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14.泣き虫令嬢は説き伏せられる

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「はい?」


 驚いて目をぱちぱちと瞬きながら、殿下を見上げます。
 兄と同じ二歳差の殿下は兄とそう背丈も変わらないのでしょう。
 並び座っているとちょうどいつも兄を見上げる角度で目が合いました。

 殿下はにっこりと笑います。


「将来のために見識を深めたくてね。地方にも足を運びたいと思っていたんだ。ちょうどいいだろう?」


 えぇと……ちょうどいいのでしょうか?
 あれ?でも文通は?


「手紙の話は君と会う口実でね。父上と相談して、僕の教育の一環にご協力を願う形にしてみたんだけど。それでもあの二人は渋って渋って大変でねぇ。それで領地を出る前に最後に一度だけという約束でなんとか……ふふ。こちらの問題だから君は気にしなくて大丈夫だよ」


 いいえ、とっても気になります。
 もしかしてそれは……。


「それで今日は父上の協力の元、君のお母上にも協力していただいてこの通りさ。お母上からはようやくお許しを頂けたところでね」


 え?お母さままで?


「心変わりをせずに君を想い続けること。それから君を必ず守り通すこと。これらの根拠となる事象を明確に示す必要があったんだ。だから時間が掛かってしまって、申し訳なかったね」


 いえ、謝罪は結構ですよ?
 私は何も知りませんでしたから。

 というかうちの家族は大丈夫なのでしょうか?
 王族に対してあまりに不敬では……?


「それでやっとすべてが順調に運びそろそろと思ったところで、彼が君を逃がそうとするからさ。ことを急いてしまって、君を驚かせてしまったことは謝罪するよ。でもそれで君に会えたから、勝手だけれどこれで良かったとも思っている」


 私を逃がす?
 確かに私は物語の運命から逃げようとは思っていましたけれど……。


「そろそろ気付いて戻ってくるかもしれないから、少し話を急ぐね?」


 それから殿下は、私が王妃に向いている理由を百も並べて説明してくれました。

 えぇ、何故そのようなお話になっているのかは分かりません。
 私は物語の中の公爵令嬢ではなく、この世界で穏やかに生きられる。
 少し前にそう仰ったのは殿下でしたのに。

 何故また物語通りのお話に──?


「目立つことが苦手なのです。それに泣き虫ですし。私にはとてもお役目は務まりません」


 私は同じ言葉を返すしかありませんでした。それでも殿下は笑って言います。


「王妃になれば、ほとんどの時間を城の奥で穏やかに過ごすことが出来るんだよ。母上だってそうしているからね」


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