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昨夜、初対面を果たしたばかりの二人が、朝の姉弟げんか並みのやり取りを繰り広げることなど当然なく、その後も朝の情報番組が流すレジャー特集を観ながら、時折ぽつりぽつりと互いに言葉を交わす程度だった。
居心地が悪いわけではないけれど、いいわけでもない、微妙な空気だ。
テレビからにぎやかな音声が流れてくればくるほど、この部屋の静けさを感じてしまう。
そそくさと朝食を終えると、番組がCMに切り替わったのを機に律は立ち上がる。
「CMなので今のうちに片づけをします」
何事かと問うように律の動きを目で追う彼に答えながら、テーブルの上の三人分の食器を手早く重ねていく。
「いいよ、俺がやる」
言うが早いか、立ち上がって皿をまとめ始めた彼を、律は慌てて止める。
「いいです、私がやるので…置いといて下さい」
しかし、彼は重ねた皿を片手で持ち上げると、空いた方の手で律が積み上げた食器もつかんでシンクに向かう。
「りっちゃんは座ってテレビでも見てなよ」
「ほんとにいいんです!私がやります!この後、何も予定もないし…!それより三上さんは仕事の支度をどうぞ!」
律は急いでテーブルの上の残りの食器をまとめると、それを持って詩織の後を追う。
「俺が家を出るのは九時頃だ。それに支度は5分もあれば済む。…なんでそんなに不満そうにする?君はこの家の家政婦じゃないんだろう?」
「そうですけど…でも、三上さんはそういう手間が嫌だからコンビニのご飯にしてるんですよね?」
「単に料理スキルがないという理由もある」
彼はおどけるように肩をすくめてみせる。
「でも、そんな能無しでも後片付けくらいはできるんだよ」
「ですが、申し訳ないので…」
「気にするな」
でも…。なおも食い下がるように律が口を開くと、詩織が眉間にしわを寄せた。
「ずいぶんと疑わしそうな顔だな。俺に洗い物をさせるのがそんなに不安か?」
「そうじゃなくて…」
「なら、俺に任せてほしい」
「じゃあ…お願いします」
「大丈夫。君の予想よりはマシな出来になるはずだ」
にっこりと笑みを向けられ、律は仕方なく後片付けの役目を彼に譲る。
「ほら、続きが始まったぞ」
詩織が顎でテレビを指し示すので、律は彼に言われるままにリビングのソファに移動した。
…気になってしょうがないというような番組ではなかったのだけれど。
居心地が悪いわけではないけれど、いいわけでもない、微妙な空気だ。
テレビからにぎやかな音声が流れてくればくるほど、この部屋の静けさを感じてしまう。
そそくさと朝食を終えると、番組がCMに切り替わったのを機に律は立ち上がる。
「CMなので今のうちに片づけをします」
何事かと問うように律の動きを目で追う彼に答えながら、テーブルの上の三人分の食器を手早く重ねていく。
「いいよ、俺がやる」
言うが早いか、立ち上がって皿をまとめ始めた彼を、律は慌てて止める。
「いいです、私がやるので…置いといて下さい」
しかし、彼は重ねた皿を片手で持ち上げると、空いた方の手で律が積み上げた食器もつかんでシンクに向かう。
「りっちゃんは座ってテレビでも見てなよ」
「ほんとにいいんです!私がやります!この後、何も予定もないし…!それより三上さんは仕事の支度をどうぞ!」
律は急いでテーブルの上の残りの食器をまとめると、それを持って詩織の後を追う。
「俺が家を出るのは九時頃だ。それに支度は5分もあれば済む。…なんでそんなに不満そうにする?君はこの家の家政婦じゃないんだろう?」
「そうですけど…でも、三上さんはそういう手間が嫌だからコンビニのご飯にしてるんですよね?」
「単に料理スキルがないという理由もある」
彼はおどけるように肩をすくめてみせる。
「でも、そんな能無しでも後片付けくらいはできるんだよ」
「ですが、申し訳ないので…」
「気にするな」
でも…。なおも食い下がるように律が口を開くと、詩織が眉間にしわを寄せた。
「ずいぶんと疑わしそうな顔だな。俺に洗い物をさせるのがそんなに不安か?」
「そうじゃなくて…」
「なら、俺に任せてほしい」
「じゃあ…お願いします」
「大丈夫。君の予想よりはマシな出来になるはずだ」
にっこりと笑みを向けられ、律は仕方なく後片付けの役目を彼に譲る。
「ほら、続きが始まったぞ」
詩織が顎でテレビを指し示すので、律は彼に言われるままにリビングのソファに移動した。
…気になってしょうがないというような番組ではなかったのだけれど。
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