46 / 137
46.公爵は侍女を訝しむ
しおりを挟む
「おのれ!また母上に先を越されたか!」
ジェラルドは悔しそうに机を叩いたが。
「あれは早いかこれも早いかと絵本ひとつに悩み過ぎなんですよ主さま」
侍従は澄ました笑顔で、淡々と諭すのである。
この侍従、主を敬うことを知らないらしい。
「くっ。されど与える絵本が成長に多大なる影響を与えると聞いたからにはな」
「元より絵本は子どもの教育に良きようにと作られているものですよ主さま。気にし過ぎです」
「くぅっ……次は必ず勝ってみせる。やはり冬を越え春物を──」
「あぁ、いいですね。今でしたら春物は安価に仕入れられますし。その調子で来年の夏物も用意してしまいましょうか」
「何を言う?セイディに安物など与えられるか」
「そういう意味ではないのですが。ひとまず話を戻しましょうか主さま。セイディさまは大奥さまと侍女たちに向けて新しい絵本を読み聞かせていらっしゃいまして」
「やはり母上は敵だな。うん、敵に違いない。先に領地にお戻りいただくか?」
「大奥さまはセイディさまが主さまに読み聞かせるためにという練習にお付き合いされていたのですよ。それでついにセイディさまが結婚とは何か?とお尋ねになられたわけです」
さらりと主の話を無視する侍従は随分と勝手に話を進めていくが、ジェラルドもこの不敬な侍従には慣れたものだった。
「それで母上は何と答えたと?」
「お館さまと大奥さまの関係がそうだとご説明されておりました。さらに侍女の一人が一緒に生きることだと言ったようですね」
結婚という言葉には問題がないようだ。
ほっとしながらジェラルドはもう何度も感じてきた胸の痛みを覚えた。
ジェラルドの両親も番同士で結婚しているが、セイディはこれを知らない。
番という言葉に触れると、未だにセイディは心を閉じてしまうからだ。
その言葉に紐付けて、余程の経験をさせられてきたのだろう。
ジェラルドの胸が一段と締め付けられた。
だからジェラルドは慎重に愛とは何かを伝えていこうとしていたのだ。
それなのに侍従はもう待てないと言う。
「セイディさまは、さすがは聡い御方です。すぐに我らがいつもお側にいることに気付かれまして、では皆は結婚しているのかと問うわけです。そこでまた一人の侍女が『そこに愛があるかです!』と叫んでしまったようでして」
「……何故叫んだ?」
ジェラルドの疑問は尤もである。
トットは意味あり気ににっこりと微笑むのであった。
ジェラルドは悔しそうに机を叩いたが。
「あれは早いかこれも早いかと絵本ひとつに悩み過ぎなんですよ主さま」
侍従は澄ました笑顔で、淡々と諭すのである。
この侍従、主を敬うことを知らないらしい。
「くっ。されど与える絵本が成長に多大なる影響を与えると聞いたからにはな」
「元より絵本は子どもの教育に良きようにと作られているものですよ主さま。気にし過ぎです」
「くぅっ……次は必ず勝ってみせる。やはり冬を越え春物を──」
「あぁ、いいですね。今でしたら春物は安価に仕入れられますし。その調子で来年の夏物も用意してしまいましょうか」
「何を言う?セイディに安物など与えられるか」
「そういう意味ではないのですが。ひとまず話を戻しましょうか主さま。セイディさまは大奥さまと侍女たちに向けて新しい絵本を読み聞かせていらっしゃいまして」
「やはり母上は敵だな。うん、敵に違いない。先に領地にお戻りいただくか?」
「大奥さまはセイディさまが主さまに読み聞かせるためにという練習にお付き合いされていたのですよ。それでついにセイディさまが結婚とは何か?とお尋ねになられたわけです」
さらりと主の話を無視する侍従は随分と勝手に話を進めていくが、ジェラルドもこの不敬な侍従には慣れたものだった。
「それで母上は何と答えたと?」
「お館さまと大奥さまの関係がそうだとご説明されておりました。さらに侍女の一人が一緒に生きることだと言ったようですね」
結婚という言葉には問題がないようだ。
ほっとしながらジェラルドはもう何度も感じてきた胸の痛みを覚えた。
ジェラルドの両親も番同士で結婚しているが、セイディはこれを知らない。
