【R18】黒のエリアマスター

shinko

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第三章 王都シルバーニュ

31話 与えられた住居

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 町人街の最北端、迷宮壁から通りを挟んですぐ東横にある一等地、元貴金属宝石商店だった店舗と屋敷が付いた一角が騎士ケルビン・シルバーに与えられた。

 立派な白壁に四方を囲まれた長方形の敷地内。南側に店舗を配置、緑と池のある広々とした中庭があって北奥に本邸のある金持ちが住むお屋敷だ。

 貧乏騎士宅よりよっぽど立派。豪華な住宅を見て驚いた。

「素晴らしい家じゃないか。これなら店舗の中を少し改装すればすぐにチームを発足できるな」

 いや、もうチームではなく従士隊か、騎士になった以上は自分の兵を持って当然なのだ。

「ええ、よっぽどケルビンが大事なのね。貴族壁と貴族門のすぐ近くの一等地なんて。王都の守りとしても置いておきたい場所だしね」

 アリエールも余りの広さに感心する。

「迷宮のすぐ隣ですしね。いい所じゃないですか。これで私達も騎士夫人ですよ。ねえ、アリエール・シルバーさん」

「そうなのよ、困ったわね。エマール・シルバーちゃん」

 二人が嬉しそうに騎士夫人ごっこをして遊んでいる。騎士爵位を証明する銀の剣バッジを貰ったので二人に渡したところ大喜びでつけて遊んでいるのだ。

 シルバーの名前は単純に俺の髪と目の色から取っただけだが、二人とも気にいったようだった。


【神の手】のテレジアさんの店も迷宮を挟んで反対側だがすぐ近くだ。挨拶に行って店舗改装などを請け負う工房を紹介してもらい、打ち合わせをしてさっそく改装に入ってもらった。

「でもまさか【領域の主エリアマスター】だったとはね、武道家って言ってたじゃないの……。それにしても騎士になって、あんないい家も貰うなんてね……。私がここに店を持つのにどれだけ苦労してきたかわかってんの?」

 テレジアさんがぷんすか怒っているのだ。あっさり手に入れた住居が気にくわないらしい。
 この店も一等地で住居付なのだが、うちの1/4区画位しかないそうだ。
 本当は俺が貰った区画が欲しかったそうだが買えなかったらしい。

「まあ、いいじゃないか。これからうちのメンバーが増えればここで装備を買うんだし、そうだ。エマールにも髪飾りを買ってやろう。こないだはお金が足りなかったからな」

「いいんですか。ありがとうございます」

 ドワッ娘が嬉しそうな顔をした。

「ありがとうケルビン。じゃあ、私はどれにしようかしら」

 さりげなくアリエールが高そうな指輪を物色しようとする。

「おい、待てアリエール。お前はフルセットで買っただろう」

「えー、いいじゃないの。ほら、まだ指は余ってるんだし。ケルビンは指輪3つしてるのに私は2つじゃ困るでしょ」

「いや、その理屈はおかしい。そんなに欲しいなら俺の指輪をやろう。ほれ、炎の指輪でいいのか」

 左手の指輪を外そうとするとすると、アリエールが大きく手を振って拒否をした。

「ちっだめかぁ……」

 ハイエルフがしょぼくれる。貴金属が好きなエルフってどうなんだ。自然を愛する種族じゃないのだろうか。俺の中の妖精のイメージがどんどん崩れていく。

「舌打ちをするな。今回はだめだ。まあ、必要があれば考える。お前は買いすぎだ」

「はーい、しょうがないわね」

 しぶしぶアリエールがあきらめた。

 エマールは聖銀の髪飾りを付けて喜んでいた。


 店から出ると迷宮冒険者ギルドに向かった。

 大門をくぐると待機所にはウサギ耳の獣人ラナナがいた。
 
 赤い目で俺達を見つけると、笑顔でこっちに近づいてきた。

「皆さま、おはようございます。ケルビン様、騎士になられたそうですね。おめでとうございます。すごいご活躍で私、もう憧れて尊敬してますよ」

 うるうるした瞳で俺を見上げる可愛いウサギ。
 
「おう、ラナナちょうど良かった。お前に会いに来たんだよ」

「えっ……私にですか」

「ああ、冒険者になりたいって言ってただろ、俺の冒険者チームに入らないか。手伝いをしてほしいんだ」

「冒険者チームですか……」

 喜ぶかと思きや、うつむくラナナ。

「なんだ、嫌なのか」

「いっ嫌じゃないです。でも、私なんか役に立つか……その、強くないし」

「ああ、いいんだ。別に戦闘して欲しい訳じゃない、ギルドで受けてくれないような依頼を受ける冒険者のチームを作るんだ。簡単に言うと俺の私兵だが、騎士の従士隊みたいなもんだな。騎士になった以上部下が沢山いる。気心が知れた者が欲しいんだ。どうだラナナ」

「私が、ケルビンさん達の従士に……」

「そんなに難しい話じゃないのよ。ラナナちゃんと一緒に遊びたいだけ。ね、うんって言ってちょうだい。優遇するわ」

 アリエールがしゃがんで目線をラナナに合わせる。

「はい、わかりました。ありがとうございます。こんな私で良ければお世話になります」

「やった、よろしくね。ラナナちゃん」

 アリエールがラナナに抱き着いた。

「はい。よろしくお願いします。アリエールさん」

 こうしてラナナは俺達の仲間になった。


 一応ギルド長のメリシアにも許可をもらったが、サポーターはバイトみたいな扱いらしく、特に大した手続きも必要ないようだった。

 ラナナも連れて屋敷へ入った。

「すごいお屋敷ですね。これはメイドも執事も必要になりますね」

 ラナナが大きな屋敷を見て目をまるくする。

「そうなんだ。それをまず頼みたい。ラナナに任せるから何とかして欲しい」

 ラナナの手に大白金貨1000万ドロルを握らせる。

「なっ何ですかこの大金は!? ……もう、ケルビンさんはしょうがないですねぇ。わかりました。このラナナにお任せください」

 渡された大金にびっくりするも、俺達の事情を考えて納得したのだろう。大きくため息を吐くと諦めたように決心してポンっとふわふわの胸を叩いた。

「おおっさすがラナナだ。そう言ってくれると思ったよ」

「うーん。このお屋敷を維持しようと思ったらかなりの人数が必要になりますね。とりあえずはメイド長とメイドで少なくとも5人、執事も2.3人はいるし、従士もいるし、家宰もいるし、もー、やる事いっぱいで大変じゃないですか!」

「そうなんだよ。俺達は何も知らないしできないんだ。エマールも賢そうに見えてこっち人事方面はてんでだめなんだ。ラナナが頼りだ。エマールと相談して二人の好きにしていいから、たのんだぞ。じゃ」

「そうなのよ。よろしくね。小さなお二人さん」

 そそくさと階段を上がって逃げ出す俺とアリエール。

「えーずるいですよ。アリエールさん」

「ふふふ。頑張りましょうね。エマールさん」


 二人にお任せして俺達は寝室へ逃げた。
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