2 / 75
1章 二人の始り
レインの書~始まり~
しおりを挟む
◇◆アース歴9年6月2日◇◆
いつだったか、誰かに言われた事がある。
「ジョシュア! そっちに行ったわよ!」
アタシの髪が紅色なのは、モンスターの返り血を浴びすぎたからなのではないか……と。
「わかった! ここは通さないよ!」
「ギギッ!」
そんなわけない。
アタシの髪の色は元から紅色よ。
「はああああああっ!」
――ドガッ!
「グギャアアアアアアアアア!」
ただ否定も出来ないわね。
アタシはアース達と出会う前から、このメイスで幾多のモンスターを狩っていたし。
「うへー脳天直撃……レインは相変わらず容赦のない一撃だね」
英雄五星と呼ばれるようになってからも各地でジョシュアと共にモンスター狩り続けている。
だから、そう言われても仕方ないと自分でも思う。
英雄五星。
約10年前、魔神ファルベインを倒したパーティー。
アース・カルデナス。
オーウェン・サンティア。
ジョシュア・ティリス。
オリバー・ジョサム。
そしてアタシ、レイン・ニコラス。
アタシとしては、この英雄五星の1人と呼ばれるのは不服だったりする。
確かに5人でファルベインに戦った。
戦ったけど、トドメの一撃を与えたのはアースだし、ファルベインの自爆をとっさに魔法の壁で自分とファルベインの周りに張り爆発の被害を食い止めたのもアース。
アースの命を懸けた行動が無ければ、アタシ達はファルベインの道連れになっていたに違いない。
だから、英雄と呼ばれるのはアースだけだとアタシは思う。
でも帝国【ディネッシュ】の現皇帝はわかりやすく英雄像を国民に見せたかったようで、アタシ達のパーティーを英雄五星と持ち上げ、ファルベインと共に散っていったアースの名前は暦になった。
他の3人もアタシと同じように英雄扱いが不服だったらしく、早々にディネッシュを離れてしまった。
オーウェンは帝国の手が届かない村や街がモンスターや物資不足で苦しんでいるのをどうにかできないかと考え、独自で組合を立ち上げた。
モンスターの討伐や物資供給といった物を依頼者は報酬金を提示。
その依頼を組合に所属しているメンバーがこなし、成功すれば報酬金を受け取る。
最初は無償で依頼を受けていたが、流石にそれだと組合に所属する人なんて集まらないし、組合の維持も出来ない。
オーウェンはなくなく報酬制にしたけど、こればかりは仕方ないと思うな。
「いまのが最後の一匹?」
で、今のアタシはジョシュアと共にオーウェンの組合に所属している。
ディネッシュを出た後は、何故かずっとくっついてくるジョシュアと共に各地を回りモンスターを狩っていた。
ところが3年ほど前にオーウェンが「組合が大きくなってきて戦力が足りないから組合に入ってほしい」とアタシ達に泣きついて来た……。
まぁ元々モンスターを狩っていたし、お金も貰えるしでアタシ達は組合に入る事にした。
「うん、今ので21匹目だから事前に数えていた数と同じだよ」
今日は依頼にあった僻地に出てくるゴブリンの退治。
比較的簡単だからすぐに済んだわね。
「そう。だったらさっさと組合に戻りましょう」
ちなみにオリバーの爺さんはわからない。
一体どこに行ったのやら……。
◇◆アース歴9年6月6日◇◆
「おう、お疲れさん」
組合に顔を出すと、オーウェンが椅子に座り書類を書いていた。
相変わらずその姿は違和感しかない……一緒に戦った仲間だからなおさら。
座っているより最前線に立った方がいいとは思うけど、今は組合の長だからそれは出来ないよね。
「オーウェンもね。それじゃあジョシュア、ゴブリン退治の手続きをお願い。アタシは他の依頼を見てくるわ」
「うん、わかった」
さて、どんな依頼が来ているかな。
え~と……買出し……ドブ掃除……害虫駆除……。
「ん~」
掲示板に貼られた依頼書は雑用系ばかり。
それも大事な仕事なんだけど、アタシはモンスター討伐に専念したい。
アタシの大事な家族を奪ったモンスター。
アタシの大切な仲間を奪ったモンスター。
モンスターは種類を問わず憎き存在。
「少しでも多くのモンスターを殲滅してやるんだから……お?」
