上 下
12 / 96

12.分からないことが続きまして

しおりを挟む
 私が貴族らしくなるにはどうしたらと悩んでいましたところ、侯爵様は話を戻してくださいました。

「まぁ、私も同じと言えば同じか。家を貶めようと噂する者は許さんが、私個人についての噂なら放っておけと指示していたからな」

 侯爵様の個人的な噂話だとしても、ご当主であるのですから、それは家を貶めていることになるのではないでしょうか?

 私の疑問にもすばやくお気付きのようです。
 何か言う前に察する。
 これぞ、貴族という感じがしますね。

 私は本当に頑張らねば。

「あまりにくだらない内容ならば、放置しておけと言っただけだ。家を貶めるに値する私の噂なら、それは対処していたよ。だから、君のところにそんな話が流れるはずはなかったのだが」

 それはまた不思議な話ですね。

「もっと奇妙なことにはな。君についても概ね同じ内容なのだ」

「同じ……というと?」

「君には領地に想い人がいて、王命により遠い地へ嫁ぐことになり、二人は泣く泣く引き離されてしまうのだと」

「まぁ!」

 驚きですね。
 想い人?
 思い当たる人さえ浮かびませんが。

 やはり他国の者が絡んでいるのかと考え始める寸前のところで、はぁっと息を漏らす音が聞こえ、それは中断されました。
 侯爵様の溜息です。

「良かった。それであんなことを言われたのかと思ったら……少しは傷ついた」

「それは申し訳ありません。ですが、想い人などは」

「その顔を見たら分かる。そもそもな、君が令嬢としての立場を顧みずに、結婚前だからと身分差の恋など楽しむとは思っていなかった。だが恋というものは意のままにならぬものだから、万が一ということもあり得るだろう?」

 顔?私の顔に何か書いてあるのでしょうか? 

 よく分かりませんが、私は確かに恋をしたいと思ったことはありません。
 万が一ということも、起きたことはありませんでした。

 そういえば従姉妹たちは、そんな人生はつまらない。
 王都に出れば恋が溢れているとかなんとか言っていましたねぇ。

 だいたい従姉妹たちの話はよく分からないものですが、恋って溢れていいものかしら?とそこだけは疑問に思いましたよ。
 それって単に王都の風紀が乱れているだけではなくて?

「君は連れてきた騎士の一人もこちらで雇えとは言わないし、侍女もつけずにやって来ただろう?そんな可能性はないだろうと安心していたところに、あの発言だったからな」

 どこでどのように安心出来たのかも分かりませんが、想い人がいると思われなかったことは良かったです。

 ……当事者になりますと、自分がいかに失礼なことをしたか、改めて知ることが出来ますね。
 私はなんということをしてしまったのか。

「申し訳ありません。本当にどうお詫びしたら良いものか」

 私が頭を下げようとしましても、詫びは要らないと侯爵様は繰り返します。
 そうは言っても、私の気は晴れません。

 誰がなんと言おうとも床にひれ伏して頭を下げたいところですが、それもこの強く握られた手が許してくださいませんし。

 そんなに強く握りしめて、私を捕まえておきたいのでしょうか。
 それも片手でがっしり握ったうえに、上からさらに手を重ねて挟み込む、強固さですよ。

 どこにも逃げる予定はありませんのに。

 もしや罪人として逃がさまいと……詫びは要らないと言われているのでした。
 とするとやはりお作法なのでしょうか。


 こうも分からないことばかり続くと、何も考えられなくなってしまうのですね。
 これからどうすべきか、考える時間を頂きたくなってきました。

 そのように望める立場にもありませんが。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました

夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、 そなたとサミュエルは離縁をし サミュエルは新しい妃を迎えて 世継ぎを作ることとする。」 陛下が夫に出すという条件を 事前に聞かされた事により わたくしの心は粉々に砕けました。 わたくしを愛していないあなたに対して わたくしが出来ることは〇〇だけです…

男と女の初夜

緑谷めい
恋愛
 キクナー王国との戦にあっさり敗れたコヅクーエ王国。  終戦条約の約款により、コヅクーエ王国の王女クリスティーヌは、"高圧的で粗暴"という評判のキクナー王国の国王フェリクスに嫁ぐこととなった。  しかし、クリスティーヌもまた”傲慢で我が儘”と噂される王女であった――

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々
恋愛
 姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。  残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。    サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。  誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。  けれど私の心は晴れやかだった。  だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。  ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

処理中です...