上 下
28 / 76
第4章 マンドラゴラとEランク冒険者

5・襲い掛かる爪と牙

しおりを挟む
 ヒトリの雰囲気が変わった事に大型のブラックドッグは警戒し、その場から唸り声をあげつつ睨みつける。
 ヒトリも大型のブラックドッグを睨みつつ、辺りに潜んでいる他のブラックドッグがいつ飛び出してきてもいいように集中すた。

「ひぃいイ……」

 ハナはその場にうずくまり、ブルブルと体を震わせていた。

 数秒のにらみ合い……最初に動いたのは大型のブラックドッグだった。

『――ガウッ!!』

 大型のブラックドッグが吠えた。
 その瞬間、茂みの中から7匹の中型のブラックドッグ達が飛び出し、ヒトリ達に襲い掛かって来る。

『ガアッ!!』

「――っ!」

 ヒトリは噛みついて来たブラックドッグの牙を左腕のガントレットで防ぎ、即座に持っていた右手のナイフでブラックドッグの首元を突き立てた。

『ギャッ!!』

 ブラックドッグは苦しそうな声をあげ、ガントレットから口を放た。
 と同時にヒトリはナイフを抜き、ブラックドッグを蹴り飛ばす。
 飛んで来たブラックドッグは、走って来ていた別のブラックドッグと激突する。

『ガウッ!!』
『ガアアアア!!』

 ぶつかった2匹には見向きもせず、残りの5匹がほぼ同時にヒトリに襲い掛かる。

「んっ!」

 ヒトリはその場でジャンプをしてブラックドッグ達の爪を回避。
 着地と同時に1匹のブラックドッグの背中にナイフを突き立てた。

『ギャンッ!』

 背中からナイフを抜き、今度は傍にいたブラックドッグの顔を斬りつける。

『キャンッ!!』

「――っ!」

 そのままトドメをさそうとした瞬間、ヒトリが殺気を感じ背後を振りかえった。

『ガアアアッ!!』

 大型のブラックドッグがヒトリの背後から襲い掛かって来ていた。
 今の体勢では回避行動はとれない、ガントレットでも大型の牙と爪を到底防ぎきれない。

「くっ!!」

 ヒトリは、とっさに背中を刺して弱っていたブラックドッグを持ち上げて盾にした。

『ガウッッッ!!』

 大型は躊躇せず仲間のブラックドッグへ噛みつく。

『ギャアアアアアアアアア!!』

 ブラックドッグの断末魔と血しぶきが辺りに散乱する。
 ヒトリは、その隙を狙い大型の首元へナイフを突き立てた……。

「えっ!?」

 が、予想以上に皮膚が硬くナイフは浅めにしか刺さらなかった。

「嘘っ!」

 驚いているヒトリに大型はギロリと睨み、前足を振り下ろした。
 ヒトリは体を捻って無理やり避け、今度は大型の目に向かってナイフを突きだす。
 大型は即座に反応して突きをかわすが、ヒトリはチャンスとばかりナイフを振り追撃する。
 しかし、大型はヒトリの斬撃を避け距離をとった。

「――っ!! こいつ、早い!」

「きゃッ!」

 突如、ハナの悲鳴が聞こえヒトリがハナの方へ目を向けた。
 ハナは中型のブラックドッグに腕を噛まれていた。

「っハナさん!」

 大型に意識を集中し過ぎた、自分の失態に一瞬動揺する。
 その隙を大型のブラックドッグは逃さなかった。
 一気にヒトリとの距離を詰める。

『ガアッ!』

「しまっ――がはっ!」

 大型の前足がヒトリの腹部にヒットし、吹き飛ばされて地面に叩きつけられた。

「ぐっ!」

「ヒ、ヒトリさン!!」

「――ゲホッ! ゲホッ! っハナさんから離れなさい!」

 ヒトリはよろよろと立ち上がり、小型ナイフを取り出す。
 そして、ハナに噛みついている中型に向かって投げつけた。
 飛んで来た小型ナイフに中型が反応し、口を放し後ろへ飛びかわす。
 それを読んでいたヒトリは、中型が着地する場所に向かって小型ナイフを投げた。

『――ギャンッ!』

 小型ナイフが中型の右前脚に突き刺さる。

「ヒトリさン! 後ロ!!」

 その声にヒトリはハナのいる方向に思いっきり地面を蹴り、ゴロゴロと傍まで転がった。
 大型のブラックドッグの爪がヒトリのいた場所で空を切る。

「ヒトリさン……! 大丈夫ですカ?」

 ハナが心配そうに駆け寄る。

「はぁはぁ……は、はい……つぅ~」

 ヒトリは痛む脇腹を抑えつつ、起き上がった。
 目の前には大型1匹、中型4匹。
 うち中型の2匹は怪我をしているが、それでも燃える様な赤い瞳で2人を睨む。

「…………ハナさん、ボクが合図をしたら全速力で家の中まで走ってください」

「えッ?」

 ヒトリは道具袋の中から、手のひらサイズの玉を取り出した。
 そして、その玉を上に放り投げる。
 ブラックドッグ達がいっせいに玉を見て警戒する。

「走って!」

 ハナはヒトリの掛け声と同時に、家に向かって走り出す。
 ヒトリは玉に向かって小型ナイフを投げた。

『!』

 2人が駆け出すのを見て、大型が追いかけようとした瞬間、ナイフが玉に当たり辺り一面に閃光が走る。

『キャンッ!』

 ブラックドッグ達は突然の閃光に怯む。
 その隙に家に2人は飛び込み扉を閉めた。

「は、早く何かでドアを押さえないト!」

 ハナは倒れていた机を扉の前に置いた。
 大型が体当たりをすれば、1発で破壊されるだろうが無いよりはマシだろう。
 ヒトリは仮面を外し、道具袋から治癒ポーションを取り出して一気に飲み干した。
 そして、立ち上がり脇腹を抑えつつ窓からを外を見る。

