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第9章 【影】と冒険者達

1・嵐の前の……

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 冒険者ギルドの2階の窓に、朝日の光が差し込んでくる。

「……んん……」

 ベッドで寝ていたヒトリが目を覚まし、上半身を起こした。

「ふあ~……」

 ゆっくりと背伸びをしてからぼーっと窓の外を眺める。
 雲ひとつない晴天の空が広がっていた。

「……今日で1週間……か……」

 キングの襲撃から7日経っていた。
 7日前の夜、このまま宿屋にいるのは危険だと判断したツバメはヒトリをギルドで保護する事を提案し。
 シーラとフランクの勧めもありヒトリは世話になる事にした。

「……さて、準備して1階に降りないと……」

 ヒトリはベッドから降りて朝の支度にとりかかった。


 朝の支度を終え、ヒトリは1階へと降りて来た。

「あ、ヒトリ、おはよう~」

 ツバメがテーブルの上に朝食の目玉焼きとパンを置きつつ声をかけた。

「あっ……お、おはよう……」

「朝ご飯出来てるから座った座った」

 ツバメはヒトリの背中を軽く叩き、厨房へと入って行った。
 ヒトリは朝ご飯が置かれたテーブルへと近づく。

「おはようさん」

「よう、とりあえず昨日の夜も問題無しでよかったな」

 先に朝食が置かれたテーブルの席に座っていたシーラとフランクがヒトリに声をかける。

「あっ……はい……き、昨日もありがとございました……」

「気にすんな気にすんな。こっちはタダ宿にタダ飯、報酬金までもらえるんだからなっ……はむっ!」

 フランクが笑いながらパンを手に取りかじる。
 シーラもパンを手に取り二つに割った。

「そうさね。礼を言うなら無理を押し通したツバメに言ってやんな」

 シーラとフランクはヒトリの護衛の依頼を引き受け、ヒトリ同様にギルドに泊まっていた。

「あっ……でも、依頼を受けてくれたのはお2人の意思ですし……」

 ヒトリは朝食の置かれたテーブルの椅子に座り、目玉焼きを食べようとフォークとナイフを手に持った。

「い、いただき……」

「おはようございます!」

 ギルドの扉が勢いよく開き、新人冒険者ユウの元気な声がギルド内に響き渡った。

「おはようございます……」

 その後ろから、ユウと同じ顔のシュウが顔を出す。

「今日も朝から元気だねぇ。おはようさん」

「元気なのはいい事じゃねぇか。よっ新人共」

「……お、おはよう……ございます……」

 シーラは小さく手を振り、フランクが右手を上げ、ヒトリは小さく頭を下げた。
 そして、ユウの声に厨房からツバメも顔を出す。

「ユウちゃん、シュウくん、おはよう。昨日、2人にピッタリな魔術関係の依頼が来たの。後で紹介するから椅子に座って待っててくれるかな?」

「「あ、はい」」

 ユウとシュウは返事をし、3人が座っているテーブルの横の席に座った。

「この感じですと、昨日も【影】は出なかったみたいですね」

 シュウの言葉にフランクが咀嚼をしながら頷いた。

「もごもご……んぐっ……流石の【影】も、俺と姐さんが傍についていたら手が出しにくいってわけよ! がっはははは!」

 力こぶを作り笑うフランク。
 そんなフランクとは裏腹に、シーラは陰のある表情を見せる。

「……だと、良いんだけどねぇ……」

 シーラは水の入ったコップを手にし、口へと運ぶ。

「どういう事ですか?」

 ユウが不思議そうにシーラに問いかける。
 シーラはコップをテーブルに置き、ユウとシュウの方を向いた。

「ヒトリが襲われて以降、【影】関係の動きを聞いたかい?」

「【影】の動きですか……?」

 ユウが首を傾げ、シュウは何かに気付いた様子で手を叩いた。

「……そういえば、この1週間【影】が関わっている事件は聞いた事ないです」

