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30.侯爵家は手練れ揃いでした

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 そうこうしているうちに、男性はすぐ側に立っていました。
 立ち止まってすぐにユージーン様に向けて頭を下げましたから、侵入者ではなさそうです。

「お休みのところ申し訳ありません。至急お耳に入れたいことが生じました」

「なんだ?私は仕事をしないと言ったぞ?」

 この方はユージーン様の侍従のようですね。

 侯爵様のお耳に近付いて何か話しておりますが。
 まだご挨拶もなく、聞いてはいけない感じもしましたので、私は侍従の方の口元を見ないためにも、目のまえの花を愛でることにいたしました。

 細い線が広がるようにトゲトゲとした赤いお花は、何かの武器を連想させます。
 いえ、むしろこの花から連想して、新しい武器を開発出来そうだと思いました。

 シシィがそっと小さな声で解説をしてくれましたところによると、このお花はこちらの領地ではだいたいどのお庭にもあるそうです。
 育てやすい、というか、勝手にすくすく育つ丈夫な花だそうで。

 ますます武器を連想してしまいますね。
 丈夫な花はいいものです。


 お話を終えたようでしたので、私は侯爵様を見ますと。

「よろしいですね、旦那様?」

 と侍従の方が確認されたあとに。

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。タナトスと申します」

 私に挨拶をしてくださいました。
 こちらこそと、私も笑顔を返します。

「もういい。先に戻れ」

 険しい顔をしてタナトスを送り出した侯爵様は、こちらを見て困ったように眉を下げて笑いました。
 そのお顔が少しですが、故郷の弟、アルに似ていたのです。
 お顔の造りは似ても似つかないものですのに、不思議ですねぇ。

 しかしながら私はその疑問よりも、タナトスの動きの方が気になって気になって、そちらを目で追っていました。
 タナトスはまた音もなく離れていったのです。
 あの身のこなし、ただ者でありませんね。

「すまない。働く気はないのだが、少々問題が起きたようだ。すぐに終わらせて君の元に戻って来るから、待っていて欲しい。すぐに戻るからな。ミシェルを頼んだぞ」

 シシィは私に日傘を翳したまま、さっと頭を下げました。
 軸のぶれない美しい動きだと感心しておりましたら、ユージーン様のお姿はもう見えません。

 タナトスも見事でしたが。
 ユージーン様も足は速く、さらに音だけでなく、気配を消して動くことがお上手なよう。

 お二人とも日頃から鍛錬なさっておいでなのかしら?

 もしそうならば、是非参加したく。
 ユージーン様に直接お願いしたら、許してくださるかしらね?
 それとも夫人らしく、扇……はないので、目力で訴えて──。

「奥様。お庭はまた明日にでも旦那様がゆっくりと案内してくださることでしょう。そろそろ良き時間ですし、お部屋に戻りまして、おやつなどはいかがですか?」

「まぁ!」

 気になることは山積みでしたが。
 おやつが最も気になるものとなれば、他はすぐに忘れます。

 一体何が出て来るのでしょうか。


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