なりゆきの同居人

七月きゅう

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#51

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 その空気に感化されるように、律も背筋を正す。
「折り入って、君に頼みがあるんだ」
「…私に?」
慎重に尋ね返すと、彼は頷いた。

この家の使い方について何か問題が?
とっさに頭に浮かんだのは、そんなことだ。
緊張しながら視線を合わせると、彼が再び口を開く。

「…今週末の土曜日、何か予定は?」
「…?」
予想との違いに混乱しながらも、律は頭の中で今週の土曜日のことを思い浮かべる。
仕事は休みだ。そして当然(というのは寂しいが)予定は何もない。

それを伝えるように、首を横に振ってみせる。
すると彼が微笑した。
一体なに?話の先行きが見えず、律は身構える。

「その日、知り合いの家で納涼会があるんだ」
「はぁ…」
「そのイベントに、一緒に参加してくれないか」
律はたっぷり3秒、詩織を見つめてから、確認する。

「…私が、ですか?」
「ああ。君に、恋人として参加してほしいんだ」
「恋人!?」
「ああ。もちろん“役”ということだ。もともと同伴を頼んでいた女性が、体調不良で来れなくなったんだ」
「…そうなんですか」

もともと参加する予定だった女性は…彼とはどういう関係なのだろう。
その存在を想像して、一瞬心がさざ波だつ。
しかし自分には関係ないと思い直す。
大体、この容姿なら彼女がいない方がおかしい。

「なぜ私なんですか?私に頼むよりも、本当の恋人を連れていけばいいのでは?」
「前にも言ったが、恋人はいない」
「特定の恋人は、ということですか」
「なぜそう穿った捉え方をする?」

このやり取りは前にもしたことがある。
彼は素っ気なく理由を付け加えた。
「忙しいんだ」

それでも、候補なら掃いて捨てるほどいるに決まってるだろう。
いつかのフレンチレストランで遭遇した、まつげ女子を思い出す。
彼女の方がよっぽど彼にふさわしいんじゃ?

「だから、君に一緒に来てほしいんだ」
「そもそも…なんで恋人役が必要なんですか?一人で行ってもいいんじゃ…」
「皆が皆、同伴者を連れてくる場所に一人で行く奴がいるか?」

「それは…じゃあ、ただの同伴じゃいけないんですか?」
「同伴者を恋人だと思い込む相手も多い。それをいちいち否定するのは面倒だ。それならいっそ最初から上辺だけでも恋人で通したい。実際、参加者の連れはほとんどが伴侶か恋人、あるいはその予備軍だ」

…予備軍?
それはつまり、正当な恋人ではないという意味だろうか?
一体どういう会なのだろう?
いずれにせよ、あまりイメージはよくないし、参加したいとも思わない。
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