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6章 二人の戦闘と取逃

アースの書~戦闘・2~

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 2人と合流してさっそく施設へと向かうとするか。
 いや、その前に武器屋によって剣を……。

『……』

「……」

「……」

 それよりも宿屋を探す事の方が最優先だな。
 日陰で休んでいるラティアとエイラが、うつろな目をして遠くの空を見ている。
 これはどう見ても非常にまずい状況だ。
 ラティアはともかく、エイラまでこんな事になるとは思いもしなかったぞ。
 俺は先ほどの男性の所に戻り、宿屋の場所を聞いたのち2人を運ぶことにした。



 ◇◆アース歴9年 6月23日◇◆

 一晩宿屋に泊まり、施設に向かう前に武器屋に立ち寄った。
 本当なら俺が生身で振り回していた時のショートソードを使いたいところだが……ファルベインの胸に突き立てて自爆されたんだ、流石に粉々に砕けてしまっているだろう。
 仮に残っていたとしても、10年間野ざらしになっていればボロボロになっていてどの道使えない。
 まぁ無い物ねだりをしても仕方ない。
 そもそも、今からファルベインと戦った場所に行く事は出来ないんだし。

『えーと、あれと同じくらいの大きさのショートソードは……』

 これなんてどうかな。
 数多く置かれているショートソードの1本を手に持ち軽く素振りをしてみる。

『んんー……』

 しっくりくるようなこないような……この体になったせいか、いまいち感覚がつかめない。
 となると、他のショートソードを持っても同じ事になりそうだな。
 なら、もうこれにしようか……。

「ね~ね~! これなんてどうかな?」

 悩んでいると背後からエイラの声がした。

『ん? どれ……』

 振り返り、俺は言葉を失った。
 エイラが持って来たのはオーウェンが持っていそうなバスターソード。

『……却下だ』

「え~なんでよ~!」

 不服そうにするエイラ。
 どうして却下されたのかわかっていないのか。

『そんなデカイ物、持った瞬間に俺の両手が外れるのが目に見えているだろ!』

 生身の時ですら持てなかった物がこの体で持てるわけがない。
 身の丈に合わない武器は使うもんじゃない。
 集まった勇士の中にも見栄を張って身の丈に合わない武器を持っている奴がいた。
 そいつは武器を使いこなせず、すぐに戦場から離脱してしまった。

「あ~そうか……」

 エイラは納得し、バスターソードを元の場に戻した。
 てか、オーウェンですら両手を使っていたのにエイラは片手。
 ドラゴニュートの腕力ってすげぇな。

「あノ、これなんてどうでしょうカ?」

 今度はラティアか。

『ん? どれ……』

 振り返り、今度も俺は言葉を失った。
 ラティアが持っていたのはショートソード、そこまではいい。
 だが問題なのはショートソードその物だ。
 金ピカに光り、ジャラジャラと宝石等が装飾されている。
 どこぞの貴族が使う剣だよ……。

『……却下だ』

「駄目ですカ? アース様にふさわしいと思ったんですけド……」

『そういうのは実戦に使えないんだよ』

 装飾された剣は基本に飾られたり、己の位を示す為の物。
 だから今の俺には全く不要だ。

「そうですカ……」

 ラティアは肩を落とし、派手な剣を棚に戻した。

「ね~ね~! じゃあこれはどう?」

 次にエイラが持って来たのは長槍。
 駄目だ、早くショートソードを買って店を出よう。
 じゃないと時間の無駄になってしまうだけだ。
 結局、手にしていたショートソードを購入して俺達は施設へと向かった。



 マレスの出て、教えてもらった場所に行くとそこには石で出来た大きな神殿があった。
 他に建物はないし、ここが魔術研究の施設なんだろう。

『ここが施設みたいだな。中にはサソリ型モンスターが居るらしいから注意して入ろう』

「はイ、わかりましタ」

「了解~……って、中は暗いね」

 施設の中に入ると、施設の奥は真っ暗ではないもののかなり暗い。
 どうやらほとんどの窓が瓦礫に埋もれてしまっているらしい。
 サソリ型モンスターが暴れたせいかもしれんな。

