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#52
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抵抗するように、律は代替案を出す。
「なら、今から別の恋人役を探せばいいじゃないですか?三上さん、知り合い多そうですし」
「そんな時間はない」
「あなたなら秒速で可能だと思いますよ?」
皮肉だけど、ゆるぎない事実でもある。
「残念だが、俺にもできないことはある」
「そうだ、三上さん。この世には、レンタル彼女という便利なものがあるらしいです」
「コストを考えると割に合わない」
律の案をすべて却下すると、彼は口の端を持ち上げる。
「それに何の偶然か、俺は君の婚約者に成りすました過去がある。それもついこの間だ。その設定を適用すれば話が早い」
「それは…」
つまり、以前、母の前で通した婚約者の芝居を再びしろということだろう。
しかし分からないのは…
「なんで私なんですか?」
「赤の他人を連れていくようなところじゃないからだ」
「それを言ったら、私だってただの…」
律は一瞬言葉に詰まる。
二人の関係性を表現する言葉が見つからない。
間違いなく友達ではない。じゃあ、知り合い?…それだと何か味気ない。
それに、単なる知り合いよりは距離が近いような気がする。
仕方なく、いつも使う言葉を持ち出す。
「同居人ですよ。それも由紀奈さんの、ね」
「充分な資格だよ」
それでも気乗りせず、律は返事に戸惑う。
結局、彼が律を指名したのは、彼を未来の夫として母に紹介した時の恋人設定を、今度は彼が利用したい、というだけの話だろう。
ただ、それだけ。
刹那、がっかりした心から目を背ける。
「参加してくれたら、謝礼も出す」
「結構です。三上さんだって受け取らなかったじゃないですか」
「あの件の埋め合わせを求めているわけじゃないが、もし不都合でないなら、俺を助けてほしい」
詩織は、律が困っていたときに惜しみなく力を貸してくれた。
彼が同じような状態にあるときに断るのは、とても不義理に思える。
「誰か一人を選ぶとしたら君がいいんだ」
かけられたその言葉は不意打ちだっただけに、律の心臓は過剰なほど反応する。
適任だという意味合いであることは理解していても。
「…ほんとにただ、参加すればいいだけですか?」
念押しするように問い返すと、彼はにっこりと笑って頷く。
「ああ。ついでに恋人らしく指でも絡めてくれれば尚いい。…こんな風に」
言うが早いか、彼の長い五指が律の指の間に滑り込む。
自分の手に、さらりと温かい大きな手が重なったことで、律は動揺する。
目の前には自分を見下ろして笑む彼の、見目麗しい顔。
「それはっ…!ご期待には添えかねますっ!」
勢いよく顔を背けて、絡んだ指から慌てて手を引き抜く。
一瞬見えた、彼の愉快そうな顔が忌々しい。
「別オプションか。それでも、同伴は受けてもらえるんだな」
「…まぁ、はい…」
「楽しみにしてるよ」
彼の意味ありげな笑みに、渋々というように頷くと、律は食器を持ってキッチンに逃げ込む。
ちょうどよく由紀奈が二階から降りてきたので、それ以上、詩織に悪乗りされることもなかった。
離れてほっと息をついたものの、彼に手を触れられた感触が何度もよみがえり、その手と頬だけが、熱を持ったように熱かった。
「なら、今から別の恋人役を探せばいいじゃないですか?三上さん、知り合い多そうですし」
「そんな時間はない」
「あなたなら秒速で可能だと思いますよ?」
皮肉だけど、ゆるぎない事実でもある。
「残念だが、俺にもできないことはある」
「そうだ、三上さん。この世には、レンタル彼女という便利なものがあるらしいです」
「コストを考えると割に合わない」
律の案をすべて却下すると、彼は口の端を持ち上げる。
「それに何の偶然か、俺は君の婚約者に成りすました過去がある。それもついこの間だ。その設定を適用すれば話が早い」
「それは…」
つまり、以前、母の前で通した婚約者の芝居を再びしろということだろう。
しかし分からないのは…
「なんで私なんですか?」
「赤の他人を連れていくようなところじゃないからだ」
「それを言ったら、私だってただの…」
律は一瞬言葉に詰まる。
二人の関係性を表現する言葉が見つからない。
間違いなく友達ではない。じゃあ、知り合い?…それだと何か味気ない。
それに、単なる知り合いよりは距離が近いような気がする。
仕方なく、いつも使う言葉を持ち出す。
「同居人ですよ。それも由紀奈さんの、ね」
「充分な資格だよ」
それでも気乗りせず、律は返事に戸惑う。
結局、彼が律を指名したのは、彼を未来の夫として母に紹介した時の恋人設定を、今度は彼が利用したい、というだけの話だろう。
ただ、それだけ。
刹那、がっかりした心から目を背ける。
「参加してくれたら、謝礼も出す」
「結構です。三上さんだって受け取らなかったじゃないですか」
「あの件の埋め合わせを求めているわけじゃないが、もし不都合でないなら、俺を助けてほしい」
詩織は、律が困っていたときに惜しみなく力を貸してくれた。
彼が同じような状態にあるときに断るのは、とても不義理に思える。
「誰か一人を選ぶとしたら君がいいんだ」
かけられたその言葉は不意打ちだっただけに、律の心臓は過剰なほど反応する。
適任だという意味合いであることは理解していても。
「…ほんとにただ、参加すればいいだけですか?」
念押しするように問い返すと、彼はにっこりと笑って頷く。
「ああ。ついでに恋人らしく指でも絡めてくれれば尚いい。…こんな風に」
言うが早いか、彼の長い五指が律の指の間に滑り込む。
自分の手に、さらりと温かい大きな手が重なったことで、律は動揺する。
目の前には自分を見下ろして笑む彼の、見目麗しい顔。
「それはっ…!ご期待には添えかねますっ!」
勢いよく顔を背けて、絡んだ指から慌てて手を引き抜く。
一瞬見えた、彼の愉快そうな顔が忌々しい。
「別オプションか。それでも、同伴は受けてもらえるんだな」
「…まぁ、はい…」
「楽しみにしてるよ」
彼の意味ありげな笑みに、渋々というように頷くと、律は食器を持ってキッチンに逃げ込む。
ちょうどよく由紀奈が二階から降りてきたので、それ以上、詩織に悪乗りされることもなかった。
離れてほっと息をついたものの、彼に手を触れられた感触が何度もよみがえり、その手と頬だけが、熱を持ったように熱かった。
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