番という言葉に触れると、未だにセイディは心を閉じてしまうからだ。
その言葉に紐付けて、余程の経験をさせられてきたのだろう。
ジェラルドの胸が一段と締め付けられた。
だからジェラルドは慎重に愛とは何かを伝えていこうとしていたのだ。
それなのに侍従はもう待てないと言う。
「セイディさまは、さすがは聡い御方です。すぐに我らがいつもお側にいることに気付かれまして、では皆は結婚しているのかと問うわけです。そこでまた一人の侍女が『そこに愛があるかです!』と叫んでしまったようでして」
「……何故叫んだ?」
ジェラルドの疑問は尤もである。
トットは意味あり気ににっこりと微笑むのであった。
2
お気に入りに追加
670
あなたにおすすめの小説
【完結】初夜の晩からすれ違う夫婦は、ある雨の晩に心を交わす
春風由実
恋愛
公爵令嬢のリーナは、半年前に侯爵であるアーネストの元に嫁いできた。
所謂、政略結婚で、結婚式の後の義務的な初夜を終えてからは、二人は同じ邸内にありながらも顔も合わせない日々を過ごしていたのだが──
ある雨の晩に、それが一変する。
※六話で完結します。一万字に足りない短いお話。ざまぁとかありません。ただただ愛し合う夫婦の話となります。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中です。
『番』という存在
彗
恋愛
義母とその娘に虐げられているリアリーと狼獣人のカインが番として結ばれる物語。
*基本的に1日1話ずつの投稿です。
(カイン視点だけ2話投稿となります。)
書き終えているお話なのでブクマやしおりなどつけていただければ幸いです。
***2022.7.9 HOTランキング11位!!はじめての投稿でこんなにたくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです!ありがとうございます!
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
くたばれ番
あいうえお
恋愛
17歳の少女「あかり」は突然異世界に召喚された上に、竜帝陛下の番認定されてしまう。
「元の世界に返して……!」あかりの悲痛な叫びは周りには届かない。
これはあかりが元の世界に帰ろうと精一杯頑張るお話。
────────────────────────
主人公は精神的に少し幼いところがございますが成長を楽しんでいただきたいです
不定期更新
【完結】私の番には飼い主がいる
堀 和三盆
恋愛
獣人には番と呼ばれる、生まれながらに決められた伴侶がどこかにいる。番が番に持つ愛情は深く、出会ったが最後その相手しか愛せない。
私――猫獣人のフルールも幼馴染で同じ猫獣人であるヴァイスが番であることになんとなく気が付いていた。精神と体の成長と共に、少しずつお互いの番としての自覚が芽生え、信頼関係と愛情を同時に育てていくことが出来る幼馴染の番は理想的だと言われている。お互いがお互いだけを愛しながら、選択を間違えることなく人生の多くを共に過ごせるのだから。
だから、わたしもツイていると、幸せになれると思っていた。しかし――全てにおいて『番』が優先される獣人社会。その中で唯一その序列を崩す例外がある。
『飼い主』の存在だ。
獣の本性か、人間としての理性か。獣人は受けた恩を忘れない。特に命を助けられたりすると、恩を返そうと相手に忠誠を尽くす。まるで、騎士が主に剣を捧げるように。命を助けられた獣人は飼い主に忠誠を尽くすのだ。
この世界においての飼い主は番の存在を脅かすことはない。ただし――。ごく稀に前世の記憶を持って産まれてくる獣人がいる。そして、アチラでは飼い主が庇護下にある獣の『番』を選ぶ権限があるのだそうだ。
例え生まれ変わっても。飼い主に忠誠を誓った獣人は飼い主に許可をされないと番えない。
そう。私の番は前世持ち。
そして。
―――『私の番には飼い主がいる』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる