【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実

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29.皇帝の信念が狂うとき

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 強い信念を持って国を統治している伯父なのですが。
 その内に最大の弱点を抱えておりました。

 それが母です。

 同じ母親を持つ妹への過剰な溺愛ぶりは、それは伯父の妃様たちが引くほどのものでした。
 もしも母が我がままな皇女として生きていたら。

『私、あの国が欲しいわ。お兄様』

 その一言で、数多の国がこの世から消え失せていたことでしょう。
 なんとも恐ろしい話ですが、伯父は母が関わるとその信念が狂うのです。

 幸いにして母は皇族として自身の持つ権力の程度を把握しておりましたので、母の一言で国が消えるような事態が起こったことはありませんでした。


 そんな母にも、やはりあの伯父と兄妹なのだなぁと感じる弱点がございます。
 それが父です。


 母と出会う前の父はこの国で立ち上げた商会の跡取り息子として過ごしておりました。
 商会の起こりは私の曾祖父、つまり父からすると祖父なのですが、その曾祖父が帝国の拡大の流れにうまく乗って商売で大成功を収めまして、父が見習いをしていたときにはすでにいくつもの国を跨ぐ大商会へと発展しておりました。

 すると商会としての支部も各地へと置くようになりまして。
 父は跡取りとしての修行も兼ねて、あるとき帝国の支部長に任命されたのです。

 商会では、その土地で商売を行う許可を継続して得るために、たびたび国や領地を統べる方々に商品を献上することが御座います。
 その一環として、ある日父は新任の挨拶もかねて、多くの品々を抱え、伯父に謁見することになりました。

 その場に母を同席させたのは、伯父です。
 伯父としては、品物をすぐに見せて妹を喜ばせたいという理由からそうしたそうなのですが。
 いまだに伯父はこのときの選択を後悔しています。

 何せ大事な大事な妹が……。

「お兄様、私、この方と結婚するわ」

 急にこんなことを言い出したのですから。
 母は我を忘れて呟いてしまったそうなのですが、当然ながら伯父はその場で怒り狂い、あわや……という騒ぎとなり。

 父はトラウマとなっているようで、この日のことを決して語りません。
 けれども母は、嬉しそうに瞳を潤ませながら、よくこの時のことを語ってくれました。

 この温度差も両親らしいというか。
 伯父と母の愛情の温度差にとても似ています。




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