【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実

文字の大きさ
上 下
33 / 37

33.私の狡い婚約者様

しおりを挟む
「愚妹とあの屑の関係は大分前から気付いていたよ。だけどそれは君も同じ。そうだね?」

「えぇ。皆様にはお願いして、まだ伯父の耳には入れぬようにと頼んでおりました」


 お二人があまりに隠さなかったもので。
 王女殿下と元婚約者様の関係は多くの貴族が知るところとなっていました。

 もちろん母の耳にも入りまして、憤怒して飛び出すところだったのですが。
 それを父と私、そして弟とで、必死に止めていたのです。

 伯父への報告は国内で決着を付けてからにしようとなんとか母を説得しました。
 とはいえ、人の口には戸を立てられないと言いますように、この国の貴族や帝国から派遣されていた護衛騎士だけでなく、たとえば我が家以外の商会などから帝国へと伝わる可能性もありまして。
 ことを急がねばと考えていたところなのですが。

「君は円満に婚約を解消するつもりでいたんだね?」

「そうですね。あちらのお顔を立てた方がよろしいかと思って、しばらくはお話が来るときを待っておりました」

 爵位を考慮し、公爵家から婚約解消の話をした方が良いものと考えていたのです。
 元々こちらが望んだ婚約でもありませんでしたからね。
 国王陛下の推薦状やご承認の件もあれば、やはり公爵家側から動いていただくのが筋かと思い、限られた時間のなかでもうしばしと待っていたわけです。

「それで誰にも咎はなかった?」

「そうですね。伯父には相手が気に入らなかったのではなく、婚約を無くし自由になりたいと言うつもりでしたので」

 むしろあの伯父ならば、婚約解消の話に諸手をあげて喜んでいたことでしょう。
 ずっと「気が変わらないか」「もっといい相手を見繕うぞ」と言われてきましたからね。
 私には出来れば帝国内の誰かに嫁いで欲しかったのだと思います。

 そういう伯父をいつも抑えてきた母は、陛下の書状まで持ち出して公爵家から婚約を望んでおきながら、婚約解消前に誰かと親密な仲になったあの元婚約者様のことをどうしても許せなかったようで。
 家では散々罵っていたものです。
 時に冗談とも捉えられない形相で、「兄にこの国を潰して貰おうか!」と叫ぶこともありました。

 ですから園遊会の後には、噂が広まる前にと急いで動くことになったのです。
 王女殿下の命を知れば、母は本気で伯父に頼っていたと思います。
 父が好きで堪らない母ですが、その父によく似た私たち姉弟にも惜しみなく愛情を与えてくれる優しい母であり……その愛情は時折伯父に通じるものへと変貌を遂げるときがありました。

 幸せな悩みかもしれませんが、愛され過ぎるというのも困ったものです。

「やはり喜ばれたか」

 婚約者様は伯父のことをよくご存知のようでした。
 それでどうして王女殿下を放置してしまったのでしょうか。

 私の婚約を解消する目的ならば、穏便な方法でも間違いなく達成出来ていたでしょうに。

「狡い私を知っても、君はまだ婚約者でいてくれるかな?」

 先からずっと狡い、狡いと思ってきましたよ?
 とは言いませんでしたが。

「それが最上である限りは」

 と、私も狡いことを言ってみました。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる」

ゆる
恋愛
平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる 婚約者を平民との恋のために捨てた王子が見た、輝く未来。 それは、自分を裏切ったはずの侯爵令嬢の背中だった――。 グランシェル侯爵令嬢マイラは、次期国王の弟であるラウル王子の婚約者。 将来を約束された華やかな日々が待っている――はずだった。 しかしある日、ラウルは「愛する平民の女性」と結婚するため、婚約破棄を一方的に宣言する。 婚約破棄の衝撃、社交界での嘲笑、周囲からの冷たい視線……。 一時は心が折れそうになったマイラだが、父である侯爵や信頼できる仲間たちとともに、自らの人生を切り拓いていく決意をする。 一方、ラウルは平民女性リリアとの恋を選ぶものの、周囲からの反発や王家からの追放に直面。 「息苦しい」と捨てた婚約者が、王都で輝かしい成功を収めていく様子を知り、彼が抱えるのは後悔と挫折だった。

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

どうして許されると思ったの?

わらびもち
恋愛
二度も妻に逃げられた男との結婚が決まったシスティーナ。 いざ嫁いでみれば……態度が大きい侍女、愛人狙いの幼馴染、と面倒事ばかり。 でも不思議。あの人達はどうして身分が上の者に盾突いて許されると思ったのかしら?

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。 ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ

ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。

処理中です...