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花籠の祭典
奇妙な部屋
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このままでは「迎え」の時間が来てしまう。
ミリーナが焦りを感じ始めた時、ふいに扉の外が騒がしくなった。
「お、来たみたいだな。それじゃあ、お嬢さんそろそろそこの「玩具」とはお別れだ」
男に告げられたミリーナは地団駄を踏む。結局何も出来なかった。
しかし、ミリーナが何かするまでもなく、セレーネは地獄に堕ちる手筈になっているのだ。その事実だけが、ミリーナの心を落ち着かせる。
「さようなら、お姉様。もう二度と会うこともないわ。せいぜい……壊れるまで可愛がってもらえるといいわね」
セレーネの手から手錠が外される。下卑た微笑みを浮かべるミリーナを見つめながら、セレーネは「やはり黒幕がいるらしい」と冷静に納得してしまった。
「さ、それじゃあもう1回。おねんねだな」
「!?」
不意をつかれて、セレーネはまたしても眠りについてしまう。
長い睫毛が閉じられると、影が伸びる。白磁の肌は青ざめているものの、顔だちはやはりどこまでも儚げで美しい。
「……なあ、運ぶ時にさあ。ちょっと味見してもいいと思うか?」
「いいんじゃねぇか。バレない程度になら」
「馬鹿野郎。お前らのバレない程度は信用ならねぇ。前にもそう言って、手を出して依頼主を怒らせたことがあったろうが。せめてあの方がこのお綺麗な玩具に飽きてからにしろよ」
注意されて、興奮気味に話していた男達は舌打ちするものの、本気で逆らおうとはしなかった。
セレーネが目を開ける前に耳で聞いたのは、女の叫び声。そして野太い男の嬉々に満ちた狂声と同時に耳を劈くような、鋭い音。
しばらく目を開けられず、セレーネは、ただ聞こえてくるそれらの不気味な音に耐えるしかなかった。
やっと目が開けるようになった頃、セレーネは始めて自分が露出の高い服を着せられ、両腕を後ろ手に縛られていることに気がついた。
「!?」
口には布が当てられている。しかしこれなら声は出せそうだと思ったのだが、何故か喉から声が出ない。
半分パニックになりながらも、セレーネは周囲を見渡した。そこは先に閉じ込められていた部屋とは違い絨毯が敷かれ、天井からは色鮮やかな紗が垂れ下がっている。寝台もあれば椅子もある。
しかし、セレーネは落ち着くことなど出来なかった。
(……すごく、奇妙な部屋だわ)
そう。とても整えられてはいるのである。しかし、お世辞にも品がいいとは言えない。天井から折り重なるようにして、垂れ下がる紗は、まるで何かを覆い尽くそうとしているかのようだ。
得体の知れない恐怖が、セレーネの背筋を伝う。
ミリーナが焦りを感じ始めた時、ふいに扉の外が騒がしくなった。
「お、来たみたいだな。それじゃあ、お嬢さんそろそろそこの「玩具」とはお別れだ」
男に告げられたミリーナは地団駄を踏む。結局何も出来なかった。
しかし、ミリーナが何かするまでもなく、セレーネは地獄に堕ちる手筈になっているのだ。その事実だけが、ミリーナの心を落ち着かせる。
「さようなら、お姉様。もう二度と会うこともないわ。せいぜい……壊れるまで可愛がってもらえるといいわね」
セレーネの手から手錠が外される。下卑た微笑みを浮かべるミリーナを見つめながら、セレーネは「やはり黒幕がいるらしい」と冷静に納得してしまった。
「さ、それじゃあもう1回。おねんねだな」
「!?」
不意をつかれて、セレーネはまたしても眠りについてしまう。
長い睫毛が閉じられると、影が伸びる。白磁の肌は青ざめているものの、顔だちはやはりどこまでも儚げで美しい。
「……なあ、運ぶ時にさあ。ちょっと味見してもいいと思うか?」
「いいんじゃねぇか。バレない程度になら」
「馬鹿野郎。お前らのバレない程度は信用ならねぇ。前にもそう言って、手を出して依頼主を怒らせたことがあったろうが。せめてあの方がこのお綺麗な玩具に飽きてからにしろよ」
注意されて、興奮気味に話していた男達は舌打ちするものの、本気で逆らおうとはしなかった。
セレーネが目を開ける前に耳で聞いたのは、女の叫び声。そして野太い男の嬉々に満ちた狂声と同時に耳を劈くような、鋭い音。
しばらく目を開けられず、セレーネは、ただ聞こえてくるそれらの不気味な音に耐えるしかなかった。
やっと目が開けるようになった頃、セレーネは始めて自分が露出の高い服を着せられ、両腕を後ろ手に縛られていることに気がついた。
「!?」
口には布が当てられている。しかしこれなら声は出せそうだと思ったのだが、何故か喉から声が出ない。
半分パニックになりながらも、セレーネは周囲を見渡した。そこは先に閉じ込められていた部屋とは違い絨毯が敷かれ、天井からは色鮮やかな紗が垂れ下がっている。寝台もあれば椅子もある。
しかし、セレーネは落ち着くことなど出来なかった。
(……すごく、奇妙な部屋だわ)
そう。とても整えられてはいるのである。しかし、お世辞にも品がいいとは言えない。天井から折り重なるようにして、垂れ下がる紗は、まるで何かを覆い尽くそうとしているかのようだ。
得体の知れない恐怖が、セレーネの背筋を伝う。
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