【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実

文字の大きさ
上 下
3 / 37

3.これが私の婚約者です

しおりを挟む
 王女殿下に名前を呼ばれた令息様は、最初から王女殿下の隣にありました。
 何を隠そう、彼が私の婚約者です。

 バウゼン公爵家の後継である彼は、園遊会の本日も。
 邸へ迎えに来ないどころか、会場に着いてからも私への挨拶さえなく。
 いつも通り王女殿下に付き纏っておりました。

 いずれはこんなことになろうとも考えておりましたけれど。
 まさか今日がその日になろうとは、さすがに私も予測しておりませんでしたわ。

 そんな公爵令息様は、いつもとは違い自信満々なご様子で鼻を膨らませ、唇を歪め、こちらを見ています。
 常々、私から逃げるように立ち回っておられましたのにね。


「ローゼマリー!私が今までどれだけ貴様に我慢してきたか分かるか?」

 いいえ、まったく。
 分かるわけがございません。

 公爵令息様は鼻息荒く、発言を続けます。

「由緒正しき歴史ある公爵家に生まれたこの尊い身で、新興貴族に金で買われる屈辱にずっと耐えてきたのだぞ!これをどれほど悔しいと思ってきたか。金で婚約者を買うような卑しい考えを持つ貴様には、俺の気持ちなど生涯分かるまいな」

 先から貴様、貴様と呼ばれておりますが。
 それから私から俺に変わっておりますけれど。

 色々と取り繕えなくなっていて、この方は大丈夫なのでしょうか?

 そして買われる……ですか。
 確かにこの婚約に権限を持たない公爵令息様からすれば、そう捉えられなくもありませんね。

 ですがそれは、当主である公爵様へとぶつけるべき不満でしょう。

「それも今日で終わりである!ローゼマリー、貴様とは婚約破棄だ。本来であれば、金で男を買うなどという卑しい真似も、貴族として許された行いではないだろう。だから、こちらから貴様に慰謝料を請求したいところだが。私は金で解決することを良しとはしない善良な貴族であるからな。歴史ある由緒正しき貴族である俺は、お前たち新興貴族とは決して同じような振舞いをしない!」

 あらまぁ。

 この会場に、どれだけの新興貴族の方々がいらっしゃるか。
 それも考えられてはいないのですね。

 それに我が家を二度も新興貴族と称しましたか。
 新しさという意味では間違ってはおりませんけれど。
 ここにいる新興貴族の皆様と、はたして同じ括りにして良いものか疑問が残ります。

 とすると、今の言葉は我が家だけに向けたもの、と捉えられなくもないでしょう。
 彼にも逃げ道を用意する頭があった、ということならば称賛してあげてもいいですね。

 いえ、そんな頭がございましたら、最初からこのような場で愚かな発言を重ねてはおりませんでしたわ。
 称賛には値しない御方でしたから、今の言葉は撤回させていただきます。


 と、口から出すわけにはいきませんでしたので。
 視線だけで周囲の様子を窺いましたところ。

 あらあら。
 隠しもせずに公爵令息様を睨み付けておられる方も少なくありませんわね。

 人を睨んでいると他者の視線は痛くならないものなのでしょうか?
 公爵令息様は、変わらず私を睨んでおりました。


「貴様を国外追放とする案も出たが、今回は特別に婚約破棄に納得すれば、それで許してやることにした。ここにおられる王女殿下の慈悲深さには、心から感謝するんだな」

 どこのどなたからそんな案が出たか、お尋ねしたいところですが。

 それから慈悲深い方であると言うならば。
 このような園遊会という公の場でお話しすることは決してなかったと思いますけれど?


 これは心配になりますわね。
 公爵令息様と、それから王女殿下の今後が。


 そして私にはもうひとつ気になることがございます。
 この場に王女殿下を諫められる御人が一人もいらっしゃらないというのは、あまりに不自然。

 何か別の陰謀めいたものをこの場から感じてしまったのは、私だけなのでしょうか?

 あえてこの方々を泳がせている方がどこかにいるのではありませんこと?
 見える限り探してみましたけれど、めぼしい方は視界に入りませんでした。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。 ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

「平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる」

ゆる
恋愛
平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる 婚約者を平民との恋のために捨てた王子が見た、輝く未来。 それは、自分を裏切ったはずの侯爵令嬢の背中だった――。 グランシェル侯爵令嬢マイラは、次期国王の弟であるラウル王子の婚約者。 将来を約束された華やかな日々が待っている――はずだった。 しかしある日、ラウルは「愛する平民の女性」と結婚するため、婚約破棄を一方的に宣言する。 婚約破棄の衝撃、社交界での嘲笑、周囲からの冷たい視線……。 一時は心が折れそうになったマイラだが、父である侯爵や信頼できる仲間たちとともに、自らの人生を切り拓いていく決意をする。 一方、ラウルは平民女性リリアとの恋を選ぶものの、周囲からの反発や王家からの追放に直面。 「息苦しい」と捨てた婚約者が、王都で輝かしい成功を収めていく様子を知り、彼が抱えるのは後悔と挫折だった。

【完結】初夜の晩からすれ違う夫婦は、ある雨の晩に心を交わす

春風由実
恋愛
公爵令嬢のリーナは、半年前に侯爵であるアーネストの元に嫁いできた。 所謂、政略結婚で、結婚式の後の義務的な初夜を終えてからは、二人は同じ邸内にありながらも顔も合わせない日々を過ごしていたのだが── ある雨の晩に、それが一変する。 ※六話で完結します。一万字に足りない短いお話。ざまぁとかありません。ただただ愛し合う夫婦の話となります。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中です。

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...