『これは明かりが必要だな』

「ですネ。準備をするので少し待ってくださイ」

 ラティアは袋からランプを取り出し、その明かりを頼りに俺達は施設の奥へと進んだ。
 施設の中は、予想以上に入り組んでおり部屋もたくさんあった。
 部屋の中には研究で使われていたであろう器具や書類が散乱していた。

「ねぇ~本当にオリバーって人がここに居たの? というか、サソリ型モンスターもいる感じがしないけど?」

 探索に飽きたのか、エイラがぼやいている。
 オリバーの手掛かりがないか片っ端から資料に目を通すが、それらしき物はない。
 そしてサソリ型モンスターが居るような痕跡すらも見当たらない。

『うーん……』

 オリバーの手掛かりがないかもとは思っていたが、サソリ型モンスターが居ないのは何故だ。
 施設から外に出ようとしないと言っていたが……実はもう外に出ていってしまったとか?
 なら、こうして当てもなく通路を歩いていても仕方がないか。

「アース様、どうしましょうカ」

『そうだな……ん?』

 今、ラティアの頭上で何か動いた様な……。

『――っ! ラティア!』

「えッ?」

 天上に居た何かがラティアに向かって飛びかかって来たのが見えた。
 俺はとっさに身を乗り出し、ラティアを突き飛ばした。

 ――ガシャーン!

 ――ガキーン!

「キャッ! ――うギャッア!」

 ランプが地面に落ちた音。
 金属が叩かれた音。
 そして、ラティアの断末魔が通路に響き渡る。

「え? なに!? 何が起きたの!?」

 驚いたエイラが慌ててランプを拾いあげる。
 そこに照らされたのは大人の人……。

『なっ!?』

「シャーーーーーーーー!」

 ……の形をした何かが居た。
 だがどう見ても人間ではない、2本足で立ってはいるが顔は眼が8個あり、口元には鋏角。
 両手は巨大なハサミ、胴体からは4本の触肢が生えている。
 そしてサソリの特徴である毒針の付いた尻尾が俺達に向けられている。

『……もしかして、あれが変異サソリなのか?』

「えっ! あれが!? ……何をどうしたらあんな風になっちゃうのよ……」

 それは俺が聞きたい。
 まさか人型になっているとは思いもしなかった。
 俺はてっきり大きくなったか、一部が変化したとばかり……。

『あっそうだ、ラティア!』

 俺はラティアの存在を思い出し、人型サソリを警戒しつつ目線をラティアへと向ける。
 ラティアは地面に倒れ込んでいた。

『ラティア!』

「ラティ!」

 その姿を見たエイラが慌てて近づき体を起こした。

「むきュ~……」

 起こされたラティアは目を回して気絶をしている様だ。

「ラティ! ラティ! ……頭にタンコブが出来ているけど、他に怪我はなさそうね」

 タンコブ……そしてさっきの断末魔……。
 突き飛ばした時に、通路の壁で頭を打ったのかもしれない。
 おかしいな、そんなに強く押したつもりは無かったんだが……。

「シャーーーーーーーー!」

 って、今はそんな事よりも現状をどうにかしないと。
 戦うにしてもこの通路は狭すぎる。
 剣を振った時に壁に当たってしまう可能性がある。

『となると……エイラ! ラティアを抱きかかえてくれ! 合図をしたら、走って逃げるんだ!』

「え? わっわかった!」

 逃げるが得策。
 俺は地面の砂を手にすくい、人型サソリの顔に目掛けて投げつけた。

「ウギャアアアアアアアアア!」

 人型サソリは怯み、後退りをした。
 目がたくさんあるおかげで簡単に目つぶしが出来たぞ。

『よし、今だ!』

「うん!」

 俺の言葉にエイラはラティアを背負い走り出す。
 俺もその後を追いかけた。

『で、出口にはあとどれくらいでつく?』

 このまま施設の中にいると、人型サソリがまた襲って来るのは間違いない。
 ここは一度外へと逃げる方がいい。

「え? アースが出口に案内するんぢゃないの?」

『はあ!? マッピングしてないから、わかるわけないだろ!』

「ちょっと! 嘘でしょ! ぢゃあ、あ~し達はどこに向かって走っているの!?」

『俺が知るかよ!!』

 そんな言い争いをしている間にも、俺達はどんどん施設の奥へと進んでしまったのだった。
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