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藤色の花木は (ガブリエルside)

疲れ (ガブリエルside)

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「おーい!ガブリエル!!」

背後から追いかけてきたのは、かつて共に騎士見習いとして鍛錬に励んだ友人──……リュダだった。彼とは同じ時期に騎士見習いとなり、そして今は同じ「騎士」だ。といっても、働く場所は少し違う。彼はいわゆる「見張り役」で、王都郊外にある防壁の警邏を主な仕事内容としているから、そう滅多に王城で会う事はないのだが。

「お前がなんでここにいるんだ?て顔してるな」
「……ああ」

頷くと、リュダは白い歯を見せてしたり顔で笑った。

「いやあ、今日は上司にくっついて定例報告って奴だよ。商人の荷馬車の交通量とか。最近はどこへ赴く人間が多いとか、まあそんなとこ。物騒な報告ってわけじゃない」
「……そうか」
「……んー?」

何故か、リュダが顔を覗き込んで来る。突然何なのか。疑問を込めて見つめ返すと、リュダは笑った顔を僅かに曇らせた。

「なあ、お前。寝れてる?……それとも疲れてる?」
「……」
「王女殿下の護衛騎士に任命されてちょっと経つけど。なに、そんなにきついの?」

その問いに、ガブリエルはすぐさま首を振った。王女殿下の護衛という仕事は責任重大ではあるが……眠れないほど大変かと聞かれるとそうでもない。ただここ最近、リュダのように「眠れないのか」「疲れているのか」と問われることが多い。王女殿下、上司である騎士達、同僚となった騎士からもそう問われる。他人に気疲れを気取られるなんてことは今までになかった。自分は元来、感情が表に出る人間ではないし……まして疲れなど、厳しい鍛錬に耐えて、疲労困憊していたとしても「どうしてお前はそんな平気な顔をしていられるんだ」と周囲から言われるくらいなのだが……。

しかし今回は体力面で疲れているというより……精神面で疲れていると言った方が正しいだろう。

騎士任命式からすでに数月の時間を要してはいるが、未だに婚約者──……ロメリアとは顔を合わせていない。

どうして、彼女に会えないことで己が精神的に疲れているのか。おそらく不安によるところが大きい。彼女は騎士任命式の折に、突然気絶したのだと言う。その後体調は悪くもないし良くもないという状況を繰り返しているのだそうだ。公爵家の人間は皆とても口が固く、それ以上のことは何も言わなかった。公爵自身は『最近、根を詰めて勉学に励んでいたからかもしれません』と言っていたが、その割には自身でも納得していない様子だった。

もしかすれば、彼女の体調不良の原因はまだ見つかっていないのかもしれない。噂によれば公爵家が血眼になって優秀な医師を探しているという。こちらからも二度ほど優秀だという医師を寄越したが、反応はこちらが期待した通りのものではなかった。

「おーい!ガブリエル!聞いてんのか?」

呼びかけられて、ガブリエルは意識を目の前のリュダへと戻す。
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