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第5話

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「……え」


一瞬、分からなかった。何を言われたのか。

だけど、言葉を理解した途端に、頭の中が混乱に陥った。なんなら理解なんて出来ない方が良かったのかもしれない。


(なんで、なんで、急に)

何て答えればいいのか、分からない。もちろん「絶対に嫌だ」と答えたいが、ユシスがいたずらにそんなことを聞いてくるとも思えなくて。

つまり、その言葉はユシスが思考した結果ということで。

そしてそういう思考に至ったということは。つまり。

(つまり、ユシスは私のことが嫌いになったということ?)

その答え以外に何があるのだろう。考えても、考えても、その答えにしか辿り着かない。

だけどどうしてこんなにも急に。

少なくとも数日前に会った時には、普通だった。

いつも通りに、彼は照れながら「今日もあなたは世界で一番綺麗です」と照れ臭そうに伝えてくれた。それなのに。この数日でいったい何が変わったというのだろう。

(ううん、あったじゃない。この数日の間に、アラナ姫が来たんだわ)

そう。そして王女はパーティーの時でさえ、ユシスにべったりなのだから。きっと王城の中ではもっとべったりだったのかもしれない。いや、べったりどころではない。もしかしたら夜中にユシスの部屋に入り込んで、誘惑したのかも。

「……っ!」

嫌だ。想像するだけでも、こんなに苦しいのに。もし本当にそうだったとしたら。息苦しさに倒れてしまう。

「……ユシス……っ……ユシスは、ルルのこと……嫌いになったの?」

幼い頃の口調で。縋るようにルルは問いかけた。その紫目からは大粒の涙が零れて、月光に煌めき落ちていく。

「いやよ。どうして?……ルルは、ユシスのことが大好きなのに……っ……」

涙で視界がぼやけて、ルルはどんどん自分が情けないように思えてきてしまった。いつまでも泣き虫ではいけない。幼いままではいけない。

そう思って、今まで国の第二皇子であるユシスに相応しくあれるようにとたくさん努力を重ねてきた。辛くても頑張ることが出来たのはユシスがずっとルルの味方で、大きな愛情を注いでくれたからだ。それなのに……ユシスはもう愛してくれないというのか。

「──……よかった」
「え」

ふいに、ユシスは緊張に強張った顔をとろけさせて、ルルを抱きすくめた。
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