【討伐依頼・リリクスの街付近に現れたジャイアントスネーク】
「依頼の日付は……今日か。なら、この案件は放ってはおけないわね」
ジャイアントスネークは名前通りの巨大なヘビ。
普段は山の奥や沼にいるけど、たまに人里に出没して牧場や人を襲う。
時間が経てば被害が拡大するのは目に見えている。
なら、最初に見つけたアタシがやらないとね。
「ジョシュア、手続きは終わった?」
「もうじき終わるよ。次の依頼が決まった?」
「ええ、次はジャイアントスネーク狩りよ」
「スネッ!?」
アタシの言葉にジョシュアの顔が青ざめている。
ああ、そうか。ジョシュアってヘビが苦手だっけ。
狩人のくせにヘビが苦手なのもどうなのか……。
「……ほっ他の依頼にしない? ほら、買出しとかドブ掃除よか害虫駆除とかー」
ジョシュアが依頼の貼ってある掲示板に走って来て、手あたり次第に指をさしている。
必死すぎる……そんなに嫌なのね。
「これに決めたのよ!」
でもそんな甘えは許さない。
このまま話していてもジョシュアは動きそうにないから、襟元を掴んで無理やり引っ張って行こう。
「グエッ! なっ何をするの! 放してよ! ちょっと!」
「はい、オーウェン。次の依頼はこれにするわ」
オーウェンの机にジャイアントスネークの依頼書を乗せる。
こうなればもう受理したようなものだ。
「ジャイアントスネークか……よろしく頼むぜ」
「うん、任せて」
「任せないで! この手を放してぇえええええええええええ!!」
ジョシュアが手足をバタつかせて抵抗してくる。
ええい! ジタバタと暴れて往生際が悪いわね!
「あんたはもう28歳でしょ! もう子供じゃないんだから! ほら、行くわよ!!」
「いくつになってもいやなものは嫌なの!」
こうなったらジョシュアを引きずって行くしかない。
まったく、世話の焼ける子なんだから!
「おりゃあああああああああああああああ!!」
「いやだあああああああああああああああ!!」
こうして、アタシとジョシュアはリリクスの街へ向かった。
イタズラな神がほほ笑んだとも知らずに……。
いつだったか、誰かに言われた事がある。
「ジョシュア! そっちに行ったわよ!」
アタシの髪が紅色なのは、モンスターの返り血を浴びすぎたからなのではないか……と。
「わかった! ここは通さないよ!」
「ギギッ!」
そんなわけない。
アタシの髪の色は元から紅色よ。
「はああああああっ!」
――ドガッ!
「グギャアアアアアアアアア!」
ただ否定も出来ないわね。
アタシはアース達と出会う前から、このメイスで幾多のモンスターを狩っていたし。
「うへー脳天直撃……レインは相変わらず容赦のない一撃だね」
英雄五星と呼ばれるようになってからも各地でジョシュアと共にモンスター狩り続けている。
だから、そう言われても仕方ないと自分でも思う。
英雄五星。
約10年前、魔神ファルベインを倒したパーティー。
アース・カルデナス。
オーウェン・サンティア。
ジョシュア・ティリス。
オリバー・ジョサム。
そしてアタシ、レイン・ニコラス。
アタシとしては、この英雄五星の1人と呼ばれるのは不服だったりする。
確かに5人でファルベインに戦った。
戦ったけど、トドメの一撃を与えたのはアースだし、ファルベインの自爆をとっさに魔法の壁で自分とファルベインの周りに張り爆発の被害を食い止めたのもアース。
アースの命を懸けた行動が無ければ、アタシ達はファルベインの道連れになっていたに違いない。
だから、英雄と呼ばれるのはアースだけだとアタシは思う。
でも帝国【ディネッシュ】の現皇帝はわかりやすく英雄像を国民に見せたかったようで、アタシ達のパーティーを英雄五星と持ち上げ、ファルベインと共に散っていったアースの名前は暦になった。
他の3人もアタシと同じように英雄扱いが不服だったらしく、早々にディネッシュを離れてしまった。
オーウェンは帝国の手が届かない村や街がモンスターや物資不足で苦しんでいるのをどうにかできないかと考え、独自で組合を立ち上げた。
モンスターの討伐や物資供給といった物を依頼者は報酬金を提示。
その依頼を組合に所属しているメンバーがこなし、成功すれば報酬金を受け取る。
