上 下
4 / 75
2章 二人の逃走と追跡

アースの書~逃走・2~

しおりを挟む
 ハッ! 俺の事よりも他のみんなはどうなったんだ?
 皆を巻き込まない様、一か八かで魔法の壁プロテクションを張ったが防げたのだろうか。

『みんなはどうなったんだ? オーウェンは? レインは? ジョシュアは? オリバーは?』

 無事でいてくれればいいんだが……。

「ご安心ください、アース様以外はご無事でス」

『……そうか。それは良かった』

 何とかファルベインの自爆を防げていたのか。
 本当は俺を含めて全員が無事っていうのが一番いい形だったんだけどな。
 まぁみんなが無事だったからいいとしよう。

「で、今は英雄五星と呼ばれてますヨ」

『ブッ!』

 英雄五星って。
 4人共そういった肩書は嫌いだから拒否しただろうな。
 けど、この感じだと無理やり呼ばれているいるんだろう。
 ……ん? 待てよ、五星って事は……。

「あっ無論、アース様を含めてでス」

『……デスヨネ』

 暦だけじゃなくて、そっちにも俺の名前が入っているのか。
 勘弁してくれよ……せめて名前を残すとしてもどっちかにしてほしかった。

「あのさ~色々聞きたいのわかるけど、とりあえず立ってないで座ったら?」

 空中で浮きながら胡坐をかいているエイラが諭してきた。
 そうか、俺はともかくラティアちゃんを立たせたままは駄目だよな。

『そうだな』

 この部屋にある椅子は1つ。
 となれば、ラティアちゃんに椅子を譲って俺はベッドに座るとしよう。

『それで色々聞きたいんだけど……』

「はイ! なんでも聞いてくださイ!」

『……』

 あれ、なんでラティアちゃんは俺の隣に座って来たんだ?
 横にいるより対面の方が話しやすいんだけれども。

「どうかしましたカ?」

 ラティアちゃんが不思議そうに俺を見つめている……のかな。
 前髪がかかっているから表情がよくわからん。
 ……まっいいか、ラティアちゃんを椅子に座る様に言うのおかしいし、俺が椅子に座り直すのはもっとおかしいしな。

『いや、なんでもないよ』

 これ以上話を止めるのもあれだし続けるとしよう。
 兎にも角にも、まずはこれを聞かないといけないよな。

『えーと……話の続きなんだけど、どうして俺の体がこうなってしまったんだ? ラティアちゃんがフランクさんの娘だから死霊魔術ネクロマンシーを使って俺を蘇らせたと予想はしているんだが……普通ならゾンビかスケルトンとかになるんじゃないのか?』

 正直、ゾンビやスケルトンで蘇るのは嫌だけどな。

「あっ私の事はラティアとお呼びくださイ。え~と……そのお体になってしまった理由なのですが、本当はアース様の体で行おうとは思っていましタ。でも、ファルベインとの戦いでアース様のお体は粉々に吹き飛んでしまったようで……どうしようもなかったのでス」

 マジかよ、俺の体って粉々に吹き飛んでしまっていたのか。
 うわー……何も残っていないとか悲しすぎる。

「もちろん、他の入れ物へと考えてはいたのですが……この別荘では鎧くらいしか人型がなかったのデ……」

 だからって鎧を使うのはどうなのよ。
 まあ納得はしていないが、この体の理由は分かった。
 あと、この娘の感覚が少しズレている事も。

『なるほどね。にしても、ラティアちゃ……ラティアはすごい死霊魔術師ネクロマンサーだなー。魂を無機質に宿すなんて』

 こんな事例は初めて聞く。
 これもまた死霊魔術ネクロマンシーの進化系なのだろうか。

「すっすごい死霊魔術師ネクロマンサー!? いいエ! 全然でス! むしろ私は死霊魔術ネクロマンシーが使えないのですかラ!」

『はあ?』

 ラティが両手と頭を左右にブンブン振って否定している。
 いやいや、死霊魔術ネクロマンシーが使えないっておかしいだろ。
 それで蘇った俺がここに居るわけなんだし。

『それはおかしいじゃないか、俺はこうして……』

「あ~、そこはあ~しが説明した方がいいかな。ラティは一応死霊魔術ネクロマンシーは使えるんだよ」

 エイラが俺の目の前に胡坐をかいたまま俺の傍に飛んで来た。
 結局、使えるのか使えないのかどっちなんだよ。

「ただ、ラティ自身が持っている魔力量が少なすぎて使えない状態だっわけ。で、あ~しと取引をしてあ~しの魔力をラティに流し込んで死霊魔術ネクロマンシーを使えるようにしたの。まぁ魔力を一気に流し込むと危険だから使えるまで1年くらいかかちゃったけどね」

 そういう事だったのか。
 魔力量不足で術が使えないってのはよく聞く話だ。
 確かにそれだと死霊魔術ネクロマンシーを使えるけど使えないな。

『ふむ、その話を聞いて納得はしたよ』

 ……したけど、同時に懸念も出て来た。
 死霊魔術ネクロマンシーを使えるようにし、鎧に魂を宿す。
 そこまでして俺を蘇らせる意図は何だ?
 それが一番大事だった……色々と起こりすぎて冷静さがかけていたな。
 何かしらの意図があると考えて聞くべきだった……。

『…………どうしてそこまでして俺を蘇らせたんだ?』

 今更感はあるが、この言葉で2人の反応を見る。
 少しでも不審を感じたら逃げる事を考えよう。

「あっそれはアース様にどうしても会いた……じゃなくテ! おっお礼が言いたかったんでス!」

『お礼?』

 マジか? たったそれだけで死人を起こすってか。
 迷惑な話だな。

「はい! 家にいらっしゃった時、私は落ち込んでいたのをアース様は優しくお声を掛けて励ましてくれたのでス……あの時はありがとうございまス! あの言葉の励みがあるから私は今を生きていられるんス!」

『そっそうか、それは何より……』

 そんな事あったっけ? 俺は全然覚えていないぞ。
 嘘なのかな……やはり、ここは逃げるべきか?

