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第一章 家族編

16話 みんな大好きでなかよし!

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あらすじ(リュカ視点)
お母さまが次男を産むことにかなりのプレッシャーを感じていたこと、父さまはお母さまを悲しませまいと思って僕を避けていたこと、兄さまが親に対して初めて反抗したのが、僕を生かすためだったこと。
これを知った僕は兄さまに感謝の気持ちを伝えようとするけど、言葉だけだと全然伝わらない。だから僕がアレン君にされたように兄さまのお鼻にちゅーして気持ちを伝えようとしたら、ズレてお口にちゅーしちゃった!
___________________

 周りを見渡すと、兄さまも父さまも……なぜかアレン君も、ピシッと石のように固まってしまっている。あれれ?なんでみんな固まってしまっているんだろう?
 どうしてみんなが固まっているのか理解できない僕は、助けを求めるように兄さまに視線を向けた。

 僕の目の前で驚いている兄さまの髪は、月の光でキラキラと輝いている。兄さまの目に溜まっている涙も、まるで青色の空で光る星のように見える。

 ……なーんて、詩的に考えていても仕方ない。とりあえず兄さまのすべすべほっぺに添えた手を離そうとすると、兄さまは急に僕のことを抱きしめてきた! 勢いがよすぎたせいで、僕はバンザイのポーズになる。しかもそのまま持ち上げられたせいで、僕の体はピーンと一直線になっちゃっている。

「そうだよね、罪を償って死ぬだけじゃ足りないよね! わかった、責任を取ってリュカのこと一生大切にするから!! ……大好きだよ、リュカ」
「う、うん! 僕も兄さまのことだいすきだよ!」

 なんだかこの短時間でいっぱい起きちゃったからよく理解できていないけれど、兄さまが大好きだって言ってくれたから、僕も大好きだよって伝えておいた! いつもの兄さまに戻ってよかった~!
 ピンっと上に伸びた手を兄さまの頭において、ぽんぽんと撫でる。

「兄さまはもう僕からはなれちゃだめだよ? ……ずっと僕のことすきでいてね?」
「もちろんだよ。でもそれだと、僕にとってご褒美になっちゃうよ」
「ん~よくわからないけれど、兄さまがそばにいてくれるならいいや!」

 兄さまの腰に足をかけて、顔をスリスリと押し付ける。兄さまはそれを甘んじて受け入れてくれる。でもさっきまで兄さまが地面に伏せていたせいで、おでこについてしまっている泥汚れが気になる……! じとーっとその泥を見ていると、兄さまがあっとした表情でそれを拭おうとした。

「兄さままって! 僕がするの!」
「リュ、リュカが汚れてしまうからだめだよ!」
「んふふ~これでおそろい!」

 そう言って、僕は兄さまのおでこに自分のおでこを押し付けた。だから僕と兄さまのおでこには同じように泥がついている。

「これはね、なかよしのあかしなんだよ。兄さまと僕がなかなおりしたのをみんなにみてもらうの!」
「そっか……そうだね、そう言われるとずっと落としたくないよ」
「ええ! それはちょっと……おふろにはいるときには、ちゃんとおとさなきゃだめだよ?」
「ふふ、どうしようかな」

 僕のせいで兄さまのおでこにずっと泥があるかもしれない。兄さまがお風呂で泥を落とすようにどうやって説得しようかと、さっきとは違って平和な悩みができてしまった。いや、かっこいい兄さまのおでこにずっと泥があるなんて大問題なんだけどね!
 ……ちょっと待てよ、おでこに泥があるのになんで兄さまはこんなにかっこいいんだ? 僕には理解できない前衛的なファッションとかも着こなしちゃうのかな?

 そんな風に考えが脱線してしまったとき、父さまが手持ちのふかふかなハンカチで僕たちの泥をきれいに拭ってくれた。

「私のおでこには泥がついていないからな。これでリュカたちのおでこに何もなくなったから、私も仲良しに入れてくれるか?」
「……たしかに兄さまも僕ももうついていないし、父さまのおでこにはなにもない……うん! 父さまもなかよし~!」

 父さまに手を伸ばし、んぎゅっと苦しくなるほど強く自分から抱き着く。僕は兄さまの方を向いて、誘うように片手を伸ばした。

「兄さまも! ほら!」
「ええ?」
「……おいで、クラウス」
「し、失礼します」

 父さまは今まで聞いたことがないような優しい声を出して、兄さまのことを呼んだ。兄さまはその声に誘われるように、だけど遠慮気味に父さまに抱き着く。父さまの眉間にはしわが寄っている。けど、ようやく僕は理解した。

 ……そっか、父さまは僕のことが嫌いだから眉をしかめていたんじゃないのか。もうこれは癖みたいなものだから、ずっと父さまの眉間にはしわがあるのか!