「……はぁ……はぁ……やっぱり、思った通り……あっ……大丈夫です……し、しばらく襲って来る事は無いでしょう……」

「エ? ほ、本当……ですカ?」

 ハナは台に乗り、窓から外を見る。
 大型のブラックドッグは家の方を睨み、中型のブラックドッグ達は傷付いた部分をペロペロとなめ合っていた。

「……あっ……あ、あの大きいブラックドッグは部下に襲わせたり、隙を狙って攻撃して来ます。か、かなり賢くて警戒心が強いようです……なので、ボク達が家に入れば様子見をするかもと思ったんですが……読み通りですね」

「な、なるほド……」

「……今のうちに、打開方法を考えないと……何かないかな……」

 ヒトリが散らかった家の中を見わたした。
 あるのは生活用品、家具、衣服、伐採斧……どれも今を打破出来るものは無かった。

「あノ……ウチに手伝えることがあれば、何でも言ってくださいネ」

 ヒトリが困っているのを見てハナが声をかける。

「……あっ……ありがとうござ……待てよ……ハ、ハナさんってマンドラゴラ……ですよね?」

「はイ、そうですヨ」

「……あ、あるじゃないですか! 最大の武器が!」

「?」


 ハナが家の扉を開け、外に飛び出した。

『ガウッ!!』

 それを見たブラックドッグ達がいっせいにハナに向かって走り出す。
 
「すぅ~~~~~……ピギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 ハナが大きな悲鳴をあげた。
 マンドラゴラの特性、死の悲鳴を。

『『『『――』』』』

 中型のブラックドッグ達は白目をむき、泡を吹いて次々と倒れる。
 しかし、大型のブラックドッグはふらつきながらも近づいて来た。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 ハナも必死に叫び続ける。
 それでも大型は倒れる様子が無い。

「アアアアァァァ……アア……ゲホゲホッ!」

 ついにハナの悲鳴が途切れる。
 チャンスとばかりに、大型は口を大きくあけハナに噛みつこうとした……その瞬間――。

『――アガッ!?』

 口の中にナイフが飛び込んで来て、喉に突き刺さった。
 ハナの後ろで身を潜めていたヒトリが投げたナイフだ。

「……流石に、口の中は硬くなかったですね」

『アガ……ガガ……ガッ……』

 大型のブラックドッグの燃える様な赤い瞳から光が無くなり、その場に崩れ落ちた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク
ファンタジー
※2019年7月下旬に第二巻発売しました。 ※12/11書籍化のため『Sランクパーティーから追放されたおっさん商人、真の仲間を気ままに最強SSランクハーレムパーティーへ育てる。』から『おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる』に改題を実施しました。 ※第十一回アルファポリスファンタジー大賞において優秀賞を頂きました。 俺の名はグレイズ。 鳶色の眼と茶色い髪、ちょっとした無精ひげがワイルドさを醸し出す、四十路の(自称ワイルド系イケオジ)おっさん。 ジョブは商人だ。 そう、戦闘スキルを全く習得しない商人なんだ。おかげで戦えない俺はパーティーの雑用係。 だが、ステータスはMAX。これは呪いのせいだが、仲間には黙っていた。 そんな俺がメンバーと探索から戻ると、リーダーのムエルから『パーティー追放』を言い渡された。 理由は『巷で流行している』かららしい。 そんなこと言いつつ、次のメンバー候補が可愛い魔術士の子だって知ってるんだぜ。 まぁ、言い争っても仕方ないので、装備品全部返して、パーティーを脱退し、次の仲間を探して暇していた。 まぁ、ステータスMAXの力を以ってすれば、Sランク冒険者は余裕だが、あくまで俺は『商人』なんだ。前衛に立って戦うなんて野蛮なことはしたくない。 表向き戦力にならない『商人』の俺を受け入れてくれるメンバーを探していたが、火力重視の冒険者たちからは相手にされない。 そんな、ある日、冒険者ギルドでは流行している、『パーティー追放』の餌食になった問題児二人とひょんなことからパーティーを組むことになった。 一人は『武闘家』ファーマ。もう一人は『精霊術士』カーラ。ともになぜか上級職から始まっていて、成長できず仲間から追放された女冒険者だ。 俺はそんな追放された二人とともに冒険者パーティー『追放者《アウトキャスト》』を結成する。 その後、前のパーティーとのひと悶着があって、『魔術師』アウリースも参加することとなった。 本当は彼女らが成長し、他のパーティーに入れるまでの暫定パーティーのつもりだったが、俺の指導でメキメキと実力を伸ばしていき、いつの間にか『追放者《アウトキャスト》』が最強のハーレムパーティーと言われるSSランクを得るまでの話。

処理中です...