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1章 二人の始り

レインの書~始まり~

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 ◇◆アース歴9年6月2日◇◆

 いつだったか、誰かに言われた事がある。

「ジョシュア! そっちに行ったわよ!」

 アタシの髪が紅色なのは、モンスターの返り血を浴びすぎたからなのではないか……と。

「わかった! ここは通さないよ!」

「ギギッ!」

 そんなわけない。
 アタシの髪の色は元から紅色よ。

「はああああああっ!」

 ――ドガッ!

「グギャアアアアアアアアア!」

 ただ否定も出来ないわね。
 アタシはアース達と出会う前から、このメイスで幾多のモンスターを狩っていたし。

「うへー脳天直撃……レインは相変わらず容赦のない一撃だね」

 英雄五星と呼ばれるようになってからも各地でジョシュアと共にモンスター狩り続けている。
 だから、そう言われても仕方ないと自分でも思う。

 英雄五星。
 約10年前、魔神ファルベインを倒したパーティー。
 アース・カルデナス。
 オーウェン・サンティア。
 ジョシュア・ティリス。
 オリバー・ジョサム。
 そしてアタシ、レイン・ニコラス。

 アタシとしては、この英雄五星の1人と呼ばれるのは不服だったりする。
 確かに5人でファルベインに戦った。
 戦ったけど、トドメの一撃を与えたのはアースだし、ファルベインの自爆をとっさに魔法の壁プロテクションで自分とファルベインの周りに張り爆発の被害を食い止めたのもアース。
 アースの命を懸けた行動が無ければ、アタシ達はファルベインの道連れになっていたに違いない。
 だから、英雄と呼ばれるのはアースだけだとアタシは思う。

 でも帝国【ディネッシュ】の現皇帝はわかりやすく英雄像を国民に見せたかったようで、アタシ達のパーティーを英雄五星と持ち上げ、ファルベインと共に散っていったアースの名前は暦になった。
 他の3人もアタシと同じように英雄扱いが不服だったらしく、早々にディネッシュを離れてしまった。

 オーウェンは帝国の手が届かない村や街がモンスターや物資不足で苦しんでいるのをどうにかできないかと考え、独自で組合を立ち上げた。
 モンスターの討伐や物資供給といった物を依頼者は報酬金を提示。
 その依頼を組合に所属しているメンバーがこなし、成功すれば報酬金を受け取る。
 最初は無償で依頼を受けていたが、流石にそれだと組合に所属する人なんて集まらないし、組合の維持も出来ない。
 オーウェンはなくなく報酬制にしたけど、こればかりは仕方ないと思うな。

「いまのが最後の一匹?」

 で、今のアタシはジョシュアと共にオーウェンの組合に所属している。
 ディネッシュを出た後は、何故かずっとくっついてくるジョシュアと共に各地を回りモンスターを狩っていた。
 ところが3年ほど前にオーウェンが「組合が大きくなってきて戦力が足りないから組合に入ってほしい」とアタシ達に泣きついて来た……。
 まぁ元々モンスターを狩っていたし、お金も貰えるしでアタシ達は組合に入る事にした。

「うん、今ので21匹目だから事前に数えていた数と同じだよ」

 今日は依頼にあった僻地に出てくるゴブリンの退治。
 比較的簡単だからすぐに済んだわね。

「そう。だったらさっさと組合に戻りましょう」

 ちなみにオリバーの爺さんはわからない。
 一体どこに行ったのやら……。



 ◇◆アース歴9年6月6日◇◆

「おう、お疲れさん」

 組合に顔を出すと、オーウェンが椅子に座り書類を書いていた。
 相変わらずその姿は違和感しかない……一緒に戦った仲間だからなおさら。
 座っているより最前線に立った方がいいとは思うけど、今は組合の長だからそれは出来ないよね。

「オーウェンもね。それじゃあジョシュア、ゴブリン退治の手続きをお願い。アタシは他の依頼を見てくるわ」

「うん、わかった」

 さて、どんな依頼が来ているかな。
 え~と……買出し……ドブ掃除……害虫駆除……。

「ん~」

 掲示板に貼られた依頼書は雑用系ばかり。
 それも大事な仕事なんだけど、アタシはモンスター討伐に専念したい。
 アタシの大事な家族を奪ったモンスター。
 アタシの大切な仲間を奪ったモンスター。
 モンスターは種類を問わず憎き存在。

「少しでも多くのモンスターを殲滅してやるんだから……お?」

【討伐依頼・リリクスの街付近に現れたジャイアントスネーク】

「依頼の日付は……今日か。なら、この案件は放ってはおけないわね」

 ジャイアントスネークは名前通りの巨大なヘビ。
 普段は山の奥や沼にいるけど、たまに人里に出没して牧場や人を襲う。
 時間が経てば被害が拡大するのは目に見えている。
 なら、最初に見つけたアタシがやらないとね。

「ジョシュア、手続きは終わった?」

「もうじき終わるよ。次の依頼が決まった?」

「ええ、次はジャイアントスネーク狩りよ」

「スネッ!?」

 アタシの言葉にジョシュアの顔が青ざめている。
 ああ、そうか。ジョシュアってヘビが苦手だっけ。
 狩人のくせにヘビが苦手なのもどうなのか……。

「……ほっ他の依頼にしない? ほら、買出しとかドブ掃除よか害虫駆除とかー」

 ジョシュアが依頼の貼ってある掲示板に走って来て、手あたり次第に指をさしている。
 必死すぎる……そんなに嫌なのね。

「これに決めたのよ!」

 でもそんな甘えは許さない。
 このまま話していてもジョシュアは動きそうにないから、襟元を掴んで無理やり引っ張って行こう。

「グエッ! なっ何をするの! 放してよ! ちょっと!」

「はい、オーウェン。次の依頼はこれにするわ」

 オーウェンの机にジャイアントスネークの依頼書を乗せる。
 こうなればもう受理したようなものだ。

「ジャイアントスネークか……よろしく頼むぜ」

「うん、任せて」

「任せないで! この手を放してぇえええええええええええ!!」

 ジョシュアが手足をバタつかせて抵抗してくる。
 ええい! ジタバタと暴れて往生際が悪いわね!

「あんたはもう28歳でしょ! もう子供じゃないんだから! ほら、行くわよ!!」

「いくつになってもいやなものは嫌なの!」

 こうなったらジョシュアを引きずって行くしかない。
 まったく、世話の焼ける子なんだから!

「おりゃあああああああああああああああ!!」

「いやだあああああああああああああああ!!」 

 こうして、アタシとジョシュアはリリクスの街へ向かった。
 イタズラな神がほほ笑んだとも知らずに……。
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