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55.きらきらしい人は隠れていました

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 突如として現れた気配は、壁の向こうで動き出しました。

 その気配を追っていると、やがて鏡の横にある扉がすーっと開きまして、人影が現れたのです。
 どうやらこの応接室も、私の部屋のように隣室と繋がっていたようですね。
 この邸はこういうお部屋が多いのかしら?

 従姉妹たちは驚いてしまったようで、二人して目を見開いておりました。
 さすがは姉妹、その様子は瓜二つです。

 ゆったりとこちらに近付いてきたハルの髪は室内の明かりに透けてよく輝き、その瞳も明かりを集めて眩く輝いておりましたので、思わず私は目を細めてしまったのです。

「話は全部聞かせて貰ったけどね」

 ハルは悪びれずにそう言いました。
 隣室に潜み会話を盗み聞きしていたとしたら、あまりよろしいことではないと思うのですが──。

 ジンの指が唇に触れました。
 胸がドキリと跳ねます。

 今度は何ですの?

「第二夫人、第三夫人を持つことが王都の流行とは。僕でさえ知らないことを、君たちはよく知っていたね?だけどおかしいなぁ。王家だって余程のことがない限り側妃を望まないことになっている。それなのに貴族たちには夫人が幾人もいたのか。それも低位の貴族にも広まっているんだって?僕の知らないうちにそんな習慣が広まっていたとしたら、これはよく調査しないといけないなぁ」

 ようやくジンの指が唇から離れました。
 一緒に手を離してくれてもいいのですが、がっちりと捕まったまま。

 私はおもちゃではないのですよ?まったく、もう──。

 私が振り返り目で訴えましても、ジンは笑って取り合いません。


 気を取り直して、気配を露わにしたハルを観察することにしました。
 見事な気配の消し方でしたから、あれからも鍛錬を続けて来たに違いありません。

 久しぶりにハルとも手合わせをしたくなってきました。
 にこにこと笑うハルは、一見すると完全に気を許しているように感じますが、冴え冴えと輝く瞳が防御に死角なしと語っております。

 これは以前よりずっと強くなっているわね!


「な、な、なっ!」

「ど、どうしてっ!」


 ハルの技量を計っておりましたところ、従姉妹たちがすっかりと取り乱しておりました。

 一体どうしたのかしら?

 あ、そうね。
 そういえばレーネもミーネも子どもの頃にジンとハルに会っていました。
 だから思いがけずここでの再会を果たし、驚いてしまったということでしょう。

 あら?
 でも二人はジンにはまだ気が付いていない様子でしたね?

 それも仕方のないことだとは思います。

 ハルはともかく、ジンは大分変わってしまいましたから。
 私だって言われるまで気が付けなかったくらいです。

 視線を感じ顔を上げれば、ハルが立ったまま私を見ていました。

「やぁ、ミシェル。なんだか久しぶりだね」

 久しぶりだったかしら?

 あぁ、そうね。
 もう三日も経っているのだったわ。

 私だけ記憶がないというのは、困りものです。
 本当にあとでお医者さまに診ていただくようにお願いしましょう。

「いいところに座っているなぁ」

「はっ!こ、これは──」

 そうでした。私ったらずっとジンの膝の上に──。

「あぁ、いいよ。分かっているからさ」

 何を分かっているのかしら?
 私にはさっぱりと分かりませんけれど。

「ジンには困ったものだね。なぁ、ミシェル。不満は僕がいるうちに言うんだよ?ジンにきつく言い聞かせてあげるからね。実はアルにも頼まれていたんだ」

 え?ジンの方が困りものですの?
 しかもアルに頼まれていた?一体何を──?

 分からないことが増える一方です。

 まず従姉妹たちがどうしてここに来たのか、というところから。
 その従姉妹たちは何をジンにお願いしているのでしょうか。

 それに私はどうして記憶喪失になったのか、という点も気になりますし。

 何故ハルは隣室に隠れていたのかしら?


 いやだわ。そこで笑わないで!

 私は身を捩ってしまいました。
 ジンがご機嫌に笑い始めたせいで、首筋や耳元に息が掛かってくすぐったいのです。
 そんな私をハルが呆れた目をして見ていました。

 うぅ、恥ずかしい……。
 鍛錬が足りていませんでした。

「ちゃんと説明してあげなって、ジン。また君は繰り返す気かい?」

「後でゆっくり語り合うつもりだ。それより早くこの二人を連れて帰ってくれ」

「君ねぇ……」

 連れて帰る?
 それはつまり、ハルは従姉妹たちを迎えに来たということかしら?

 ハルは私に向かって頷いたあとに言いました。

「この子たちはね。ジンの第二夫人、第三夫人になりたくて、ここまで来たんだよ」

 第二夫人、第三夫人……ジンの第二夫人、第三夫人!
 そんなっ!

「安心して、ミシェル。私の夫人は君一人だ」

 身構える間もなく、片手を握られたままの状態で、ぎゅっと後ろから抱き締められていました。




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