「そう、そこが怖いところなの」

 ツバメがホットミルクと、切り分けたアップルパイを双子の前に置いた。

「わ~おいしそう~! いただきま~す!」

 ユウが即座にアップルパイに飛びつく。
 シュウは誘惑に負けず話を続けた。

「その言い方だと、今までそんな事はなかったんですか?」

 椅子に座りつつツバメが頷く。

「うん。大雑把に言えば【影】もギルドの様なモノ、動かないとお金は手に入らない……」

「なのに1週間も動きなし……アタイは手が出せないんじゃなくて、出す暇が無い……そんな感じがするんだよ」

 シーラは半熟の黄身をパンにつけ、口の中に放り込む。

「それはなんだよ?」

 フランクの言葉にシーラが小さく両手を挙げた。

「もぐもぐ……そんなのアタイがわかるわけないだろ」

「そりゃそうか。花に嵐って奴だな……」

「嵐の前の静けさだよ……この馬鹿」

 シーラがこめかみに右手を当て、呆れた表情をしているとまたギルドの扉が開いた。
 入ってきたのは背中に布の袋を背負ったマンドラゴラのハナだった。
 ハナはキョロキョロと見わたし、ツバメの姿を見つけてトコトコと近づいて来る。

「ツバメさん、おはようございまス」

「ハナちゃん、おはよう」

「よいしょっト……これ、今週の分の納品になりまス」

 ハナは背負っていた布の袋を降ろし、中身をツバメに見せる。
 布の袋の中には大量の葉っぱと植物の根が入っていた。

「……確認しました。いつもありがとうね」

 ツバメは頭のてっぺんに咲いている赤い釣鐘状の花に当たらない様にハナの頭を撫でた。
 ハナは嬉しそうに頭のてっぺんの花をピコピコと動かす。

「いいえ~これはハナの仕事ですかラ。ところで、今日は冒険者さん達の数が少ない様に見えるんですけド……」

 この時間帯は依頼を受けるの為、数多くの冒険者がギルドに集まる。
 しかし、ハナの言う通り今日は冒険者の姿はほとんどなかった。

「ああ、3日ほど前に王国の救援要請が来てね。それがけっこう金額が良いからって、ほとんどが騎士と一緒に行っちゃったの。おかげでギルドの依頼が溜まってきて困ってるのよね~」

 ツバメは眉間にシワを寄せ、ホットミルクを口へと運ぶ。

「救援って、何かあったんですカ?」

「最近モンスター達が異常でね。数が急激に増えたり、今まで居なかった場所に出没したり、変異種も出て来たり……もう王国の兵だけだと、手が足りないからギルドにもってわけ」

「なるほド」

「アタイ達は別依頼で不参加だけどねぇ」

「だなぁ」

 シーラとフランクがケタケタと笑った。
 それを見てヒトリが申し訳なさそうに顔を伏せる。

「あっ……す、すみません……ボクのせいで……」

「だーかーらー、気にすんなって言ってんだろ。オレ達が好きでこっちをやってる事だしよ」

「あだっあだっ」

 フランクが身を乗り出し、バンバンとヒトリの肩を叩いた。

「なるほど、モンスター達がですカ……ならもっとハナの葉っぱと根っこがあった方がいいですよネ!」

「それは助かるけど、無理はしなくて良いからね」

「はイ! でも、出来る限り早く次の分を持ってきまス。でハ!」

 ハナはギルドの入り口に向かって走って行った。

「――っ!? ハナちゃん!!」

 ヒトリがいきなり叫び、ハナに向かって駆け出す。
 即座にハナの腕を掴んで後ろに向かって引っ張った。

「きゃッ! 何――」

 次の瞬間、突然ギルドの入り口が破壊音と共に吹き飛び煙が舞い上がった。

「うわっ!」

「なっなんだ!?」

 その場にいた全員が慌てて立ち上がり、破壊された入り口をの方を見る。
 徐々に煙が晴れていき、中から複数の人影が見えて来た。

 その人影は黒いマントを羽織り、フードを深々と被っていた。
 そして、顔には両目の空いた真っ白な仮面をつけていた。
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