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三話    人の心を一番知っているのは、誰じゃい

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……さてもさても、日本の偉人の中で誰が一番に、人とはを、知っていたのか。
人の心のヒダヒダの一枚一枚、カサカサと言う心の音、心の匂いとでも言おうか。
間違っても今の方々ではあるまい、つまり、心理学者、精神科医、小説家、詩人。
芸術家、評論家、哲学者、思想家、宗教家、教育者、占い師などではない。
しからば、この場合のB級グルメ的面々はいかに、つまり、詐欺師、極道。
イカサマ師、美人局、マフィア、用心棒、すけこまし……知れている。

ん~~、ああそうだ、お坊さんや神主ではないんかえ、仏の目や心眼を持っておられる。
範は昔にありにけりだ、それも遡る程に傑物、偉人ありではないんかい。
日本のお坊さんでは誰かいや、鑑真は中国人なり、それ以外では。
最澄、空海、空也、法然、栄西、親鸞、道元、日蓮、一遍、ではまだ若い。
あのお方、もしや行基菩薩ではないか、生きているうちからすでに菩薩になられておる。
よし決めた。小生、一念発起し行基菩薩様と夢の世界でのご対面致したく。
致したく、致した、致し、致……(深き眠りに入りました)……

小生  「これはこれは、お初にお目に掛かります」
    「私は越後の百姓の倅、名は助六いいまする」
    「今、夢の世界で夢を見ている様な、奇妙な面持ちでありまする」
    「とにもかくも、せっかくお会いした機会ですから、単刀直入にお聞きしたき事が」
行基菩薩「ああ、ええよ、助六とやら。あのその前に、なあ、ちとええか」
小生  「はっ、何でありまするか?」
行基菩薩「そちには、女難の相が出ておる。カカさんはもしや悪人では?」
小生  「仰せの通りであるまする。間男の子を産んでしまいました」
    「その子、つまり私の弟が亡くなった日の事を、笑い顔で話していました」
    「私は三才で捨てられました、でも今となっては、むしろ良かったかと」
行基菩薩「三才で影を知り、その後、地獄を見たんじゃな。面に書いてある」
小生  「はあ、七才の時、山から鬼の様な女が来て、もぬけにされかかりました」
    「あの十年で萎れました。まるでセミが脱皮しそこねたみたいな男に」
行基菩薩「うむ、生母が夜叉、後釜が鬼か。そちは女難から始まっておるか」
    「南無観世音菩薩、ええか、女とは観音ぞ、夜叉も鬼も借りの姿ぞ」
    「逆もしかり、麗しき女も借りの姿、いかにでもなれようぞ」
    「助六よ、そちは肥やしを貰ったのじゃ、多いほどに良しじゃ」
小生  「菩薩様、私には人の心が見えませぬ。このすさんだ目には……」
行基菩薩「ええか、見ようとするな、むしろ見ぬが良い。心が見える訳がなし」
    「匂いをかぐが良かろう。人の心をかぐのじゃよ。匂いは誤魔化せん」
    「ええ人はええ香りの心を持っておる。逆は逆じゃて。これ人なり」
小生  「私の育ての婆やは、ええ匂い持っておりました。本当に、それはもう」
行基菩薩「よいか、そちは三つの肥やしをもらっておる。もらい過ぎじゃて」
    「その肥やしで、ええ花咲かせよ。夜叉も鬼も、本当は観音かもな」
    「良く聞けや、観音様は何にでも化けるぞよ、それを知ることよ」
    「人とは、人の心とはな、それは花じゃて、みな違う匂いだぞい」
    「花を愛で、育て、そして楽しむのじゃ。それで人は、救われるのよ」
小生  「人とは、花ですかえ。わかりました、花の心を知れゆうことですの」
行基菩薩「そちは、何の花が好きじゃ?」
小生  「はい、道端のすみれが好きです。あの紫が本当に美しいですて」
行基菩薩「では、すみれの様な女を求めよ、それが良い。では、な……」
小生  「はぁ、後まだ、あれは、あっ……」


そんなこんなで、夢は覚めてしまった。
夢では無かったのかもしれない、幻を見たのかもである。
あの助六は私だったのかもしれない、まあ、私にしておこう。
さあ、すみれを探しに行こう。人の心を見ようなんて、もう、どうでもいい。
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