「……クンクン……ん? 何か焦げ臭いような……ああっそうだった! シチューを食べようと思って火にかけたんだった!」

「なんですっテ!? そんな大事な事を忘れないでヨ!」

 焦げ臭い? ……俺には何も臭わないな。
 やっぱりこの体は嗅覚を失っているか。
 
「その時にラティがあ~しを呼んだんぢゃん! あ~しのせいじゃないよ!」

「とっとにかク! 早く消しに行くわヨ! このままだと火事になっちゃウ!」

 2人が大慌てで部屋から出て行ってしまった。
 それを見て俺は立ち上がり窓に近づく。
 窓には施錠をしてなければ、何らかの魔法が掛けられている様子もない。
 しかも、この部屋は1階にある。
 これなら窓を乗り越えれば簡単に逃げ出せそうだ。

『今すぐ逃げるかどうか……ん? 丘の上に人が居るな』

 窓から見える丘にの上に1人の女性が立っている。
 その女性は紅色の髪、腰にはメイスを下げていた。
 俺はあの風貌をした女性を1人だけ知っている。

『レイン……?』

 俺の考えが正しければ、多分あの女性はレイン本人だ。
 いてもたってもいられなくなった俺は窓から飛び出し、レインと思わしき女性の元へと走った。
 今の自分の姿がどうなっているかも忘れて……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

新人神様のまったり天界生活

源 玄輝
ファンタジー
死後、異世界の神に召喚された主人公、長田 壮一郎。 「異世界で勇者をやってほしい」 「お断りします」 「じゃあ代わりに神様やって。これ決定事項」 「・・・え?」 神に頼まれ異世界の勇者として生まれ変わるはずが、どういうわけか異世界の神になることに!? 新人神様ソウとして右も左もわからない神様生活が今始まる! ソウより前に異世界転生した人達のおかげで大きな戦争が無い比較的平和な下界にはなったものの信仰が薄れてしまい、実はピンチな状態。 果たしてソウは新人神様として消滅せずに済むのでしょうか。 一方で異世界の人なので人らしい生活を望み、天使達の住む空間で住民達と交流しながら料理をしたり風呂に入ったり、時にはイチャイチャしたりそんなまったりとした天界生活を満喫します。 まったりゆるい、異世界天界スローライフ神様生活開始です!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

半身転生

片山瑛二朗
ファンタジー
忘れたい過去、ありますか。やり直したい過去、ありますか。 元高校球児の大学一年生、千葉新(ちばあらた)は通り魔に刺され意識を失った。 気が付くと何もない真っ白な空間にいた新は隣にもう1人、自分自身がいることに理解が追い付かないまま神を自称する女に問われる。 「どちらが元の世界に残り、どちらが異世界に転生しますか」 実質的に帰還不可能となった剣と魔術の異世界で、青年は何を思い、何を成すのか。 消し去りたい過去と向き合い、その上で彼はもう一度立ち上がることが出来るのか。 異世界人アラタ・チバは生きる、ただがむしゃらに、精一杯。 少なくとも始めのうちは主人公は強くないです。 強くなれる素養はありますが強くなるかどうかは別問題、無双が見たい人は主人公が強くなることを信じてその過程をお楽しみください、保証はしかねますが。 異世界は日本と比較して厳しい環境です。 日常的に人が死ぬことはありませんがそれに近いことはままありますし日本に比べればどうしても命の危険は大きいです。 主人公死亡で主人公交代! なんてこともあり得るかもしれません。 つまり主人公だから最強! 主人公だから死なない! そう言ったことは保証できません。 最初の主人公は普通の青年です。 大した学もなければ異世界で役立つ知識があるわけではありません。 神を自称する女に異世界に飛ばされますがすべてを無に帰すチートをもらえるわけではないです。 もしかしたらチートを手にすることなく物語を終える、そんな結末もあるかもです。 ここまで何も確定的なことを言っていませんが最後に、この物語は必ず「完結」します。 長くなるかもしれませんし大して話数は多くならないかもしれません。 ただ必ず完結しますので安心してお読みください。 ブックマーク、評価、感想などいつでもお待ちしています。 この小説は同じ題名、作者名で「小説家になろう」、「カクヨム」様にも掲載しています。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

【完】転職ばかりしていたらパーティーを追放された私〜実は88種の職業の全スキル極めて勇者以上にチートな存在になっていたけど、もうどうでもいい

冬月光輝
ファンタジー
【勇者】のパーティーの一員であったルシアは職業を極めては転職を繰り返していたが、ある日、勇者から追放(クビ)を宣告される。 何もかもに疲れたルシアは適当に隠居先でも見つけようと旅に出たが、【天界】から追放された元(もと)【守護天使】の【堕天使】ラミアを【悪魔】の手から救ったことで新たな物語が始まる。 「わたくし達、追放仲間ですね」、「一生お慕いします」とラミアからの熱烈なアプローチに折れて仕方なくルシアは共に旅をすることにした。 その後、隣国の王女エリスに力を認められ、仕えるようになり、2人は数奇な運命に巻き込まれることに……。 追放コンビは不運な運命を逆転できるのか? (完結記念に澄石アラン様からラミアのイラストを頂きましたので、表紙に使用させてもらいました)

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました

遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。 追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。 やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。

処理中です...