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2人の距離
政略結婚
しおりを挟むしかし、ロメリアはまだその素質に気づいていない。
「はい。今日の講義はここまで、です。よく頑張りましたわ、お嬢様。いつもは最低でも10回はあくびをしているというのに……今日は1度もあくびが出ませんでしたわね。よく集中しておられる」
普段、めったに褒めない女史が笑顔で褒めると、ロメリアは、ぱあぁと花が咲くように笑って「えへへ!だって今日はガブリエルのことだと思いながら聞いていたんですもの!」と言葉を返した。
「お嬢様は本当に婚約者様のことがお好きなのですね」
「ええ、もちろん!ちょっと無愛想だけど……あんなにかっこいい人はいないわ」
「……微笑ましい限りです。……好いた方と婚約者でいられることはとても幸福なことなのですよ。とても珍しいことなのです」
穏やかな口調ながら、どこか哀愁を帯びた声音が気になって、ロメリアはどうしたのと尋ねた。
「丁度良いですから、少しお話しなくてはなりませんね。……ロメリア様とガブリエル様の婚約は政略結婚と呼ばれるものです。それはご存知ですか?」
「ええ、もちろん」
「反して、恋愛を経て結婚することを、恋愛結婚と言います」
「恋愛……結婚」
響きがとても素敵だ!とロメリアは目を輝かせる。
その反応を予期していた女史は、ふっと嘆息すると「いいですか」と少し言葉を強めた。
「しかしながら、この国のほとんどでは市井の者以外……恋愛結婚することはかないません。なぜだかお分かりになりますか」
「……お家同士のため?」
おずおずと答えたロメリアに女史は「大正解です」と満足気に答える。
「大抵、家同士の利益のために結婚があるのだと言う認識が定着しています。ですから、お嬢様のようにお相手の方を一途に愛せるのはとても珍しいことなのです」
「……そっか」
ロメリアは、幼い頃からガブリエルが好きだったので、この結婚が政略結婚であるという認識がとても薄かった。ガブリエルの方はおそらく政略結婚だという認識が強い。それは見るより聞くより明らかだ。
そのことを思い知らされて、ロメリアはしょんと肩を下げる。
「お嬢様」
「……なあに?」
「この世の中で、1人を愛せることはとても幸福なことなのです。説教じみてしまいますが、どうかその幸福を手放さないでくださいまし。どんなことがあろうとも……」
一体、どうしてそんなことを言うのだろう?とロメリアは不思議に思う。自分が自分の意志でガブリエルから離れるなんて……そんなこと絶対にありえない。
今だってこんなにも会いたい。恋しい。愛したいと思うし、愛して欲しい……そう思うのだから。
「……っ」
ズキリ、と頭が痛くなる。
最近はこういうことが増えた。
検査を受けたが異常はないという。
ロメリアは一抹の不安を覚えながらも、女史の言葉に素直に頷いた。
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