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第三章 王都シルバーニュ
26話 襲撃 牛巨獣人王
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外は大混乱だった。
ギルドから出ると、迷宮の横穴をこじ開けるように大きな牛の頭を持つ巨人のモンスターが這い出してくるところだった。
『ブォオオオオオオン!!』
その破壊力のある咆哮に、空気がビリビリと振動し、心臓がつかまれるような恐怖が体に襲い掛かった。
「ミノタウロス……か!?」
大きな破壊音を響かせながら地下から這い出して来た青い巨大な牛の怪物がついにこの地で立ち上がった。山のような大きさだ。
牛の頭に筋肉質の体を持つ怪物だ。9階の階層主として存在するはずの怪物が、あり得ないくらいの巨人となって迷宮の横穴から這い出して来たのだ。
これも変異主なのか!? 【進化の魔王】の仕業かもしれない。
「牛巨獣人王だー! 逃げろーー!」
「うわぁあああああ! 巨人がでたぞぉおおおお!」
冒険者が叫びながら逃げ惑う。
30メートルはあろうかという程の大きさだ。サイクロピスとは雲泥の差だ。
なんだこれは!? でかすぎだろ。これどうすんだよ。
俺達三人はあまりの大きさに戦慄し硬直した。
その牛巨獣人王は、巨体に見合ったアホみたいな大きさの牛刀を右手に持ち、恐ろしく軽々とその凶悪な武器を振り回す。
ドガァーン。ドガァーン。ドガァーン。
そのひと振りで近くにいた冒険者達がまるでちぎれた草のように軽々と飛んで行く。
「ぎゃああああああ!!」
「ひいいいいいい!!」
……虐殺だ。これは大虐殺だ。
無慈悲に余りにも脆く、羽のように人間が軽く飛んで行く。
まるで地獄のようだった。
一瞬にして辺り一面が赤く染まる。
俺達はしばし呆然とし、そこから固まったように動けなかった。
――ふいに一筋の閃光が走った。
ピカッ。ボカァーーーン。
『グァアアアアア!』
二百メートル程離れている牛巨獣人王の胸辺りから突如爆発が起こった。
その攻撃に巨人が叫び、胸を押さえて後ずさる。
光の出どころを目線で追うと、大門の辺りから魔法攻撃する賢そうな初老の宮廷魔導師姿が見つけられた。
高貴そうな長い杖を振りかざすと、大きな魔法陣が空中に浮かび、急速に魔力の集中が感じられる気がした。
「おおおおっ!!」
皆が期待した目でその姿を注視する。
「あれは宮廷魔導師長ソサーラ様と副師長プロフット様です。騎士団長ウォルター様と副団長タンドリー様も、運よくこの辺にいたようです。青龍の調査をしていたから……」
いつの間にか後ろにいたメリシアが俺に説明するように話をした。
大きくなる魔法陣の横には立派な鎧に包まれた騎士団長が並んでいた。
騎士は二人、魔導師も二人だ。メリシアの言う通りたまたま調査に来ていたのだろう。危機と見て戦闘態勢に入ったようだ。
副魔導師長が三人に補助呪文をかけている。
その間にも宮廷魔導師長が詠唱を重ね膨れ上がった魔法陣が大きく弾ける。杖先に光が集まり大魔法が繰り出される。
「【超大爆発呪文】!」
杖先から放たれた閃光が空中を走り、牛巨獣人王の頭に到達する。同時に顔が吹き飛ぶような大爆発が巻き起こる。
ドバァーーーーーーン!!
『ギャアアアアアアア』
「うおおおお!」
「やったあああ!」
もうもうと上がる煙に冒険者が期待の歓声をあげた。しかし、それはすぐに落胆の声へと変貌する。
「ああっ、だめかぁ」
爆風の煙が消えた先には、怒りに燃える牛王の顔があるだけだった。
多少のダメージはあるようだが、致命傷には程遠い。
距離があるとはいえあの威力でかすり傷程度にしかならないとは、あの化物なんという硬さだ……!?
