上 下
37 / 41
7章 とある女神サマ、運命の文化祭へ

とある少年と少女の昔話(2)

しおりを挟む
 昔の事とは言え、その男の子には嫉妬をしてしまう自分が情けない。
 しかも小学生相手だぞ。
 俺もまだまだ子供だな……。

《あ~あ~聞こえますか~?》

 教室のスピーカーから、香夏子の声が聞こえてきた。

《大丈夫そうね……お待たせしました! それでは、今から後夜祭を始めます!》

 お、いよいよ最後のイベントか。
 グラウンドの様子は……丁度、組まれた木に委員会の会長が火をつけている。

「おぉ~火がどんどん大きくなっていくぅ」

 燃え上がる火を夜中に見ていると、何だか幻想的だなと感じる。
 グラウンドに出ている生徒たちも様々な想いがある感じだ。
 見とれている人、テンションが上がっている人、肩を寄せ合うカップル……。

(ねぇねぇ、種島くん種島くん)

「っ!?」

 神野さんが俺の耳元で囁いて来た!
 うおおおおおおおおおおお! 神野さんの顔が近い!
 ここまで近くで神野さんの顔を見たのは初めてだ……まつ毛長いなー。
 って、こんなにジロジロと見るのは失礼だろうが俺!

(どっどうしたの?)

(あれあれ)

 あれあれ?
 神野さんが義秋と星木さんの2人を見ているが……。

「なんか幻想的でいいねぇ」

「だなー」

(あっ)

 そうだった、カップルはここにも居たんだった。
 これはどう考えても俺達は邪魔だよな。
 いやはや、神野さんに教えて貰わなかったら俺って完全に空気が読めない子だった。
 神野さんには感謝しないといけないな。
 じゃあ、俺達が今やる事は一つ。

「あー俺、ちょっとトイレに行ってくるわ」

「私も喉が渇いたから、飲み物買ってくるわ」

 適当な理由を言って、この場から去る事だ。
 本当はクールな去り方をしたかったが……トイレしか思いつかなかった。
 ボキャ貧の自分が情けない。

「ああ、わかった」

「いってらっしゃぁい~…………」

 義秋は普通に返事をしたが、星木さんは俺達が空気を読んだこと気に気が付いている様だ。
 行ってらっしゃいの後、声には出してはいなかったけが口の形が「ありがとう」って言っていた。
 お礼を言う事ないよ、全く気が付かない鈍感な俺が悪いのだから。



 とりあえず教室から出たが……さて、どこに行こうかな。
 適当な所で暇をつぶして――。

「しばらくはどこかで時間を潰さないとね……せっかくの後夜祭なんだし、グラウンドに出てみない?」

「そうだね、そうし……ん?」

 それって、つまり俺と神野さんの2人っきりでって事?
 マジかよ! そんな事は全く予想をしていなかった!

「? どうかした?」

「なっ何でもないよ! じゃあ、グッグラウンドに行こうか」

 ヤバイ、心臓がめちゃくちゃドキドキしている。
 今にでも心臓が口から飛び出しそうだ。
 
『あ~~~! 私がいない間に神野 命と2人っきりになっているじゃないの! もう~マーチョにマッソーのせいで出遅れちゃったじゃない! え~と……2人っきりの時の作戦は――』

 急に心臓が落ち着いてきた。
 何でこのタイミングでこいつが帰って来るんだよ!?
 というか、お前が帰ってきた時点でもう【2人っきり】じゃないつーの!
 一生懸命聖書という名の漫画を読んでいるが、頼むから邪魔をしないでくれ……それが一番の作戦だよ。



 メイティーのあれやこれやの言葉を無視しつつ、神野さんと昇降口前にある階段で腰を下ろしてキャンプファイヤーを眺める事になった。
 俺の左には神野さん、右にはメイティー……まさか、同じ顔の女性に挟まれる日が来るとは思いもしなかったな。
 まぁ同じ顔とはいっても、神野さんは穏やかな顔でキャンプファイヤーを見ていて、メイティーは無視していた事に怒っているのかふくれっ面でキャンプファイヤーを見ているという大きな違いはあるけども。

「……」

「……」

 うーん、この沈黙どうしよう。
 何か話しかけた方がいいかな……かと言っても何を話せばいいのやら。
 ここでもボキャ貧のなさに泣けてくるな。
 メイティーさん、こういう時にこそアドバイスが欲しいですよ本当に。

 ――パパパパパパンパン!!

「『きゃっ!』」
「――っ! なっなんだ?」

 キャンプファイヤーから破裂音がしたぞ!

≪ざわざわざわ≫

 キャンプファイヤーの周辺に居たみんなも、破裂音にびっくりして身を下げて動揺している。
 おいおい、一体何があったんだ?

「……ん?」

 その騒動の中に三瓶、馬場、鹿野の三馬鹿の姿を発見。
 しかも、ここからでもよくわかるくらい動揺している……うん、謎は全て解けた。
 あの破裂音の犯人は間違いなくあの三馬鹿だ。

「三瓶、馬場、鹿野!!」

 高井先生が三馬鹿に駆け寄って行った。
 先生もすぐに三馬鹿のせいだと気づいたようだ。

「お前たち何をしたんだ!?」

 下を向いている三馬鹿。

「ちゃんと答えなさい!!」

 高井先生、すごい形相で怒っているな。
 三馬鹿の声は聞こえないが高井先生の声だけはグラウンドに響き渡っている。
 まぁそうなるのも仕方ないか、あれだけの破裂音をさせちゃうとな。

「…………はあ!? 盛り上げようと、キャンプファイヤーに爆竹を少し入れただと!? 馬鹿ものがあああああああああああああああ!! そんな危険な事をするな!! 3人ともこっちに来なさい!!」

 三馬鹿が高井先生に連れて行かれた。
 あれは生徒指導室でお説教確実だな。
 にしても、相変わらず騒動ばかり起こす奴らだ……今回ばかりは同情のよち無し。

「……びっくりした……」

 破裂音に茫然としていた神野さんがぼそっと呟いた。
 ここで、大丈夫だった? とか声を掛けるべきだよな。
 よし、行け! 俺!

「あっあの、神……」

「ぷっ……あははははは!」

 えっ? 急に神野さんが笑い出したよ。
 何? 何事?

「かっ神野さん?」

「あはっあはっ……はぁ~ご、ごめんごめん。昔タコ公園で爆竹を鳴らして、あの3人みたいに怒られた事を思い出しちゃって、つい、思い出し笑いをしちゃった」

 あーそんな事もあったなー。
 どうやって手に入れたのかはっきりと覚えていないけど、俺は爆竹を手に持ってタコ公園にへ行き、バケツの中に入れて火をつけた。
 そしたら予想以上に破裂音が大きくて公園中に鳴り響いちゃって、周辺は何事かと騒ぎになってしまった。
 で、あの三馬鹿の様に色んな人から怒られたっけな。

「あったなー、懐かし……い……?」

 ちょっと待て……どうして、そんな事を神野さんが知っているんだ?
 しかも、今の言い方は聞いた話じゃなくて、間違いなく自分が体験したように話していた。

「なんで、神野さんが怒られていたの?」

 そんなはずは無いんだ。

「……え?」

 何故なら、俺ともう一人の子が怒られたからだ。

「あの時、怒られたのは俺と……」

 その、もう一人の子は……。

「……えいくん・・・・の2人だ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

この度、青帝陛下の番になりまして

四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。

処理中です...