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答えはこの先も得られないだろう。
相手に終わりだと言われたのだから終わり。ただそれだけだ。
何もかもすべて、男を見る目がなかった自分の責任だ。
最終解にその言葉を持ってきて、思い出の全部を消せたらいいのに。
それなのに、頭はあとからあとから真との時間を掘り起こし、疑問と後悔と未だくすぶる愛情を呼び起こす。
こんな結末だと分かっていたら、付き合ったりしなかった。
その怒りが、未練も思い出もぜんぶ燃やし尽くしてくれればいいのに。
しかしそう思う一方で、もしかしたら明日には彼からの連絡が来るかもしれないと期待している。
どうかしてるとしか思えない。
真があんな男じゃなかったら、こんな結果にならなかったら、律は彼と結婚するつもりだった。
それくらい真剣に考えていた。
しかし、彼の方はそうではなかったらしい。
他の女と浮気をし、その末に律が捨てられた。
彼との未来のために転居や退職を決めたことは、今では早計だったとしか言いようがない。
退職してひと段落したら、二人で暮らすための家を探すはずだった。
それなのに、退職日の一週間前になって彼の浮気が発覚したのだ。
思い出してまた、律は唇をかむ。
慰謝料の一つも請求したいくらいの怒りはまだ消えていない。
けれど、それと同じくらい早く忘れてしまいたい、最悪な出来事だ。
それなのに心のどこかでは、彼が戻ってくるかもしれないという小さな期待を、今も持っている。
彼のことを考えると、バラバラの感情が代わる代わる心をさらう。
そして疲れ果てた末に、こんなこともうやめようと決意する。
それでもきっと、明日も同じことを繰り返してしまうのだろう。
ため息をついてスマホを手放す。
気を紛らわせようと、律は夕飯の準備をしにキッチンに入った。
昼間、スーパーの特売で合いびき肉を手に入れていたから、夕飯のメニューは迷うことなくハンバーグに決めた。
ひき肉を成形し小判型に整えたところで、律はリビングの壁掛け時計を見た。
19時半を少し過ぎたところだ。
あと30分ほどで由紀奈が帰ってくるだろう。
だし汁に味噌を溶いていると、玄関の鍵が開く音がした。
驚いた律は手を止めて、もう一度時計を見る。
いつもより早い帰宅だ。仕事が早く片付いたのだろうか?
ガスの火を消し、お玉とさい箸を手放すと、いつものように彼女を出迎えに行く。
「おかえりなさ~い!」
さっきまで沈んでいた気持ちを無理やり押し上げるため、いつもよりもテンション高めに廊下を抜けると、律は沓脱場に飛び出すように立って家主を出迎える。
「は…」
早かったですね!と続けようとした言葉は、目の前の相手を見てぷつりと切れる。
玄関に立っていたのは由紀奈ではなかった。
相手に終わりだと言われたのだから終わり。ただそれだけだ。
何もかもすべて、男を見る目がなかった自分の責任だ。
最終解にその言葉を持ってきて、思い出の全部を消せたらいいのに。
それなのに、頭はあとからあとから真との時間を掘り起こし、疑問と後悔と未だくすぶる愛情を呼び起こす。
こんな結末だと分かっていたら、付き合ったりしなかった。
その怒りが、未練も思い出もぜんぶ燃やし尽くしてくれればいいのに。
しかしそう思う一方で、もしかしたら明日には彼からの連絡が来るかもしれないと期待している。
どうかしてるとしか思えない。
真があんな男じゃなかったら、こんな結果にならなかったら、律は彼と結婚するつもりだった。
それくらい真剣に考えていた。
しかし、彼の方はそうではなかったらしい。
他の女と浮気をし、その末に律が捨てられた。
彼との未来のために転居や退職を決めたことは、今では早計だったとしか言いようがない。
退職してひと段落したら、二人で暮らすための家を探すはずだった。
それなのに、退職日の一週間前になって彼の浮気が発覚したのだ。
思い出してまた、律は唇をかむ。
慰謝料の一つも請求したいくらいの怒りはまだ消えていない。
けれど、それと同じくらい早く忘れてしまいたい、最悪な出来事だ。
それなのに心のどこかでは、彼が戻ってくるかもしれないという小さな期待を、今も持っている。
彼のことを考えると、バラバラの感情が代わる代わる心をさらう。
そして疲れ果てた末に、こんなこともうやめようと決意する。
それでもきっと、明日も同じことを繰り返してしまうのだろう。
ため息をついてスマホを手放す。
気を紛らわせようと、律は夕飯の準備をしにキッチンに入った。
昼間、スーパーの特売で合いびき肉を手に入れていたから、夕飯のメニューは迷うことなくハンバーグに決めた。
ひき肉を成形し小判型に整えたところで、律はリビングの壁掛け時計を見た。
19時半を少し過ぎたところだ。
あと30分ほどで由紀奈が帰ってくるだろう。
だし汁に味噌を溶いていると、玄関の鍵が開く音がした。
驚いた律は手を止めて、もう一度時計を見る。
いつもより早い帰宅だ。仕事が早く片付いたのだろうか?
ガスの火を消し、お玉とさい箸を手放すと、いつものように彼女を出迎えに行く。
「おかえりなさ~い!」
さっきまで沈んでいた気持ちを無理やり押し上げるため、いつもよりもテンション高めに廊下を抜けると、律は沓脱場に飛び出すように立って家主を出迎える。
「は…」
早かったですね!と続けようとした言葉は、目の前の相手を見てぷつりと切れる。
玄関に立っていたのは由紀奈ではなかった。
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