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史上最高の遺書
しおりを挟む「――という事があったのよ」
あれから10数年が経った。
私は8歳の娘になるエカチェリーナに、とある昔話を聞かせていた。
私とアレックスの馴れ初めという昔話である。
「へぇー、お父様もお母様も凄い恋愛をしていたのね! 素敵だわ!」
なぜこの話を聞かせているかというと、娘がどうしても気になるというから聞かせてあげたのだ。
どうやら私たちの婚約は伝説になったらしく、10年以上経つ今でも小等部、高等部関わらず、学園で語り継がれているらしい。
「そういえば、結局お母様を虐めていた2人ってどうなったの?」
「うーん。それは私もわからないのよね」
これは嘘だ。
あのあとローレアは退学処分になり、また貴族としての身分も失ったたけではなく、数年ほど幽閉生活を送っていたらしい。
今ではどうやら平民として暮らしているらしいが、完全に婚期を逃してしまった彼女は、1人寂しくどこかで暮らしていると聞いた。
また、アーウィンは退学処分にはならなかったものの、ローレアが居なくなったあと、学力がたちまち落ちてしまい留年。そして、最終的には退学することになり、今では実家で引きこもってしまっているらしい。
ただまだ幼い娘に聞かせる話ではないだろう。そう判断して誤魔化すことにした。
すると、傍で紅茶を飲んでいたアレックスがふと声をかけてくる。
「そういえばあの時の遺書ってどうなってるんだい? もう捨てちゃった?」
「ううん。捨ててないですよ。ただ、結構内容は書き直しましたけどね」
「へぇ……どんな内容に変わってるんだ?」
「ふふっ、秘密。私が死ぬ時までのお楽しみです」
そう言うと、娘が悲しそうな顔で抱きついてくる。
「えーっ! 死ぬなんて言わないでよー!」
「あら、ごめんなさい。勿論、まだ死ぬつもりなんてないわよ」
「良かったー! お父様もお母様もずーっと一緒にいましょうね!」
「ははっ、そうだな。僕もハンナもエカチェリーナもずっと一緒に暮らそうな」
「ふふっ、そうですね」
そうして温かい雰囲気に包まれながら、私たちは幸せを噛み締める。
勿論、ずっと幸せだなんてそんなことはありえない。永遠に一緒だなんてありえない。
それが人生だし、人間には寿命があるのだから。
でも、この人生を後悔なく生きてみせる。
ちゃんと寿命を全うしてみせる。
それが私なりの最高の遺書の渡し方だと思うから。
そして、私は最高の渡し方で最高の遺書を家族に残してやるんだ。
誰が読んでも分かりやすい、そんな遺書。
だから私の史上最高の遺書はたった1文だけ。
『ずっとずっと。愛しています』
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ノーベル賞相当(レイモンド賞だっけ?)の受賞者を自殺未遂に追い込んだんだから、アーウィンとローレアは死刑にしないと国家としての信賞必罰が保てないよな?
魔法攻撃による殺人未遂の容疑もある。二人だけじゃなくて共犯の取り巻きも死刑にしないとな。
被害者は世界規模の頭脳で貴重な存在だろ? 加害者はクズで汚物だ。退学処分だけだと極甘すぎるだろ。
汚物は消毒しないとね。