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4章 二人の修理と盗賊

アースの書~修理・1~

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 ◇◆アース歴9年 6月13日◇◆

 リリクスを出発してはや2日。
 俺達は馬車を乗り継いでアカニ村へと向かっていた。

「……うう……お尻が痛イ……」

 俺の中に居るラティアが唸っている。
 それはそうだ、この2日間この馬車の揺れに加えて金属の俺の中に入っているのだから。

「すぴ~すぴ~」

 誰もいない俺の右隣から寝息が微かに聞こえる。
 不可視魔法で姿が見えないエイラが寝ているみたいだ。
 姿は消えていてもエイラの存在自体は消えるわけじゃない。
 だから普通に声も聞こえるし、物体を通り抜ける事も出来ない。
 今は馬車に乗っている人が少ないからエイラが乗っているが、人が多い時は馬車の中には入れない。
 その時は仕方なく馬車の天井の上にいるか、飛んで馬車と並走をしているらしい。
 毎回外に出る時は雨が降ってきませんようにと祈っている。
 うーん……ラティアを含め、もうちょっと快適な旅にする方法を考えないといけないな。
 どうすれば2人の負担が減らせるだろうか。

「あれ? なんか馬車が止まりましたヨ」

 本当だ。
 考え事をしていて馬車が止まった事に気が付かなかった。

『おかしいな、まだ停車する場所でもないのに』

 他の客も馬車が止まった事に動揺をしている。

「すみません。ちょっとお待ちください」

 御者が俺達に一声かけて馬車から降りて行った。

『んー?』

 外を覗いて見ると、プレートアーマーをきた3人組が道を塞いでいる。
 その3人の御者が近づき何やら話している。

「何かあったんですかネ?」

 あの3人の佇まいやプレートアーマーの具合を視るに、どこかの兵士っぽい。
 もしかして俺達を捕まえる為にレインが包囲網を引いたんじゃないだろうか。
 もしだとすれば、すぐに逃げる様にしておかないと。

「あ、御者さんが戻ってきましたヨ」

 御者が何やら焦っている様子で馬車に戻って来た。

「お客さん、この先に盗賊が住み着いて馬車を襲っているらしいです」

 それで兵士が道を塞いでいたのか。
 レインの包囲網じゃなくてよかった。
 いや、盗賊が馬車を襲っているのだから良くないか。

「ですので、この件が解決するまで先に行けません。申し訳ないのですが、この馬車はこの近くにあるアルガムまでとさせて頂きます」

 そうなるよな。
 まぁこの場で降ろされるよりはましか。

「アース様、どうしましょウ」

 近くにレインがいるのならさっさと逃げたいところだが、この2日は全く見ていない。
 この通行止めも包囲網じゃないとなれば焦る必要もないよな。

『こればかりは仕方ない。アルガムで様子を見よう』

「わかりましタ。そうしましょうカ」

「すぴ~……」

 ※

 ここがアルガムか。
 思ったより大きい街だな。
 ……あ、だったら鍛冶屋があるかもしれんぞ。

『なあ、宿屋へ行く前に鍛冶屋を探さないか?』

 鍛冶屋があるのなら、頭の凹みを治しておきたい。
 レインが目印にしているし、俺的に凹んでいるというのは気分的に嫌だ。

「鍛冶屋ですカ?」

「なになに? 新品の体にするの?」

『違うよ、俺の頭の凹みを直したく……って、新品の体? それはつまり、俺の魂を別の鎧に入れ替えられるって事か?』

 それが出来るのならば、頭の凹みなんて気にしなくていいじゃないか。
 それどころか常に体を入れ替えればレインを簡単にまける。
 なんだ、早く言ってくれよな。

「アースの魂はアーメットに付着しているから、別の鎧に乗せれば体は入れ替えられるよ。とは言っても、すぐに動けるってわけでもないけどね。新たに魔力を鎧に纏わせないといけないから1~2日はかかちゃうかな」

 なんだ一番変えたかったアーメットは無理なのか。
 鎧もこれと同じようなタイプでないと駄目だな。
 でないと、組み合わせ次第で逆に目立ってしまう。
 鎧が金銀で豪華なのにアーメットだけ普通って不自然過ぎるぞ。

『そっか、それは残念……ちょっと待て、俺の魂がアーメットに付着ってじゃあこの頭が破損をした場合は……』

「もちろん、アースの魂は消滅しちゃうね」

 やっぱりか!!
 あっぶねぇ! あの時のレインの一撃で俺が消えていたかもしれなかったのか。
 頭が凹んだだけで済んで良かった……本当に良かった。

「あの~……アーメットを直す方向になっていますが……私としては、その……アース様を脱ぎたくないでス……」

 そうだった。
 自分の頭の事ばかり考えていて、ラティアの事を忘れていた。

『すまない、ラティアは素顔を出したくないから俺の中に入っていたんだったな』

「それもありますけド、(アース様に包まれているというこの状況を捨てるのは勿体なイ……)」

『ん? 何か言ったか?』

「あッ! いやッ! ナンデモナイデス! アハハハハハ!」

 レインを誤魔化した時みたいに、片言で声が高くなっているのは何故だろう。
 いまそんな事をする必要は無いんだが……まぁいいや、それよりもこの状況を考えなければ。

『どうしたものか……うーん』

 とは言っても、俺の頭の凹みを直すには脱ぐしかない。
 しかし、脱いでしまうとラティアの顔が出てしまう。
 両方は無理だし……まさにあちら立てればこちらが立たぬだ。
 こういうのが一番難しいんだよな。

『そもそも、俺はラティアの眼は綺麗だと思うから別に隠す必要なんてないと思うんだがな……』

「――ッ!!」

 ラティアの眼を見てからずっとそう思っていた。
 しかし、それで虐められてラティアの心に傷ついてしまった事も事実だ。
 やはりここはラティアの事を優先して……。

「いっいいいいいま、なっなんておっしゃいましたカ!?」

『へっ? 今?』

 俺、何か言ったっけ?

「わっわわ私の眼が……その……きっききききき綺麗とかなんとカ……」

『っ!』

 しまった! さっき思ったのが声に出してしまっていたか!
 これはやってしまった!

『すまない! 決して変な意味で言ったんじゃないんだ! ラティアの眼は本当に綺麗で――』

「アース様に綺麗だと言われタ、この眼ヲ……綺麗だト……――ッ! 鍛冶屋さんを探しましょウ! そして、アース様の頭を直しましょウ!」

『え、でもそれだと君の顔が……』

「大丈夫でス! 何の問題もありませン! さぁ行きましょウ!」

 えっ? えっ? 何がどうなったんだ?
 ラティアが急にスキップを踏んで歩き出したぞ。
 一体ラティアの身に何が起こったんだ!?



「ん~この辺りにはあの追っかけて来る人間は居ないみたいだし、ラティを知っている人間もいない。だったら、普通に前髪を下ろせばいいだけだったんぢゃ? ……まぁいいか、ラティが嬉しそうだし黙ってよっと……ちょっと待って、あ~しを置いて行かないで~」
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