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122.信仰の果て

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「……答え合わせですか?」

 静かに問い掛けた王弟の声が先より僅かに沈んでいるように聞こえなくもない。
 だがその声色に動揺は感じられなかった。
 下々の者たちに感情を隠すようよく教育された王族らしさがどんな状況にあっても抜けぬ男なのであろう。

 レイモンドはにっこりと微笑みながら頷いた。

「集めた情報を繋ぎ合わせれば、起きた事象の予測は出来る。けれどもそれは、あくまで予測であって真実ではないだろう?だが今ここに、その多くを把握していた者が存在しているんだ。あなたが真実を語るかどうかはさておき、今日はあなたからより多くの発言を引き出して、私たちの導き出した予測を真実に近い強固なものへと出来たらばと考えていてね」

 言い終えてくすりと笑ったのも、レイモンドだった。
 王弟は何も反応を返していない。

「今さら聞いてどうなる?そう言いたいように見えるね?これまでも散々尋問しておいてまだ求めるか、という顔にも思えるが。そのどちらの想いもあるのかな?」

「……そのような想いはありません。どうぞ、お好きなように」

「そうかね?ならば今日も好き勝手に話を進めさせてもらうとしよう。さて……はじまりは……うん。はじまりの日を明確にする必要はないね。あなたも生まれたときから厄介な者たちに崇められる立場にあって、いつでもその手のことを考えてきたであろう。そこで予測するに、その決心がついたのは、先代の王弟を亡くしたあたりというところだろうか?あなたにとっては叔父だったね?」

 王弟の反応がないことも気にせず、レイモンドは一人愉快気に語っていく。

「亡くしたと言ったら語弊があるねぇ。あなたがはじめてこの世から消した人間が先代王弟だった。この予測は正しかったかな?」

「……」

「理由は思想が相容れなかったか、彼らに対する実権を欲したか。これもどちらもかな?」

「……どうでしょうか?」

「消したことを否定はしないのだね?」

「彼らが口を割ったとは思いませんが、調べは付いているのでしょう?ならば、今さらです」

「おや?王家の権威を失墜させる情報を他家の私に知らせてしまっていいと?あの頃の政治的問題を無難に処理するために、彼の死はおおいに利用されていたようだけれど、良かったのかな?」

「王家の権威どころか、王家の存続も危うい情報がより多く知られた後ですから」

「ははっ。確かにそうだ。では……あなたがその当時からここまでの計画を立てていたと考えて良さそうだね?」

「……叔父が亡くなったときのことを言っているのであれば、当時の私は子どもと言っても許される年齢でしたよ?」

「そうだとも。だから私も知ったときは感服したよね。息子より年長とはいえ、あなたたちは今も若く、当時の幼さでこれだけの計画を立てられたとしたら……むしろ私ならあなたの方を警戒するなぁ」

「……王族に年齢は関係ありませんから。それは貴族家も同じことでは?」

 自分から当時はまだ子どもだったと主張してきた王弟の矛盾する発言に、レイモンドは眉を上げておかしそうに笑った。

「彼らにとってはそうなのだろうねぇ。私はそうは思えないし、成人から何年も過ぎた息子でさえも、まだまだ幼くあっていいと思うような甘さがあってね。貴族家の者としては失格かもしれないな」

 番である妻以外、どうでもいいレイモンドだったけれど。
 それでも父親としての愛情がないわけではないのだ。
 何はともあれ、愛しい妻が産んだ、妻と自分の息子である。

 さっさと引退し妻と二人きりで生きていきたいと願う気持ちは大きくも、子ども時代を失ったジェラルドとセイディにまだしばらくの間は子どもとして二人で楽しく生きて欲しいという願いも多少は持っている。多少は、であるが。
 セイディを可愛がれるのも番である愛しい妻が可愛がる義娘だからかもしれないが、レイモンド自身がセイディを気に入っているのは事実。そうでなければ、レイモンドが直接に、心が幼いままの娘の相手をすることはなかったはず。

 番を知る者だって、番以外の他者を想う気持ちはあるということ。
 彼らはそれを知らなかったのだろうか?

「あなたが王であったなら、私たちも……彼らも違っていたのかもしれませんね」

「これは面白いことを言う。私はこんな大きな息子たちは要らないなぁ」

 だいたい、愛しい妻シェリルを介さない男たちなど、レイモンドにとっては敵なようなもの。

 番を知る者の思考は、レイモンドからすれば単純明快、その懐に入れた人間に多少の情は与えるけれど。
 基本は番優先で、ただそれだけなのだから、むしろ扱いやすい人間たちなのではないだろうか。
 番を知るからこそ、レイモンドはそのように考えてしまい、かえって彼らが理解出来ない存在と成り果てる。

「それにこの私だって、これでも産まれたときは赤ん坊だったのだよ」

 可笑しそうにレイモンドが言えば、王弟はただ目を伏せた。
 レイモンドの言いたいことは、伝わっていたのだろう。

 たとえばレイモンドが王になる男として王家に生まれていたとして。
 番を知るレイモンドを彼らがそう長く生かしておくとは思えない。

 決して面白くない想像をしているのに、レイモンドはご機嫌に一人くつくつと笑い出す。

「どうして彼らは番を知る者をそこまで憎めたのだろうね?」



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