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花籠の祭典

落ちぶれて

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リンッと涼やかな音がした。その音はまるで神の訪れを告げるような洗練された響きを持つのに、今のセレーネにはひどく空虚な響きに感じられて、耳から臓腑を抉られるような心持ちがした。

「……へえ、そんな恰好をしているとそれなりに色っぽく見えるんだなあ」

ゾクゾクとするような甘く耳障りな声音が、紗の向こう側から聞こえてきた。黒くぼやけた影が紗の間を縫うように歩いてくる。

徐々に近づいてくる明瞭な影。その姿に、セレーネは嫌というほど見覚えがあった。

「……ロイ皇子」

数年前。意気揚々と婚約破棄を告げ、セレーネの持つ全ての財産を奪おうとした。しかし結局、エルゲンの人徳に適わず、セレーネの財産を奪うことも出来ずに自らの評判だけを落とした憐れな皇子。

「久しぶりだな、セレーネ」

にこやかに笑うロイは、寝台に腰かけると足を組んで、舐め回すような視線をセレーネに投げた。

彼と婚約者であった頃。

セレーネはロイのことを「気が弱い癖に妙に偉そうな男」だという印象を抱いていた。銀髪と翡翠の瞳は美しいが、いずれ大人になれば性格が表に出て嫌な顔立ちになるだろう、と。それでもセレーネがロイの婚約者であり続けたのは、ただ単に「いずれ皇帝になる皇子の婚約者」であることに誇りを持っていたからである。

しかし、もしセレーネが祖父であるエダンに頼めば、例え相手が皇子であろうとも、婚約破棄などいつでも出来た。

元々この婚約は、皇帝夫妻がエダンに懇願して結んだものだったからだ。セレーネがもし皇子に嫁ぐことになれば、一国を興せるほどの持参金が手に入る。数代前から国庫の不足に喘いでいた皇帝夫妻からしてみたらエダンの持つ財は、垂涎ものだったのである。

しかし、その思惑はロイのせいで台無しになってしまった。神官長エルゲンの言によって人々は彼を「愚かな皇子」と烙印を捺し、ましてセレーネの持つ財産さえ取りこぼした。

皇帝は怒り、そしてロイから皇位継承権を剥奪し、優秀な第二皇子に継承権を与えた。

と、そこまでがセレーネの知る話だ。

目の前で寝台に腰かけ、下賤な笑みを浮かべるロイからはすでに皇族の品位が失われているように見える。それを哀れだとは全く思わない。

「相変わらず……生意気な目をしている。だが、それも今日までだ。あと数時間後には、お前は俺の足元に跪いて、泣き咽びながら愛を乞うようになる」

あはははは、と狂ったように笑う皇子の目からは正気の光が伺えない。ミリーナと揃ってこの皇子もどうやら狂ってしまったらしい。
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