 ようやくそのことに気付くことができた僕は、へへっと笑う。つられるように、兄さまも父さまも笑う。幸せな空間。まさにその一言で表すことができた。

「……リュカ、クラウス、そろそろ帰ろうか」
「はい、父様。リュカ、僕たちは馬車じゃなくて馬に直接乗ってきたから、帰りは僕と一緒に乗馬することになるけどいい?」
「もちろん!! 兄さまとのれるなんてはっぴーです!!」

 ほわー!と感動して、今度はうれしくてバンザイしてしまう。そしたら、アレン君がおどおどとしているのが目に入った。僕はここまで迷惑をたくさんかけてしまったことを謝ろうと思い、てとてとと走ってアレン君のそばに行った。

「アレン君……いっぱいめいわくかけてごめんね?」
「あやまるなよ。なんかよくわかんねぇけど……家族と仲直りできたみたいでよかったな!」
「……あとはお母さまとも、なかなおりしたいのだけれど」
「あー、俺には貴族のことは全くわかんねえ。それって直接言うんじゃだめなのか?」
「ちょくせつ……」
「俺はこうしてほしいとか、これからはこうしてくれると嬉しいとか……そんな感じ? 冒険者やってるとさ、ソロじゃダメなダンジョンとかあんだよ。そんときに言いたいことがあったら、パーティ組んだやつと言い合いになるくらいまっすぐな言葉で伝えてる。相手の心に刺さるのは、まっすぐな言葉だけだ」

 まっすぐな言葉……。そう聞いて、今までお母さまに対して黙っていたのが馬鹿みたいに感じた。そうだよね、どうして今まで反抗してこなかったんだろうか。どうして僕から話し合いをしようと動かなかったんだろうか。「ゲームの世界だからどうせ展開を変えることなんてできない」と、僕の知らないところで勝手に制限をかけてしまっていたんじゃないのか?
 そうやって冷静に考えることができた。

「なんか説教みたいになってごめんな?」
「ううん、大丈夫だよ! 参考になったからありがとう!」

 アレン君は小さい子を褒めるように僕のことを優しくなでた。剣を扱う職だから手の皮が厚いはずなのにまったく痛くないし、むしろ安心感がある。

 へへ、うれしいな~! こんなにうれしいことが何回も起きたら、今日本当に僕は死んじゃうのかもしれないなぁ。でも死因がこれならなんだか許せちゃうかも!

 僕がニマニマしていると、優しくなでていたはずのアレン君の手が止まってしまった。どうしたんだろうと思ってアレン君の顔を見ると、さっきまで微笑んでいたはずの口がひくひくと動いている。

「アレン君……? どうしたの?」
「い、いや、今後ろは見ない方がいい」
「んん? どうして?」

 気になっちゃった僕がくるっと後ろを振り返ると、そこにいるのは父さまと兄さま。二人は笑顔を僕に向けている。兄さまに至っては、後ろにお花畑が見えるくらい優しい笑顔だ。どうしてアレン君は後ろを振り向かない方がいいって言ったんだろう?

「あ、そうだ! アレン君もおでこにどろがついていないから、なかよしだね! ぎゅーしよ!」
「い、いや、それやっちゃうと俺死ぬかもしれない」
「むむ~、よくわかんないけどぎゅー!!」

 そう言って僕はアレン君に向かって飛びついた。だけど、次の瞬間にはアレン君じゃなくて兄さまに抱っこされていた。……あれ、兄さまさっきまで向こうにいたよね? どうして僕のことを抱っこしているの?

「リュカ、それはだめだよ」
「兄さま! アレン君も僕たちとなかよしですよ!」
「……これは泥を拭った私が悪かった」
「そうですね。これはしっかり反省してもらいたいです。ところでアレン君……でしたっけ? 僕のリュカを助けてくれたこと、またリュカを襲おうと勘違いしてしまったことは謝罪します。ただ、これほど夜遅くになるまで何をしていらっしゃったのでしょうか?」
「急募の薬草採取クエストがあったから、金集めのために来ていただけだ。よくある薬草だから証拠になるかわかんねぇけど、これがその薬草」

 アレン君はそう言って、僕を見つけたときに手に持っていた薬草をポーチから取り出す。葉っぱが濃いピンク色をしているから、なんだか毒々しくて気持ち悪い。

「ふむ、これは蒸すと解熱効果がある薬草か。それに夜の時間帯は報酬が高くなるから……嘘はついていないようだな」
「だ、だからアレン君はわるいひとじゃないんだよ!」

 みんなしてアレン君をいじめるなんてだめなんだからね!と、心の中でぷんぷん怒る。

「んじゃあ、そろそろ時間がやばいのでギルドに戻っても大丈夫か? あ、違う。ですかね……?」
「ああ、問題ない。リュカの持っている魔法陣が発動していないのが、君が加害者ではない何よりの証拠だからな」
「そうですね、あの時は頭に血が上ってしまっていて気付くことができませんでした。反省します」
「アレン君さいごまでごめんね! ばいばーい!!」

 去っていくアレン君に大きく手を振る。もうこっちを見ないかなーと思うほど急いでいたのに、アレン君は小さく手を振り返してくれた。それがうれしすぎた僕は、手を振る動作に合わせて体と足もブンブンと揺らしてしまった。
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