最初は無償で依頼を受けていたが、流石にそれだと組合に所属する人なんて集まらないし、組合の維持も出来ない。
オーウェンはなくなく報酬制にしたけど、こればかりは仕方ないと思うな。
「いまのが最後の一匹?」
で、今のアタシはジョシュアと共にオーウェンの組合に所属している。
ディネッシュを出た後は、何故かずっとくっついてくるジョシュアと共に各地を回りモンスターを狩っていた。
ところが3年ほど前にオーウェンが「組合が大きくなってきて戦力が足りないから組合に入ってほしい」とアタシ達に泣きついて来た……。
まぁ元々モンスターを狩っていたし、お金も貰えるしでアタシ達は組合に入る事にした。
「うん、今ので21匹目だから事前に数えていた数と同じだよ」
今日は依頼にあった僻地に出てくるゴブリンの退治。
比較的簡単だからすぐに済んだわね。
「そう。だったらさっさと組合に戻りましょう」
ちなみにオリバーの爺さんはわからない。
一体どこに行ったのやら……。
◇◆アース歴9年6月6日◇◆
「おう、お疲れさん」
組合に顔を出すと、オーウェンが椅子に座り書類を書いていた。
相変わらずその姿は違和感しかない……一緒に戦った仲間だからなおさら。
座っているより最前線に立った方がいいとは思うけど、今は組合の長だからそれは出来ないよね。
「オーウェンもね。それじゃあジョシュア、ゴブリン退治の手続きをお願い。アタシは他の依頼を見てくるわ」
「うん、わかった」
さて、どんな依頼が来ているかな。
え~と……買出し……ドブ掃除……害虫駆除……。
「ん~」
掲示板に貼られた依頼書は雑用系ばかり。
それも大事な仕事なんだけど、アタシはモンスター討伐に専念したい。
アタシの大事な家族を奪ったモンスター。
アタシの大切な仲間を奪ったモンスター。
モンスターは種類を問わず憎き存在。
「少しでも多くのモンスターを殲滅してやるんだから……お?」
【討伐依頼・リリクスの街付近に現れたジャイアントスネーク】
「依頼の日付は……今日か。なら、この案件は放ってはおけないわね」
ジャイアントスネークは名前通りの巨大なヘビ。
普段は山の奥や沼にいるけど、たまに人里に出没して牧場や人を襲う。
時間が経てば被害が拡大するのは目に見えている。
なら、最初に見つけたアタシがやらないとね。
「ジョシュア、手続きは終わった?」
「もうじき終わるよ。次の依頼が決まった?」
「ええ、次はジャイアントスネーク狩りよ」
「スネッ!?」
アタシの言葉にジョシュアの顔が青ざめている。
ああ、そうか。ジョシュアってヘビが苦手だっけ。
狩人のくせにヘビが苦手なのもどうなのか……。
「……ほっ他の依頼にしない? ほら、買出しとかドブ掃除よか害虫駆除とかー」
ジョシュアが依頼の貼ってある掲示板に走って来て、手あたり次第に指をさしている。
必死すぎる……そんなに嫌なのね。
「これに決めたのよ!」
でもそんな甘えは許さない。
このまま話していてもジョシュアは動きそうにないから、襟元を掴んで無理やり引っ張って行こう。
「グエッ! なっ何をするの! 放してよ! ちょっと!」
「はい、オーウェン。次の依頼はこれにするわ」
オーウェンの机にジャイアントスネークの依頼書を乗せる。
こうなればもう受理したようなものだ。
「ジャイアントスネークか……よろしく頼むぜ」
「うん、任せて」
「任せないで! この手を放してぇえええええええええええ!!」
ジョシュアが手足をバタつかせて抵抗してくる。
ええい! ジタバタと暴れて往生際が悪いわね!
「あんたはもう28歳でしょ! もう子供じゃないんだから! ほら、行くわよ!!」
「いくつになってもいやなものは嫌なの!」
こうなったらジョシュアを引きずって行くしかない。
まったく、世話の焼ける子なんだから!
「おりゃあああああああああああああああ!!」
「いやだあああああああああああああああ!!」
こうして、アタシとジョシュアはリリクスの街へ向かった。
イタズラな神がほほ笑んだとも知らずに……。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる