ?」」」

 その名前って、どこかで聞いた事がある様な……。

「あーもう隠していても仕方ないかぁ……そうじゃ、ワシの本当の名前はベリオーブ。ベリオーブ・セイジじゃ」

「「「……えっ? えええ!?」」」

 ベリオーブ・セイジ。
 昔話に出て来る伝説の錬金術師じゃない!
 
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