「クソッ! いくぞタンドリー!」
「はい! 団長」
補助を貰った騎士団長と副団長が意を決して突っ込んでいく。
勇敢ではあるが巨人に比べて彼らの背中はあまりにも小さい、俺は胸が締め付けられるような思いがした。
しかしその横から、黒い影が合流するとスピードを合わせて一緒に突っ込む。
黒いマントを翻して走る、長身の戦士クローさんだ。
その勇ましい姿を見た瞬間、俺の硬直が解けた気がした。
「くそっ俺も! 俺も行くぞ、アリエール! 補助を頼む!」
「うん、そうね。 【風の歩行補助】 【風の攻撃補助】 【風の防御補助】! 倒せるのはあなたしかいない。あなたなら出来る。頑張ってね。ケルビン」
アリエールが信頼して俺を見つめた。
メリシアもすがるような目で俺を見る。
「ケルビンさん、あの三人はAランクなんです。ここにはSランクはあなたしかおりません。無理を承知でお願いします。何とか助けてください」
「ああ、分かった。そのかわりここは任せたぞ。エマール、アリエールを守ってくれ!」
「はい! ケルビンさん。気を付けてくださいね」
俺は大きくうなずくと三人を囲っていた領域を解き放ち、自分一人に黒い領域を纏わせた。
「任せとけ!」
風の補助を受けて軽やかになった体で走り出した。
ギルドから出ると、迷宮の横穴をこじ開けるように大きな牛の頭を持つ巨人のモンスターが這い出してくるところだった。
『ブォオオオオオオン!!』
その破壊力のある咆哮に、空気がビリビリと振動し、心臓がつかまれるような恐怖が体に襲い掛かった。
「ミノタウロス……か!?」
大きな破壊音を響かせながら地下から這い出して来た青い巨大な牛の怪物がついにこの地で立ち上がった。山のような大きさだ。
牛の頭に筋肉質の体を持つ怪物だ。9階の階層主として存在するはずの怪物が、あり得ないくらいの巨人となって迷宮の横穴から這い出して来たのだ。
これも変異主なのか!? 【進化の魔王】の仕業かもしれない。
「牛巨獣人王だー! 逃げろーー!」
「うわぁあああああ! 巨人がでたぞぉおおおお!」
冒険者が叫びながら逃げ惑う。
30メートルはあろうかという程の大きさだ。サイクロピスとは雲泥の差だ。
なんだこれは!? でかすぎだろ。これどうすんだよ。
俺達三人はあまりの大きさに戦慄し硬直した。
その牛巨獣人王は、巨体に見合ったアホみたいな大きさの牛刀を右手に持ち、恐ろしく軽々とその凶悪な武器を振り回す。
ドガァーン。ドガァーン。ドガァーン。
そのひと振りで近くにいた冒険者達がまるでちぎれた草のように軽々と飛んで行く。
「ぎゃああああああ!!」
「ひいいいいいい!!」
……虐殺だ。これは大虐殺だ。
無慈悲に余りにも脆く、羽のように人間が軽く飛んで行く。
まるで地獄のようだった。
一瞬にして辺り一面が赤く染まる。
俺達はしばし呆然とし、そこから固まったように動けなかった。
――ふいに一筋の閃光が走った。
ピカッ。ボカァーーーン。
『グァアアアアア!』
二百メートル程離れている牛巨獣人王の胸辺りから突如爆発が起こった。
その攻撃に巨人が叫び、胸を押さえて後ずさる。
光の出どころを目線で追うと、大門の辺りから魔法攻撃する賢そうな初老の宮廷魔導師姿が見つけられた。
高貴そうな長い杖を振りかざすと、大きな魔法陣が空中に浮かび、急速に魔力の集中が感じられる気がした。
「おおおおっ!!」
皆が期待した目でその姿を注視する。
「あれは宮廷魔導師長ソサーラ様と副師長プロフット様です。騎士団長ウォルター様と副団長タンドリー様も、運よくこの辺にいたようです。青龍の調査をしていたから……」
いつの間にか後ろにいたメリシアが俺に説明するように話をした。
大きくなる魔法陣の横には立派な鎧に包まれた騎士団長が並んでいた。
騎士は二人、魔導師も二人だ。メリシアの言う通りたまたま調査に来ていたのだろう。危機と見て戦闘態勢に入ったようだ。
副魔導師長が三人に補助呪文をかけている。
その間にも宮廷魔導師長が詠唱を重ね膨れ上がった魔法陣が大きく弾ける。杖先に光が集まり大魔法が繰り出される。
「【超大爆発呪文】!」
杖先から放たれた閃光が空中を走り、牛巨獣人王の頭に到達する。同時に顔が吹き飛ぶような大爆発が巻き起こる。
ドバァーーーーーーン!!
『ギャアアアアアアア』
「うおおおお!」
「やったあああ!」
もうもうと上がる煙に冒険者が期待の歓声をあげた。しかし、それはすぐに落胆の声へと変貌する。
「ああっ、だめかぁ」
爆風の煙が消えた先には、怒りに燃える牛王の顔があるだけだった。
多少のダメージはあるようだが、致命傷には程遠い。
距離があるとはいえあの威力でかすり傷程度にしかならないとは、あの化物なんという硬さだ……!?
「クソッ! いくぞタンドリー!」
「はい! 団長」
補助を貰った騎士団長と副団長が意を決して突っ込んでいく。
勇敢ではあるが巨人に比べて彼らの背中はあまりにも小さい、俺は胸が締め付けられるような思いがした。
しかしその横から、黒い影が合流するとスピードを合わせて一緒に突っ込む。
黒いマントを翻して走る、長身の戦士クローさんだ。
その勇ましい姿を見た瞬間、俺の硬直が解けた気がした。
「くそっ俺も! 俺も行くぞ、アリエール! 補助を頼む!」
「うん、そうね。 【風の歩行補助】 【風の攻撃補助】 【風の防御補助】! 倒せるのはあなたしかいない。あなたなら出来る。頑張ってね。ケルビン」
アリエールが信頼して俺を見つめた。
メリシアもすがるような目で俺を見る。
「ケルビンさん、あの三人はAランクなんです。ここにはSランクはあなたしかおりません。無理を承知でお願いします。何とか助けてください」
「ああ、分かった。そのかわりここは任せたぞ。エマール、アリエールを守ってくれ!」
「はい! ケルビンさん。気を付けてくださいね」
俺は大きくうなずくと三人を囲っていた領域を解き放ち、自分一人に黒い領域を纏わせた。
「任せとけ!」
風の補助を受けて軽やかになった体で走り出した。
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