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4章 二人の修理と盗賊

レインの書~盗賊・3~

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 それにしても闘争の女神ソフィーナか。
 ある意味、アタシにピッタリなのが選ばれたわね。

「ソフィーナって……え? えっ? ちょっと待ってよ、レイン。一体何を言っているのさ」

 もうジョシュアったら、アタシはソフィーナだって言ったのに。

「レインじゃなくてソフィーナよ。これからはアタシの事をそう呼ぶように」

 と言いつつ、アタシ自身も気を付けないといけないわね。
 意識していないとソフィーナって呼ばれても反応出来なさそう。

「呼ぶようにって……どういう事なのか、さっぱりわかんないんだけど」

 ジョシュアがまた首をひねって不思議そうな顔をしている。
 どうもアタシの考えがわかっていないみたいね。
 まったく、仕方が無いな~。

「いい? 協会に入る前って、帝国が関わっている件があってもアタシ達個人の事だから好きに首を突っ込めた。でも、今は協会に入ってから好きに出来ない。けど、旅の剣士【ソフィーナ】という人物が居れば話は別。どこで何をしようが、協会に迷惑が掛からない」

 正体がアタシだってバレなければね……。
 けど、バレなければかなり使える。
 今まで帝国が関わっているからと、目を背けていた件がいくつかあった。
 でも旅の剣士【ソフィーナ】として、そういったしがらみのある件でもどんどんと関わっていける。

「それに名前があった方が今後も便利でしょ?」

 アタシって馬鹿だな~。
 なんでもっと早くこの事を思いつかなかったのかしら。

「……なるほど、確かにそうだけど……それだと【ソフィーナ】が帝国にマークされちゃうんじゃない?」

「……あ」

 そこまで考えていなかった、確かにジョシュアの言う通りだ。
 ソフィーナが帝国にマークされるのはまずい。
 アタシだってすぐにバレちゃう可能性がある。

「そこはどうするの?」

 どうしよう。
 ここまでやっといて、やっぱり偽名の話は無しで~……って言うのも非常に格好が悪い。
 何とかジョシュアの質問に対して答えを絞り出さねば。

「あ~う~え~……そっその時は、また名前を変えればいいだけよ!」

 そうよ、アタシにはあと9人の女神の名前がある。
 そもそも女神に拘らなくても、偽名なんだから自由に名乗ればいいだけの話だわ。

「んー……そんな単純な事で誤魔化せるのかな?」

 ジョシュアがアタシに疑いの視線を送って来た。
 いや、ジョシュアだけじゃない……ジムさんとガンシュさんも同じような目をしている。
 やめて、そんな目でアタシを見ないで!

「――っだ、大丈夫よ!!」

 痛い視線を切るように、アタシは勢いよく立ち上がった。
 ここまでくるとアタシも後には引けない。
 ごり押してでも、このやり方を貫いてやるんだから!

「ジムさん、ガンシュさん!」

 まずはこの件に対して重要である、この2人から。
 ジョシュアは後回し。

「「はっはい!」」

 2人は急に名前を呼ばれた事に驚いたのか、アタシにつられたのかわからないけど勢いよく立ち上がった。
 別に立ち上がらくてもいいんだけど……まあいいか。

「くれぐれも名前には気を付けて下さいね! アタシはレインじゃあありません、ソフィーナです! いいですか! アタシは! 旅の! 剣士の! ソフィーナ! です!」

 低くて威圧感のある声を出して2人を交互に見る。

「はい、わかりました!」

「よろしくお願い致します! 旅の剣士のソフィーナさん!」

 こんな威圧のある声を出すのはモンスター相手の時で、一般人に対して出す事は無いんだけど……つい出てしまった。
 とはいえ、この感じだと2人はこれで大丈夫そうね。

「そして、ジョシュ……あっ」

 そうか、よくよく考えたらアタシだけ偽名を使っても意味がない。
 ジョシュアの偽名も考えないといけなかったわ。
 う~ん……ん~……んん~……うん、何も思いつかない。

「……ジョシュアってさ、あだ名は何て呼ばれていた?」

「あだ名? また急だな……色々呼ばれていたけど、ジョンとかジョシュと――」

「じゃあ、ジョンで」

 覚えやすいし、なんか呼びやすい。

「――か……え、今なんて?」

「今日からアタシはソフィーナ、あなたはジョン。オーケー?」

「オーケーって……ちょっと待ってよ、ボクの偽名をなに勝手に決めているのさ! こういうのは名乗る本人であるボクが考えるべきでしょ!?」

 確かにジョシュアの言う事は正しい……正しいけど、今はそんな事どうでもいい。
 アタシはもうこの場に居たくないの、ごめんねジョシュア。

「今は時間がないって言ったでしょ! それにあだ名で呼ばれていたんだからいいじゃない。はい、決まり! それでは準備を整え次第、盗賊の討伐に行きますので、これで失礼します!」

 まずはメイスを手入れに出しちゃっているから、それを回収しないと。
 後アタシ達だとわからない様に、顔や姿が見えない物を買わないとね。

「いやいやいやいや、そんなの納得できないよ! 待って、すぐに考え……って、レイン! やめて! 放してよおおおおおおおお!」

 アタシはジョシュアの手を取り、応接間から出ようとした。
 しかしジョシュアはそれに対して居座ろうと抵抗してくる。
 もう~往生際が悪いわね。

「えーと……あー……盗賊退治をよろしくお願い致します、ソフィーナさん、ジョンさん。どうかお気をつけて」

 そんなやり取りをしているアタシ達に対して、ジムさんがアタシ達に頭を下げた。

「あっはい! 任せて下さい」

「嘘でしょ! 町長さんまでジョン呼びなの!?」

 ジムさんがジョンと呼んだ。
 ならこの場に居るのはレインとジョシュアじゃない。
 旅の剣士ソフィーナ、ジョンというわけだ。

「ほら、さっさと行くわよ。ジョン!」

「ええええ!! ちょっとまってよおおおおおおお!」

 アタシは泣き叫ぶジョシュアを引き摺り、町長さんの家を出て即鍛冶屋へと向かうのだった。
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