なりゆきの同居人

七月きゅう

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#61

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 ホテルの部屋に入り、律をベッドに座らせると、詩織はその傍らに腰を下ろした。
一仕事終えた達成感に、思わず長い息を吐く。
時間の経過によって、律の症状はいくらか回復したようだった。
といっても正常に戻ったわけではなく、酩酊状態から抜け出た程度だ。

 そんな彼女をここまで連れてくるのには、かなり手を焼いた。
酔って千鳥足のくせに、自分で歩けると言い張って聞かないのだ。
ふらつく足取りで進む様は鈍いうえに危なっかしく、自分が抱いて運んだ方がよほど手早く事が片付くように思えた。

道中で、彼女に何度かその提案をしてみたが、しかし、酔っぱらった頭でさえ、それをされるのには抵抗があるのか、頑として拒否され続けた。

 挙句、不安定に揺れる体を支えようと腰に手を回せば、触るなと振り払われ、すったもんだした末に、ようやく肩を抱くことだけは許された、という始末だった。
 上半身を丸めるような姿勢でベッドに腰かけている律が、小さくうめく。

「大丈夫か」
「…はい」
「トイレは向こうだ」
「…はい」
「風呂はそこだ」
「…はい」

何か言う度に、彼女は頭を揺らしてうなずいた。
 乱れて頬に張り付いた髪を耳にかけてやった時、ふいに律が顔を上げた。
半ば夢うつつのような、とろりとした目で見つめられ、一瞬、よこしまな思いが頭をもたげる。

 詩織はさりげなくベッドを離れ、律から距離を置いた。
彼女が飲み過ぎでなければ。
そのことばかりが頭をよぎる。
その度に“誰のせいでこうなったんだ?”という戒めを唱えなければならなかった。

 行き場もなく部屋の中をうろうろしていると、背中越しに弱々しい声が聞こえた。
「…ごめんなさい。私には務まりませんでしたね」
同伴のことだとすぐに分かったが、とっさに返事を返せなかった。
もちろん詩織としては、そんなことはないと思っている。

しかし、彼女にその言葉をかけたところで信じはしないだろう。
立場が逆なら、自分だって役不足だったと感じるはずだ。
「最初に一緒に行くはずだった人がダメだったなら、あなたは一人で参加した方がよかったんですよ。それか、誰か他の人と。とにかく私なんかじゃなくて…」

言葉の続きを待ってみるが、その先はない。
 振り返ると、律がベッドに腰かけたまま、上半身だけ横たわっているのが見えた。
「りっちゃん?」

返事の代わりに寝息が聞こえた。
 詩織はそっとベッドに近づく。
もう一度名前を呼んでみたが、律が起きる気配はなかった。
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