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彼女について

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「前原さんって、彼女いるんですか?」


喫煙所で一服している時に、早瀬君が聞いてきた。
「もうすぐ付き合いそうな子がいる」
と、俺は答えた。

「えっ、告白されたんですか?」
「いや、ぜんぜん。彼氏と別れんの待ち」
「えーっ!まじっすか!」
「・・・まじっす」
俺は笑った。

「じゃあ、片想いですか?」
「いや、両想いだと思う」
「まさか、二股されてるんですか?」
「うん、三年」
「えっ!えーっ!長いっすね!すっごい魔性の女だ・・・」


確かに長いな。長すぎた。
実際、俺たちは相性が良かった。あんなにべったり一緒にいて、喧嘩なんてほとんどしたことがない。
純は、真面目に俺と付き合ってくれたと思う。できる限り寄り添ってくれていた。

だけど、満たされた生活の頭の片隅に、かすかに存在するソレ。
少しずつ少しずつ俺の中で蓄積していったのだろう。

そして、気づいたのだ。
本当はどんなに好きでも、こんな付き合い方はダメだ。

好きで好きで離れられなくて、騙し騙し一緒にいた結果、俺たちの間に信頼関係は生まれなかった。

長く付き合うカップルや夫婦には、たとえ恋する気持ちが薄まっても、確かな信頼が残るのだろう。
それは長い人生において恋愛感情よりも大事なもののように、俺は思えた。


「本当に別れてくれるんですか?その彼女さん。」
「・・・そうだな」

早瀬君ですら疑っている。
純は俺とこれから信頼関係を築くつもりなのだろうか?
それは、もう無理な気がした。


その日の夜中、仕事がやっと一段落し、帰りがけにみんなでラーメンを食べに行った。
今夜残った女性メンバーの千川さんが初めて食べると楽しそうにしている。京都発のどろどろスープのラーメンだった。

「私、ネギをトッピングします。」
「おお、なかなか良いチョイス。」

ラーメン好きの上司が、好き嫌いわかれるからと心配していたが、千川さんの好みに合ったようだった。

「すっごく美味しい!」

みんなニコニコして千川さんを見ている。
女の子が美味しいもん食って、美味しい!って喜んでる姿は癒やされる。
もう一人の女性の塚本さんも、千川さんを見て笑顔になった。


塚本さんの笑顔は珍しい。普段は無表情で近寄りがたい感じだ。
女性たちの中では年齢が一番上でリーダーだが、ぐいぐい引っ張っていくタイプではなく、物静かで丁寧なとりまとめ役といった上司だった。


「塚本さんもラーメン好きですか」
「うん。ここのはスープぜんぶ飲み干しちゃうくらい。」


話しかけると意外と気安くしゃべってくれた。 
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